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第十三章

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「『ハイホーハイホー』仕事が好き? って『ハイローハイロー』寝言を言いな♪」
 軽食をかき込んで運河沿いに戻った俺が見たモノは、工具や食べ残しを叩いて音楽を奏でる巨人たち、軽快な節をつけてそう歌うさっきの巨人の女の子、そしてその歌に併せてひとわき背の高い巨人に「たかいたかいハイ&ロー」をされているノームの親方の姿だった。
「一体、何があったんですか?」
「ああ。巨人の作業員たちが食後に気持ちよく歌ってたらな、あの親方が『歌う暇があったら休みを切り上げて仕事をしろ!』とか言ったので、ああだ」
 俺が野次馬の一人に訊ねると、エルフの男性が楽しそうに答えてくれた。
「音楽と武力による労働ストライキみたいなもんですか……」
「なんだそりゃ? でもまあ、巨人の飯を邪魔したらああなるのも当然だよな」
 飯と言うか食後だと聞いたが……まあもしかしたら食後の休息も含めてのルーティーンみたいなものなんだろう。
「セルフじゃできないエルフの為に♪ 作るぜ足場! 奏でるぜハンズアップ!」
 巨人の女の子は自分たちの仲間だけでなく、野次馬のエルフたちにも呼びかけ始めた。
「言うじゃねえかお姉ちゃん!」
「いいぞ、もっとやれー!」
 彼女の声に苦笑しながらもエルフのみなさんが呼応する。何というかそうさせる何か――声の大きさやノリの良さ、あと純粋に彼女から湧き出すパリピ特有の明るさ――がこの巨人の女の子にはあった。
「いえーい!」
「仕事なんてまっぴらだー!」
 いつしか野次馬たちも巨人たちと一緒に手を上下ハンズアップさせ出鱈目に踊り叫んでいた。おそらく周囲の勤め人ならぬ勤めエルフも多数含まれている事だろう、と思ったらさっきのカフェの店員もいた。
 みんな、午後の仕事をしたくないんだな……。
「たっ助けてくれ~!」
 上空に投げられ下り際をキャッチされたノームの親方が悲鳴を上げた。まあ確かに彼は横柄な態度だったし昼休みを短縮しようとした事は悪いけど、仕事はしないといけないし、『ハイホーハイホー』と歌っているのはドワーフでノームではないし、濡れ衣だ。
 そして何より、俺も高い所は嫌いだ。助けるとしよう。
「ちょっとそこまで! 降ろしてあげて下さい!」
 俺が野次馬の列から飛び出しそう叫ぶと、キャッチ役の巨人が顔を見ながら言った。
「だから下ろして上げてやってるぜ?」
 いやそうじゃなくてね?
「あら? 君じゃない! 何か言うことでもある?」
 例の巨人の女の子がまたウインクしながら俺にそう言う。そして彼女がさっと腕を下げると、盛り上がっていた群衆や巨人、全てが静まりかえり俺の方を見た。
 え? ここは俺もラップみたいなのしなきゃいけない流れ?
「あーあー、ええっと……」
 何度が咳払いをして時間を稼ぎつつ周囲を見渡す。ふと上空で救いを求めるノームの親方と目が合い、腹を括って口を開く。
「励めど威張る空の親方、うるさいノーム♪ だけど分かる彼のやり方、しがない義務♪」
 俺は拙いながらもそう言葉を紡いだ。反応は半々、ブーイングと「お、意外とやるな?」といった感じだ。
「えーあっちの肩を持つんだ?」
 巨人の女の子は拗ねたように呟くと、しゃがんでイジケたような仕草をした。うん、まあ萌える風景ではあるよね。その姿勢でも俺より遙かにデカいんだけど。
「きさまらよくもこんな! くびじゃぞくび!」
 ちょっとテンションが落ちた所で、地面に降ろして貰えたノームの親方が口から泡を飛ばしながら叫んだ。
「何よ!!」
「まあまあ、落ち着いて!」
 俺は再び衝突しそうな両者の間に割って入る。自分で言うのも何だが、もともとコールセンターでクレーム処理をやってた上に監督業まで初めてしまって、すっかり「まあ落ち着け」のポーズが様になってきた気がする。
「親方さん。工期が押しているのは分かりますが、正当な休憩を短縮させるのは良くない。むしろ事故の元です」
 最初の俺の言葉に抗議の口を開きかけた親方さんだが、事故の元と言われると流石に少し黙り込んだ。
「巨人さんたち。休憩を短縮させられた事は不憫に思います。しかしその抗議として職場を荒らしたり実力行使に出たりするのは良くない」
 俺がそう言うと巨人の少女は周囲を見渡し、少し後悔したような表情を覗かせた。
「でもまあ究極の所は、無茶な仕事を要求した発注元が悪い。一番、責められるべきはそこです」
 ここまで意外と神妙に聞いてくれていた両者だが、最後の一言を聞いて少し馬鹿にしたような態度になった。
「ふん! そうやってよくしらないうえのせいにしてうやむやにするきなんじゃな!」
「そうだよ。僕らの言うことをちゃんと聞いてくれる責任者なんているわけないんだし」
 いやいるんだな、これが。ここに。と言うかこの巨人の少女、僕っ子なのか! ラップも嗜む建設業の僕っ子巨人ねえ。そっちこそ滅多にいない存在だぞ?
「いや、それがですね……」
 俺はそう言って仮面を外そうとして……少し止まった。
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