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第十五章

エルフに嫉妬

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 翌日はオフ明けなのでリカバリーの日だ。コンディションを整えるのがメインなので練習開始も遅く設定されており、試合に出た選手も余裕の表情で練習グランドに出て身体を動かしていた。
「難しいが一歩一歩確実にー!」
 とは言えガンス族戦への準備は始まっている。選手達はザックコーチの号令に合わせて複雑に配置された駕籠の間を縫うように走り抜けていく。
「うーん、惚れ惚れするなあ」
 アカリさんのレポート、そしてナリンさんやジノリコーチの分析によるとガンス族は直線的なチームだ。スプリント短距離疾走の回数も走行距離も多い。
 但し、細かな方向転換は得意ではない。アローズとしてはガンス族の勢いをそのまま受けるのではなく、少し角度をずらして逆を取る――戦術用語では矢印を裏返す、等と言う――事を狙いたい。その為は急停止や方向転換をスムーズに行えるようなボディコントロールが必要で、それを養えるようなトレーニングを行っているのだが……。
「正直、羨ましいわ……」
 エルフの皆さんは難なく、高難易度な障害物競走の様なコースをクリアして行った。
「何がですか?」
 トレーニングを隣で見守るナリンさんに独り言を聞かれてしまった。
「いえ、もし俺もあんな風に動けたら、パルクールとかやってみたかったなあ、と」
「パルクール……ですか?」
 謎の単語に首を傾げるナリンさんに軽く説明をする。
「それは面白そうな遊びですね!」
「ええ。パルちゃんはクール! でパルクールと覚えれば良いですよ」
 と言ってもナリンさんは清水エスパルスのマスコットなんて知らないだろうけどな!
「しかし……我々の場合は森の中を走り回っていれば自ずとそのパルクールとやらをやっていますし」
 あ、そりゃそうか! 特にデイエルフの皆さんは日常的に森を巡回して木の根を飛び越え岩に登り……ってやってるもんな。
「じゃあちょっとメニューを変えて貰う必要があるかもですね。あれ? でもあれ……」
 ザックコーチと相談しようかとグランドへ戻した視線の先で、誰かが急に踞るのが見えた。まさか河童の川流れ的にそういうの得意な筈のエルフが障害にぶつかってしまった!?
「ルーナ! おい、しっかりしやがれ!」
 ティアさんがそう叫びつつ駆け寄る。なんと、辛そうにしているのは意外な事にフィジカル自慢のルーナさんだった。
「医療班、来て下さい! みんなは練習に戻って!」
 俺もそう指示を出しつつルーナさんの元へ走る。見た所、外傷は無い様だが顔色はすこぶる悪そうだった。
「ショーキチ、ごめん。今日は休んで良い?」
「謝らなくて良いよ、もちろんだよ! 歩ける?」
 どうやら話す程度の元気はあるみたいだ。俺はルーナさんが静かに頷くのを見届けると後ろに下がって後は医療班に委ねた。
「ルーナはどうしたのじゃ?」
「ちょっと昨日からあまり元気がないみたいで……」
 次の練習の準備をしていた為に状況の把握が遅れたジノリコーチが俺に近寄り訊ねる。もっとも、俺も俺で特に説明できる訳でもなかった。
「後で確認して夜のコーチ会議で」
「そうじゃの。分かった」
 ルーナさんを欠くとなると大きな影響が出る。俺はジノリコーチと相談する事を約束し、気を取り直して練習の指導へ戻った。

 何が起きようともいざリーグ戦が始まったらショウマストゴーオン、チームは動き続けなければならない。明日はオーク戦を振り返って修正すべき点に手をつけ、明後日はチーム戦術の熟成、明明後日はガンス族への対策を植え付ける……という予定だ。
 その全てでコーチ陣は連携する事になっているが、各練習においては個々に主担当が決まっていた。例えばチームの修正点は選手達について最も詳しいナリンさんが、戦術については俊英ジノリコーチが、相手チームへの対策についてはアカサオのスカウティングレポートを元に俺が、といった具合だ。
 そしてザックコーチとニャイアーコーチがフィジカルとGKのコーチとしてその都度、助言を与える。そういう段取りの中で俺は自分の担当である相手チーム、ガンス族について監督室に資料を並べて読み込んでいた。
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