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第十二章

親友ホットライン

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『リーシャ、行くよー!』
 ユイノさんはシャマーさんからのバックパスをトラップしつつ叫ぶ。デス90の時と同じく、積極的にDFからのバックパスを受け取り逃げ道として機能していた彼女は、大きく手を挙げて合図を送り、親友へロングパスを送った。
「オフサイドは……ないであります! 今度こそ!」
 ユイノさんのパスをDFラインの裏、最後尾のDFよりGK寄りの位置で受けたリーシャさんを見て、ナリンさんが興奮しあるのかないのか分からない表現で叫ぶ。だがその気持ちは分かる。後半、リーシャさんはオフサイドの山を築いていたからだ。
 なにせ俺の指示が
「どれだけオフサイドにかかっても良い。ポストプレーもしなくて良い。好きなだけDFラインの裏を狙ってくれ」
だったから。
『ユイノ、ナイス!』
 ボールを上手くトラップしたリーシャさんはドワーフ陣のペナルティエルア真ん中やや左付近へドリブルで独走していく。
 FWとして本格デビューした初の対外試合、慣れない1TOP、アウェー……彼女に多くの指示を与える訳にはいかなかった。そして実際、まだ心の折れていないドワーフはDFラインを上げ、俺たちを真似たオフサイドトラップも利用し、裏に抜け出たリーシャさんをそれで何度も仕留めた。
 だがそれで良い。FWは幾らでも失敗できるが、DFはそうではない。FWは自分一人、ドワーフDFは高い位置、オフサイドになっても咎められない状況……。広大なスペースと心の余裕をリーシャさんは謳歌し、ドワーフ守備陣の集中力を削り続けた。その結果がこれだ。
『あの軌道……!』
 GKとゴールを自分の右斜め前、つまりキックの選択肢が最もある角度に置いたリーシャさんは、全く力むことなく滑らかに右足を振った。
『リーシャやったー!』
 シュートを放った瞬間にユイノさんはもう、そう叫んでいたという。ずっと一緒に練習してきた彼女には分かっていた。ゴールを外れるかに見えて急激に左に落ちて曲がるシュート――デス90でも決めたヤツ――だ。リーシャさんはそれを決して外さないと。
 後半26分。これで1-5と。

『リーシャお姉ちゃんスゴい!』
『おめでとう、リーシャ!』
『リーシャ! リーシャ!』
『ユイノ、こういうパスだったんだ! ユイノが欲しかったの……ごめん!』
 リーシャさんのゴールを祝福する輪に、最後尾からユイノさんが加わり抱きつく。いやゴールからゴール最後尾から最前線やぞ!? デス90の時も見たがめっちゃ走ったなユイノさん!
「ショーキチ殿、今回は流石に引き離すでありますか?」
 ナリンさんが苦笑しながら尋ねる。確かにミノタウロス戦ではユイノさんは負傷交代済みの選手だしデス90は紅白戦だったが、今はGKで他チームとの試合だもんな。
「いや、今回もそのままで。たぶん、余裕ありますから」
 俺はそう応えつつグランドのある場所を指さした。その場ではドワーフDFの一名が足を押さえて倒れていた。誰かと接触があった訳ではない。リーシャさんを追おうと反転しダッシュした所で、足が攣ったのだ。
『交代です。少しお待ちを』
 第四審判のリザードマンさんが話し合う俺達に何か言った。それを聞いたナリンさんの頷きでだいたいを理解する。
『ショウキチ監督、隠しているがティア君も限界だ』
「ショーキチ殿、ティアも代えた方が良いそうです」
「じゃあパリスさんを呼んで下さい。ティアさんの代わりに右SBに入って貰いましょう。あと相手を前からハメたいのでみんなに伝えて欲しい事があります」
「了解であります!」
『ショーキチ! 代わりに入るあの選手だが、一つ癖が……』
 ザックコーチの進言を通訳して貰って素早く指示を出す。と同時にナリンさんが走り出しジノリコーチも何か言ってきてボードの上で数字の書かれた駒を動かす。
 うーん、カオスだ。だがこの手のマルチタスク――クレーマーにきつく言われて泣き出したオペレーターさんの代わりに電話に出てクレーム対応しつつ、待ち電に出る人を差配し、機器の事で質問に来た後輩にマニュアルの該当ページを見せる――は苦手ではない。
「ショーキチ凄いね。これが和製ショートクタイシーか」
「いや聖徳太子は最初から日本人やろ!」
「その上ツッコミまでしてる……」
 通訳の為に対面の左SBの位置から来ていたルーナさんに思わず突っ込む。いや、通訳の為だけではない。彼女はこの後のハメ技に必要なのだ。
「突っ込ませているのは君でしょ! 遊んでないでこのボードを見て。パリスさんはSB慣れてないからルーナさんが肝心だし」
「はーい」
 そう言う間にエルフドワーフ両陣営の準備が整った。既に後半のこの時間で試合の趨勢は決してしまっているが、俺は攻撃の手――足か?――を休めるつもりはなかった。
 もう少し絶望を見て貰おう。
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