上 下
170 / 648
第十章

悪者になれない

しおりを挟む
「これって……」
 大きな分類で言えばビキニなんだろうが、角のある獣の頭部が鼠蹊部に鎮座し細い紐が腰を回って後ろで結ばれている。一方、胸の方は4本指の爪のある手が下から胸を鷲掴みにしているかのよう。
 白い骨とレイさんの藍色の肌がある意味お互いに映える引き立たせる関係になっているが正直、禍々しい。
「昔の特撮の色っぽい悪の幹部かよ!」
 俺は思わずそう叫んだ。
「えっ、このタイミングでその指摘!?」
 レイさんが彼女の立場としては正当な突っ込みを入れる。
「何ですか、特撮って?」
 ダリオさんが不思議そうに俺に訊ねる。
「えっと、地球で流行ってる物語で……説明難しいな。でもレイさんは知ってるんですね」
「まあ……ヨミケにあったから」
 レイさんはいまさら恥ずかしくなったのか、胸元を隠し照れた表情になりながら応える。
「ああ、支部長の所にソフビとかもありましたもんね。とは言えそのチョイスはどうなんすか?」
 レイさんはスタイル良いし骨水着そのものはセクシーだ。だがこの手の格好はもう少し年上のお姉さんタイプが着てこそのもので、彼女に合っているとは言い難い。
「だって! 姫様はリボンみたいな紐やし、シャマーねえさんは葉っぱビキニやん? それを上回るセクシーさとオチに足るボケを出さなアカンと思ったら……」
 レイさんは選択時の混乱を思い出すように言う。
「ウチかて迷走してるとは思たもん! でもショーキチにいさん今日は攻めてるし……」
 いやだからそれはレイさんが自分で勝手に決めた障害だって!
「別に攻めては……。あれ? 『リボンみたいな紐』と『葉っぱビキニ』って何すか?」
 ふとレイさんの言葉の中の不穏な単語に気づき訊ねる。
「支払いしてきたー。どうしたのみんな?」
 そこへシャマーさんが帰ってくる。
「お帰りなさい、シャマー。そうだ、ショウキチさんが私たちの水着も確認したいみたいですよ?」
 いやそう言ったつもりはないんだが……と否定するより先に、ダリオさんとシャマーさんはそれぞれの荷物の中から何かを取り出した。
 ダリオさんは赤いリボンでシャマーさんは葉っぱだ。いや違う、正確に言えばリボンで肝心な部分だけ隠すタイプの過激な水着と、同じく葉っぱで肝心な部分だけ隠すタイプの危ない水着だった。
「もしかして、お二方はサッカードウの試合で負けた場合は、それを着てセンシャをするつもりでいらっしゃる?」
「ええ。ショウキチさんも称賛して下さった可愛い水着ですし」
「別にセンシャだけじゃなくて、お願いしてくれたらこれでショーちゃんの部屋を掃除してあげても良いけど?」
 ダリオさんとシャマーさんは何を当たり前の事を? と言った表情でそう応えた。
「えっと、誰が称賛と?」
「ショウキチさんが」
「ショーちゃんが」
「僕が?」
「ええ」
「うん」
 そう言われてみれば俺がしたんだよな。実際は見もせずに。
「で、レイさんはそれを越えるインパクトを出そうとして、それを?」
「分かってるて! 滑ってんのやろ! もう恥ずかしいから脱ぐ!」
 自暴自棄になったレイさんはそう叫ぶとそのまま上の手から脱ぎ捨てようとする。
「あわわ、ストップストップ!」
「レイちゃん落ち着いて!」
「ショウキチさん、謝って下さい!」
 三名の人間とエルフの大人は慌てて未成年のエルフを宥めにかかった。
「ごめんレイさん! 古いけど悪役っぽくて良いですよ!」
「私はさっきからスタイリッシュだと思うと!」
「ショーちゃんもダリオも死体蹴り追い打ちはやめー!」
 俺達の言葉により表情を歪ませたレイさんを見て、シャマーさんが止めに入る。
「すみませんレイさん! 俺、実は競泳水着の方が好きです!」
 こうなったのは俺のせいだ。全く見ずに褒める事でこの難局を乗り越える……という安直な手に走った俺の。
「え? そうなん?」
 なので、恥を忍んで本当の好みを伝える事にした。
「はい。レイさんみたいな引き締まったボディには、白い競泳水着が似合うと思います。それは辞めて、白競泳にしましょう!」
 ダリオさんシャマーさんが
「あら、まー大胆ねー」
という表情で笑いを堪える中、そう言ってレイさんの表情を伺う。
「そうなんやー。ウチのボディ、引き締まってる?」
 レイさんはからかうような口調でそう訊ねてきた。
「はい、引き締まってます」
「いつの間に見たん?」
「まあ、ぼちぼちと」
 今やレイさんは全開で楽しそうで、俺は羞恥で真っ赤だ。
「ウチの競泳水着姿、見たい?」
「すっごく見たいです」
 恥ずかし過ぎて目は合わせられない。だがレイさんの機嫌が治っているのは分かる。
「そうかー。しゃーないなあ。じゃあそっちにしたるわ」
「はい、そうして下さい」
 いや正直、秒で機嫌が治るのは助かるが。
「ほな一番、格好良い競泳水着とってこよっと」
 レイさんは悪役骸骨水着姿のまま、売場へ向かった。もう突っ込む気力はない。
「あ、私もー」
「私もそうします。両方買えば良いですね」
 その姿を追ってシャマーさんとダリオさんも続いた。結局、その後は全員の競泳水着選びとその鑑賞会につき合わされる事となった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...