上 下
170 / 624
第十章

悪者になれない

しおりを挟む
「これって……」
 大きな分類で言えばビキニなんだろうが、角のある獣の頭部が鼠蹊部に鎮座し細い紐が腰を回って後ろで結ばれている。一方、胸の方は4本指の爪のある手が下から胸を鷲掴みにしているかのよう。
 白い骨とレイさんの藍色の肌がある意味お互いに映える引き立たせる関係になっているが正直、禍々しい。
「昔の特撮の色っぽい悪の幹部かよ!」
 俺は思わずそう叫んだ。
「えっ、このタイミングでその指摘!?」
 レイさんが彼女の立場としては正当な突っ込みを入れる。
「何ですか、特撮って?」
 ダリオさんが不思議そうに俺に訊ねる。
「えっと、地球で流行ってる物語で……説明難しいな。でもレイさんは知ってるんですね」
「まあ……ヨミケにあったから」
 レイさんはいまさら恥ずかしくなったのか、胸元を隠し照れた表情になりながら応える。
「ああ、支部長の所にソフビとかもありましたもんね。とは言えそのチョイスはどうなんすか?」
 レイさんはスタイル良いし骨水着そのものはセクシーだ。だがこの手の格好はもう少し年上のお姉さんタイプが着てこそのもので、彼女に合っているとは言い難い。
「だって! 姫様はリボンみたいな紐やし、シャマーねえさんは葉っぱビキニやん? それを上回るセクシーさとオチに足るボケを出さなアカンと思ったら……」
 レイさんは選択時の混乱を思い出すように言う。
「ウチかて迷走してるとは思たもん! でもショーキチにいさん今日は攻めてるし……」
 いやだからそれはレイさんが自分で勝手に決めた障害だって!
「別に攻めては……。あれ? 『リボンみたいな紐』と『葉っぱビキニ』って何すか?」
 ふとレイさんの言葉の中の不穏な単語に気づき訊ねる。
「支払いしてきたー。どうしたのみんな?」
 そこへシャマーさんが帰ってくる。
「お帰りなさい、シャマー。そうだ、ショウキチさんが私たちの水着も確認したいみたいですよ?」
 いやそう言ったつもりはないんだが……と否定するより先に、ダリオさんとシャマーさんはそれぞれの荷物の中から何かを取り出した。
 ダリオさんは赤いリボンでシャマーさんは葉っぱだ。いや違う、正確に言えばリボンで肝心な部分だけ隠すタイプの過激な水着と、同じく葉っぱで肝心な部分だけ隠すタイプの危ない水着だった。
「もしかして、お二方はサッカードウの試合で負けた場合は、それを着てセンシャをするつもりでいらっしゃる?」
「ええ。ショウキチさんも称賛して下さった可愛い水着ですし」
「別にセンシャだけじゃなくて、お願いしてくれたらこれでショーちゃんの部屋を掃除してあげても良いけど?」
 ダリオさんとシャマーさんは何を当たり前の事を? と言った表情でそう応えた。
「えっと、誰が称賛と?」
「ショウキチさんが」
「ショーちゃんが」
「僕が?」
「ええ」
「うん」
 そう言われてみれば俺がしたんだよな。実際は見もせずに。
「で、レイさんはそれを越えるインパクトを出そうとして、それを?」
「分かってるて! 滑ってんのやろ! もう恥ずかしいから脱ぐ!」
 自暴自棄になったレイさんはそう叫ぶとそのまま上の手から脱ぎ捨てようとする。
「あわわ、ストップストップ!」
「レイちゃん落ち着いて!」
「ショウキチさん、謝って下さい!」
 三名の人間とエルフの大人は慌てて未成年のエルフを宥めにかかった。
「ごめんレイさん! 古いけど悪役っぽくて良いですよ!」
「私はさっきからスタイリッシュだと思うと!」
「ショーちゃんもダリオも死体蹴り追い打ちはやめー!」
 俺達の言葉により表情を歪ませたレイさんを見て、シャマーさんが止めに入る。
「すみませんレイさん! 俺、実は競泳水着の方が好きです!」
 こうなったのは俺のせいだ。全く見ずに褒める事でこの難局を乗り越える……という安直な手に走った俺の。
「え? そうなん?」
 なので、恥を忍んで本当の好みを伝える事にした。
「はい。レイさんみたいな引き締まったボディには、白い競泳水着が似合うと思います。それは辞めて、白競泳にしましょう!」
 ダリオさんシャマーさんが
「あら、まー大胆ねー」
という表情で笑いを堪える中、そう言ってレイさんの表情を伺う。
「そうなんやー。ウチのボディ、引き締まってる?」
 レイさんはからかうような口調でそう訊ねてきた。
「はい、引き締まってます」
「いつの間に見たん?」
「まあ、ぼちぼちと」
 今やレイさんは全開で楽しそうで、俺は羞恥で真っ赤だ。
「ウチの競泳水着姿、見たい?」
「すっごく見たいです」
 恥ずかし過ぎて目は合わせられない。だがレイさんの機嫌が治っているのは分かる。
「そうかー。しゃーないなあ。じゃあそっちにしたるわ」
「はい、そうして下さい」
 いや正直、秒で機嫌が治るのは助かるが。
「ほな一番、格好良い競泳水着とってこよっと」
 レイさんは悪役骸骨水着姿のまま、売場へ向かった。もう突っ込む気力はない。
「あ、私もー」
「私もそうします。両方買えば良いですね」
 その姿を追ってシャマーさんとダリオさんも続いた。結局、その後は全員の競泳水着選びとその鑑賞会につき合わされる事となった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる
ファンタジー
 20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。  主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。  その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

文太と真堂丸

だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。 その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。 逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。 そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達 お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。 そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇 彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。 これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。 (現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

処理中です...