上 下
232 / 624
第十三章

スワッグの原罪と現在

しおりを挟む
「問題ありまくりだぴい!」
 俺の説明を聞いたスワッグが嘴を尖らせて――て元から鋭く尖っているな――抗議の声を上げた。
「なんで? 楽しそうな子じゃん! 声も通るしルックスも良いし、アタシは気に入ったぞ!」
「ホント!? 嬉しいこと言ってくれるぅ!」
 スタジアム演出部部長補佐は異議があるようだが、その上役たるステフは秒でノゾノゾさんと意気投合していた。
「ノゾノゾは生粋の風の眷属、俺以上の根無し草で適当な性格をしているぴよ! それにサッカードウやアローズの選手の事は何も分かってないぴい!」
 風の眷属で根無し草、と聞くと脳裏にエアープランツみたいなものが浮かんでしまうが、たぶん関係ないんだろうな。
「知らんのはお互い様やん? 今からでも知ってけばええんやし。なあなあ、ノゾノゾねえさんも学校へ通うん? ナイトプールでめっちゃデカい浮き輪に乗ってたりするん? ワンナイトラブの相手の部屋からエナドリエナジードリンク飲んでそのまま出勤したりする?」
 レイさんがまた物怖じしない性格を発揮してノゾノゾさんを質問責めにする。てかなんだよそのパリピへの偏見。
「普段の僕が乗れるような浮き輪や泊まれる部屋はそんなに無いよ~。あったら良いんだけど。そうだ、こちらも君たちの事を知りたいんだけど」 
 意外と真面目に回答しつつ、ノゾノゾさんはスワッグの方を向いて片手を差し出した。
「トモダチをつかまえて心の中を調べる道具、出して」
「わ、わかんないっピ……」
 その迫力に押されたのか、スワッグはいつもと少し違う様子で答える。
「あ、アレのことだろ! トモダチ手帳! はい、どうぞ!」
 横で聞いていたステフがノゾノゾさんの要求していたモノに思い当たり、すぐさま差し出した。
「あーそうだった! そんな名前だったね! ステファニーさんありがとう!」
「良いって事よ! あ、呼び方もステフで良いぞ!」
「上司なのに?」
「そういう堅苦しいのは無しだ。な? スワッグ?」
 ステフそう呼びかけられたスワッグは反応せず、ただ小さくなって毛繕いを始めた。何だか可哀想でもあるな。ノゾノゾさんから聞いた感じでは彼女とスワッグは『悪戯小僧とそれを諫める近所のお姉ちゃん』みたいな関係だったらしいが。
「ふんふーん。スワッグ、頑張って集めてるじゃん。選手は……この辺りからか。ふむふむ」
 ページを次々とめくるノゾノゾさんではあったが、途中からやや眉を潜めチラチラとこちらを見てくるようになった。
「ねえスワッグ……は忙しそうだからステフ? これってみんなトモダチが自分で書いているんだよね?」
「ああ、そうだぞ。たまに馬とか子供とか字を知らない奴らの代わりにアタシが代筆する事もあるが」
「あーうちどんな事書いたっけなー? 一緒に見てええ?」
 ステフが返事をしレイさんがそれにのっかると、ノゾノゾさんはにっこりと笑ってポンポンと自分の膝を叩いた。
 ってそこかい!?
「失礼しまーす」
 レイさんはぴょんとノゾノゾさんの膝に腰掛ける。いや普通に乗るんかい!
「わお! レイちゃん良い匂い」
「わーい! リクライニング柔らかい!」
 ごめんちょっとツッコミが追いつかなくなってきた。
「でさ、レイちゃん例えばこれなんだけど」
「ほうほう、ふむふむ」
 ノゾノゾさんに促されてレイさんもトモダチ手帳を読み出したが、やがて彼女も眉を顰めてこちらを見るようになった。
「(好きなタイプ……『サッカードウに詳しい』『年下だけど包容力のあるタイプ』『ユーモアとインテリジェンスのある男性』やて!?)」
「(こっちなんてもっと露骨だよ? 『思いやりがある男性なら種族は問いません。人間でも可』だって)」
「(マジで!? アカン、思てたよりショーキチにいさん狙いのライバル多いやん!)」
「(あ、レイちゃんってもそこ狙いなんだ!?)」
 何を話しているのか分からないが、二人は随分と盛り上がっている。レイさん一人で判断してしまうのもどうかと思うが、どうやらノゾノゾさんと選手の相性も悪くない様だな。
「じゃあ大丈夫みたいだし、本契約からスタジアムで読む原稿までステフとノゾノゾさんで詰めて貰えますか?」
「おう、いいぞ!」
「おっけー!」
 俺がそう依頼すると二人は笑顔で応えた。
「あ、原稿と言えば……ノゾノゾさん言葉が堪能なのは分かってますけど、エルフ語の読み書きはどうなんですか?」
 俺は翻訳のアミュレットに頼り切っているが、彼女は自力で仕事のやりとりからエルフ語のラップまでやっていた。しかし文字の方はどれほどのもの何だろうか? 王城での仮契約の時はあまりしっかり確認していなかったな。
「僕は文字もいけるよー! と言うかエルフの国で働くんだから、その辺りを勉強してから来るのは常識だよね!」
 ぐさり! そう、DA・YO・NE~♪ って言ってる場合じゃないわ。
「それは良かった。じゃあ俺は監督室へ戻って仕事するんで、後はお若い者同士で……」
 その場にいるのは年上ばかりだが、痛い所を突かれたくなかったので俺はそそくさと食堂から退散した。
「やっぱ俺もエルフ語を勉強しようかな……」
 でも監督の仕事は忙しいし、俺にはナリンさんもいるし魔法の道具もあるし。そんな言い訳をしながらエルヴィレッジの夜はふけていった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

処理中です...