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第十章

スタメン談義その2

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「残りの中盤はマイラ、ダリオ、レイで、と既に話し合っています。ただマイラの左は決まっているのですが、ダリオとレイの位置については自分とショーキチ殿で意見が分かれる所でして」
 ナリンさんがジノリさんから黒板を受け取り、それぞれのパターンを書いた。ナリンさんが主張する
「TOP下:レイ 右:ダリオ」
と俺が主張する
「TOP下:ダリオ 右:レイ」
の二つだ。
「ほう。阿吽の呼吸のお二人で見解が違うのは珍しいな」
 ザックコーチが面白そうに笑った。
「そんなに阿吽の呼吸かなあ? あ、僕はニャリンの案に一票!」
 ニャイアーコーチがザックコーチの声に被せ気味に言った。
「あ、あたしも! レイさんが一番、輝くのは、こ、ここ!」
 サオリさんも首を伸ばしてそれに賛同しつつ、ダイヤモンドの頂点を鱗に包まれた指で指す。この2匹は推しに忠実だな……。
「まあワシもそう思うし普通は一番の選手をTOP下に置くじゃろう。だがお主には別の意見があるのじゃな?」
 ジノリコーチは俺の目を見ながらそう訪ねた。その瞳は
「さあ、納得させてみろ」
と問いかけてくるような光があった。
 俺は一つ、頷いて話し始めた。

「確かにここは攻撃の中心で、最も攻撃センスのあるレイさんを置きたくなる気持ちもあります」
 俺は中央に並ぶ2人のFWの更に真ん中、すぐ下を指さしながら言った。読んで字の如く、FW(TOP)の下だ。
 ここはボールが最も集まり易い場所であり、守備が免除されやすい場所でもある。そしてボールを持てば前にすぐパスコースが最低でも二つもあるし、それでいて自らドリブルやシュートも狙える。
 だから現実のサッカーでも花形のポジションであり、しばしばチームで一番上手い選手がそこを担う。漫画などフィクションでも多くの主人公ヒーローがここを戦場とする。……と言うかして、きた。
「ですがそれは『攻撃』だけなんですよ。他の3つ、『守備』と『ポジトラ』と『ネガトラ』ではレイさんだと弱点になる」
 さて復習の時間だ。守備はまあ良いとして、『ポジトラ』『ネガトラ』って何だっけ?
「自陣で守備に成功してボール奪ったら、まずカウンターを狙いますよね? その際は『遠くから狙ってくれ』と選手には言ってますから、FWを見てくれる筈です。つまり、こう」
 俺は適当な地点に丸を書いて『ボール奪取地点』とし、そこからFWまでの線を引いた。守備から素早く攻撃に移る局面、つまりポジティブトランジション、ポジトラだ。
「それが駄目なら次はレイさんを探す決まりです。こんな感じで」
 俺はチョークの色を変えてTOP下のレイさんへ線を引く。
「こうして見るとすぐに見つけられて便利です。線同士が近いから。でもそれは相手DFにも言えるんです」
 俺はFWの上に架空の相手DFを置き、その選手の空想上の視界を書き込んだ。
「逆襲を喰らいそうな時、DFはまず自分の担当であるFWを捕まえますよね? 次にボール。で、FWにパスが出なかったら次の選手へのコース。ところがこれだとFWへのコースもボールもレイさんへのコースも全て同じ視界内で捕らえられる」
 俺はそのDFから矢印を引っ張ってレイさんまで伸ばす。
「DFとしては自分がマークするFWを見ながら、同時にレイさんへ入るボールを苦労せず見る事ができます。だから場合によってはFWのマークを受け渡して、同じ勢いでレイさんにアタックをしかける事もできる」
 ついでDFの架空の視界内を斜線で塗りつぶし、そこからレイさんが逃げるような矢印を書いた。
「もちろん、その際にレイさんやFWが上手く動いてこの外へ出れば外すことができますが、移動距離の分スタミナが勿体ない。だったら最初から……」
 俺はまだ何も書いてなかったレイさんが右にいる方の黒板を取り出し、同じ図を書いた。
「……最初からレイさんが外にいれば良い」
 そこまで言って俺はコーチ陣にその二枚を渡した。みんながそれを見て考える間に次の図を新しい黒板に書く。
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