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第十四章
サンドーできないやり方
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「ナリンさん、後ろお願いします」
「了解であります!」
俺はナリンさんに後方確認をお願いすると、センターサークルのど真ん中まで歩き、エルフ側に背を向け仁王立ちでオーク側を睨みつけた。
「ブヒヒ?」
オークの選手たちの何名かやドラゴンの審判さん――今日もストックトンさんではなくホナセックさんという小柄なドラゴンさんだ――の視線が俺に集まる。ウォーミングアップはピッチを半分に分けそれぞれ使用できるエリアが決まっているが、俺はギリギリこちら側に立っており反則ではない筈だ。
「ブー! ブー!」
オーク側のサポーターがその姿を挑発ととってか軽くブーイングを浴びせてきた。そしてオークの選手たちも……遠慮ない視線を浴びせてくる。どうやら作戦は成功のようだ。俺は力を込めて腕を組みながら、それらを全身に浴びていた。
今回に限らず今後もだが、俺は試合前ピッチでのウォーミングアップ時は、自チームではなく相手チームを見る事に決めた。
一つには……試合をするにあたって、やるべき事はやり尽くしたし自分たちの事はもう十分に分かっている。だが相手チームの状態ややり方は、蓋を開けてみるまでは分からない。だからギリギリまで情報収集したいのだ。
二つには……やはり陽動や挑発の意味があるのを否定できない。彼女らもプロだし本当にメンタルが万全であればこんな安い手段は通用しないだろう。だが中には自信や体調に不安を抱えて試合に挑んでいる選手もいるだろう。そういう選手が相手チームの監督にジロジロと見られたら? やはり少しは動揺するだろう。
そして三つ目……これは実は今回だけの事だ。
「流石にきついな」
オークの選手達の目が集まるのを意識しながら、俺はネクタイを緩めジャケットを脱いでシャツの袖をまくり上げた。
「ひゃっひゃっひゃ! それは良かったじゃないか! これでショーキチも異世界から来た人間のノルマをまた一つ、達成したじゃん!」
話は昨日の夕方まで遡る。居心地の悪い前日公開練習を終えた俺は、監督室まで最後の打ち合わせに来ていたスタジアム演出部のステフとノゾノゾさんにその日の出来事を話していた。
「何だよそのノルマって?」
「物欲しそうな奴隷商人の集団に身体をジロジロ見られるの」
「オークの選手達は奴隷商人じゃないしそもそもそんなノルマはねえよ!」
俺はステフにそう突っ込んだが、物欲しそうな視線を浴びせかけられたのは否定できなかった。
「ふうん。でもそれ、使えるかもしれないね」
俺たちのやりとりを楽しそうに聞いていたノゾノゾさんがふと、口を開く。
「何ですか、それ?」
「んー。例えばさ……」
ノゾノゾさんはそう言いながらおもむろに上着を脱いだ。
「うわっ何を!?」
「大丈夫、見せブラだから。これ明日の衣装! 可愛いでしょ?」
慌てて目を覆う俺にノゾノゾさんが楽しそうに笑う。しかし
「スポーツブラだからエロくない」
と言ったリーシャさんといい、この世界の感覚はちょっと分からないな!
「あ、明日の衣装ですか? ちょっとセクシーが過ぎるような……」
「近くで見ればね。でも殆どのお客さんはスタンドからだから、実際はそれほどでもないよ?」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。それにこの世界には望遠レンズで際どい所を接写するようなヤツもいないだろうし。
……いないよな? たぶん。
「でもね。会議中、僕がずっとこんな格好でいたら君はどう?」
「えっ!?」
ノゾノゾさんはそう言うと腕と胸をテーブルに乗せ、少し身体を乗り出してきた。
「えっと、えっと……」
もともと豊かなノゾノゾさんの胸が更に盛り上がり強調される。
「ねえ? ドキドキする? 会議に集中できる?」
無茶言わんでくださいよ!
「えっと……できません」
「でしょ? それと同じ事をオークにも仕掛けられないかな?」
「なるほど! それか!」
ノゾノゾさんがそう言うと、目の前の絶景で頭が回らない俺より先にステフが叫んだ。
「つまりショーキチという餌を更に魅力的にして、ヤツらの前にぶら下げるって事だな!」
「そゆこと! イェイ!」
ノゾノゾさんはそう言うとステフと楽しそうにハイタッチをした。その衝撃で揺れる胸に多少、目を奪われながらも俺も少しづつ頭が回り始める。
「ちょっと待って。俺を餌にして集中力を削ぐ、てのはまあ分からないでもないけどさ。その物色はもう今日のアレで粗方、終わってる気がするんだ」
自分で言うのも何だがもともと大して見所がある餌でもないし、これ以上俺を気にするなんて事はない筈だ。
「だからそこはさ、『更に魅力的にして』って言ったろ?」
ステフがそう言うとノゾノゾさんはそれに併せて妖艶に笑って続く。
「そうそう。もともと僕は十分、魅力的だったけど、この衣装で君も更に目が離せなくなったでしょ?」
要約すると『胸、見てたでしょ?』て事だがノゾノゾさんはかなり慈悲のある言い方をしてくれた。
「まあそれは、まあ」
「だから君もマッチョな感じになって、オークさん達をもっと魅了するんだ! パワー!!」
ノゾノゾさんはそう言ってボディ・ビルダーさんがするようなポージングを何点か見せた。可愛い感じの女の子が勇ましいポーズをとるのって何か良いよね。あとオークさんてやっぱり基本的にそういう系が好みみたいだな。 ……じゃなくて!
「いやいや! 納得できない諸々を飲み込んだとしても、いくら何でも一晩じゃ無理でしょ!」
「そこはまあYO! やりYO! があるんだYO!」
「ヘイヘイ、ノゾノゾそれを言っちゃって!」
ノゾノゾさんとステフはそこからフリースタイルラップである計画を語り出した。正直、めっちゃ分かり辛くて普通に説明して欲しかった……。
「了解であります!」
俺はナリンさんに後方確認をお願いすると、センターサークルのど真ん中まで歩き、エルフ側に背を向け仁王立ちでオーク側を睨みつけた。
「ブヒヒ?」
オークの選手たちの何名かやドラゴンの審判さん――今日もストックトンさんではなくホナセックさんという小柄なドラゴンさんだ――の視線が俺に集まる。ウォーミングアップはピッチを半分に分けそれぞれ使用できるエリアが決まっているが、俺はギリギリこちら側に立っており反則ではない筈だ。
「ブー! ブー!」
オーク側のサポーターがその姿を挑発ととってか軽くブーイングを浴びせてきた。そしてオークの選手たちも……遠慮ない視線を浴びせてくる。どうやら作戦は成功のようだ。俺は力を込めて腕を組みながら、それらを全身に浴びていた。
今回に限らず今後もだが、俺は試合前ピッチでのウォーミングアップ時は、自チームではなく相手チームを見る事に決めた。
一つには……試合をするにあたって、やるべき事はやり尽くしたし自分たちの事はもう十分に分かっている。だが相手チームの状態ややり方は、蓋を開けてみるまでは分からない。だからギリギリまで情報収集したいのだ。
二つには……やはり陽動や挑発の意味があるのを否定できない。彼女らもプロだし本当にメンタルが万全であればこんな安い手段は通用しないだろう。だが中には自信や体調に不安を抱えて試合に挑んでいる選手もいるだろう。そういう選手が相手チームの監督にジロジロと見られたら? やはり少しは動揺するだろう。
そして三つ目……これは実は今回だけの事だ。
「流石にきついな」
オークの選手達の目が集まるのを意識しながら、俺はネクタイを緩めジャケットを脱いでシャツの袖をまくり上げた。
「ひゃっひゃっひゃ! それは良かったじゃないか! これでショーキチも異世界から来た人間のノルマをまた一つ、達成したじゃん!」
話は昨日の夕方まで遡る。居心地の悪い前日公開練習を終えた俺は、監督室まで最後の打ち合わせに来ていたスタジアム演出部のステフとノゾノゾさんにその日の出来事を話していた。
「何だよそのノルマって?」
「物欲しそうな奴隷商人の集団に身体をジロジロ見られるの」
「オークの選手達は奴隷商人じゃないしそもそもそんなノルマはねえよ!」
俺はステフにそう突っ込んだが、物欲しそうな視線を浴びせかけられたのは否定できなかった。
「ふうん。でもそれ、使えるかもしれないね」
俺たちのやりとりを楽しそうに聞いていたノゾノゾさんがふと、口を開く。
「何ですか、それ?」
「んー。例えばさ……」
ノゾノゾさんはそう言いながらおもむろに上着を脱いだ。
「うわっ何を!?」
「大丈夫、見せブラだから。これ明日の衣装! 可愛いでしょ?」
慌てて目を覆う俺にノゾノゾさんが楽しそうに笑う。しかし
「スポーツブラだからエロくない」
と言ったリーシャさんといい、この世界の感覚はちょっと分からないな!
「あ、明日の衣装ですか? ちょっとセクシーが過ぎるような……」
「近くで見ればね。でも殆どのお客さんはスタンドからだから、実際はそれほどでもないよ?」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。それにこの世界には望遠レンズで際どい所を接写するようなヤツもいないだろうし。
……いないよな? たぶん。
「でもね。会議中、僕がずっとこんな格好でいたら君はどう?」
「えっ!?」
ノゾノゾさんはそう言うと腕と胸をテーブルに乗せ、少し身体を乗り出してきた。
「えっと、えっと……」
もともと豊かなノゾノゾさんの胸が更に盛り上がり強調される。
「ねえ? ドキドキする? 会議に集中できる?」
無茶言わんでくださいよ!
「えっと……できません」
「でしょ? それと同じ事をオークにも仕掛けられないかな?」
「なるほど! それか!」
ノゾノゾさんがそう言うと、目の前の絶景で頭が回らない俺より先にステフが叫んだ。
「つまりショーキチという餌を更に魅力的にして、ヤツらの前にぶら下げるって事だな!」
「そゆこと! イェイ!」
ノゾノゾさんはそう言うとステフと楽しそうにハイタッチをした。その衝撃で揺れる胸に多少、目を奪われながらも俺も少しづつ頭が回り始める。
「ちょっと待って。俺を餌にして集中力を削ぐ、てのはまあ分からないでもないけどさ。その物色はもう今日のアレで粗方、終わってる気がするんだ」
自分で言うのも何だがもともと大して見所がある餌でもないし、これ以上俺を気にするなんて事はない筈だ。
「だからそこはさ、『更に魅力的にして』って言ったろ?」
ステフがそう言うとノゾノゾさんはそれに併せて妖艶に笑って続く。
「そうそう。もともと僕は十分、魅力的だったけど、この衣装で君も更に目が離せなくなったでしょ?」
要約すると『胸、見てたでしょ?』て事だがノゾノゾさんはかなり慈悲のある言い方をしてくれた。
「まあそれは、まあ」
「だから君もマッチョな感じになって、オークさん達をもっと魅了するんだ! パワー!!」
ノゾノゾさんはそう言ってボディ・ビルダーさんがするようなポージングを何点か見せた。可愛い感じの女の子が勇ましいポーズをとるのって何か良いよね。あとオークさんてやっぱり基本的にそういう系が好みみたいだな。 ……じゃなくて!
「いやいや! 納得できない諸々を飲み込んだとしても、いくら何でも一晩じゃ無理でしょ!」
「そこはまあYO! やりYO! があるんだYO!」
「ヘイヘイ、ノゾノゾそれを言っちゃって!」
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