161 / 624
第九章
監督会議その5
しおりを挟む
「更にもう一つ。こちらはシーズン後ですが……『オールスターゲーム』の開催を提案します!」
マンデーナイトの衝撃が冷めやらぬ間にシャマーさんは畳みかける。これまた予定通りではあるけど。
「なんですかそれは?」
スターという言葉に強く反応したトナー監督が訊ねる。
「センシャに変わるファンサービスの一種で、ファン投票によって選手をリーグから40名ほど選抜し、2つチームを作って対戦させるという夢のゲームです!」
その声と共に映像が変化する。今度は試合中心のモノだが、スワッグの巧みな編集によりフェリダエ族の選手の美しいセンタリングからトロール族のFWがシュートを決めるシーン等が流れていた。
「ノートリアスのような混成チームをファン投票で作ると?」
この質問はライリー監督だ。
「はい! 投票次第ではありますが、各チームのエースが共闘するような夢のチームを作る事ができるのです! それも二つ!」
シャマーさんがさっと手を振る。その先には俺とナリンさんがそれぞれ並べ直したア・クリスタルスタンドがマットの上に22体、並んでいた。
今度はダリオさんとリストさんだけではない。他のチームの人気選手――既存の画像しか使えないので仮のモデルとして作成したやつだ――も混ざっている。言わばマットの上で架空のオールスターゲームを開催しているようなものだ。
「わーイ! あたしにもやらせロ!」
ゴブリンのカー監督が嬉しそうによってきた。俺は場所を譲り、丸めた紙をボール代わりに置いてあげる。
「しゅばばば~!」
カー監督はア・クリスタルスタンドの選手にドリブルさせて指で紙を弾いてシュートをさせる。楽しそうだ。
「ふむ……」
他の監督達は彼女のように無邪気に喜べないが、何名かは羨ましそうな顔でその様子を見ている。しかしカー監督、実際の試合だけじゃなくて駒を動かして遊ぶのも好きなんだな。この世界にもウイ○レがあれば良い対戦相手になってくれただろう。
「なるほど。そんな試合があると相乗効果でそれも売れそうですね」
ストックトンさんが嬉しそうに言った。
「ええ。と言うかこれを買わないと投票できませんし」
「エっ!?」
シャマーさんの声にカー監督が手を止めて驚いた。
「投票……無料じゃできないノ?」
「はい。オールスターの投票券はスタンドにだけついてきます」
俺は彼女の説明に併せてスタンドと投票券が一緒になったパッケージを取り出して皆に見せる。
「あー! ウチの握羽券と同じだ!」
トナー監督が嬉しそうに叫んだ。
「まあ、そうなりますね」
俺はこそっと彼女にだけ告げる。その間にシャマーさんが重々しい感じに口を開いた。
「自分の種族のチームを強化し自分の種族の人気だけを上げる……失礼ですが、それだけを考えていれば良い時代は終わりました。これからは共存共栄の時代です。ア・クリスタルスタンド、センシャの廃止、マンデーナイト、オールスター……。これらは全て、サッカードウ全体の利益を考えての事なのです!」
言葉の途中からシャマーさんはテーブルの上に立ち、両手を広げて訴えていた。その演説が終了すると同時に監督たちが一斉に拍手を送る。
「なんとそこまで考えておったか!」
「いやもっとも儲かるのは我が種族かもしれんぞ?」
「なんか分からないけど楽しそう!」
これはいけるかもしれない! 机の上のシャマーさんにスポットライトを当てつつ、俺は影でナリンさんと悪い微笑みを交わす。
「でもウチ、もう水着買っちゃったよ。きわどいの。どうしよう?」
ふと、オークのサンダー監督が呟く。いやそれはあまり聞きたくなかったなあ。
「あ、ウチもだー」
トナー監督も呟いた。それに続いて何名かの監督も追従する。
「まあそれはチャリティにでも回せ……」
俺は慌てて口を開きかけたが、残念ながらストックトンさんの声にかき消されてしまった。
「今回はエルフ代表から素晴らしい提案を何件も頂きました。全て採用の方向で考えますが、センシャの廃止だけは既に水着を購入しているチームもあるので……来季からでどうでしょう?」
「「賛成!」」
殆どの監督が賛同の声を上げる。その中で、重鎮らしくポビッチ監督が一言付け加えた。
「来季での廃止も時期尚早ではないか? いやいっそどうだろう、提案者のエルフ代表がリーグかトーナメントで三位以上になれたら採用というのは?」
おい何を言い出すんだこのドワーフ!?
「アタシもそれは良いとおもうぞ!」
サンダー監督がそれに同意する。ちょっとドワーフとオークの歴史的合意がこんな簡単に!?
「なるほど。それが妥当かもしれませんね。ではそれで決定とし今回の会議は以上とします!」
青ざめる俺達三人を置いて、会議出席者全員が頷いた。ふと目を合わせるとストックトンさんの口が静かに動いた。
「(す・き・ほ・う・だ・い・さ・れ・た・の・で・す・こ・し・お・か・え・し・で・す)」
それはトナー監督がやったような、俺にだけ聞こえるメッセージ。しかしより明瞭なものだった。
一ヶ月後に開始する一部残留を賭けて戦う筈のリーグ戦。しかし絶対ではないがかなり必要な目標として、三位以上というのが課せられてしまった……。
第九章:完
マンデーナイトの衝撃が冷めやらぬ間にシャマーさんは畳みかける。これまた予定通りではあるけど。
「なんですかそれは?」
スターという言葉に強く反応したトナー監督が訊ねる。
「センシャに変わるファンサービスの一種で、ファン投票によって選手をリーグから40名ほど選抜し、2つチームを作って対戦させるという夢のゲームです!」
その声と共に映像が変化する。今度は試合中心のモノだが、スワッグの巧みな編集によりフェリダエ族の選手の美しいセンタリングからトロール族のFWがシュートを決めるシーン等が流れていた。
「ノートリアスのような混成チームをファン投票で作ると?」
この質問はライリー監督だ。
「はい! 投票次第ではありますが、各チームのエースが共闘するような夢のチームを作る事ができるのです! それも二つ!」
シャマーさんがさっと手を振る。その先には俺とナリンさんがそれぞれ並べ直したア・クリスタルスタンドがマットの上に22体、並んでいた。
今度はダリオさんとリストさんだけではない。他のチームの人気選手――既存の画像しか使えないので仮のモデルとして作成したやつだ――も混ざっている。言わばマットの上で架空のオールスターゲームを開催しているようなものだ。
「わーイ! あたしにもやらせロ!」
ゴブリンのカー監督が嬉しそうによってきた。俺は場所を譲り、丸めた紙をボール代わりに置いてあげる。
「しゅばばば~!」
カー監督はア・クリスタルスタンドの選手にドリブルさせて指で紙を弾いてシュートをさせる。楽しそうだ。
「ふむ……」
他の監督達は彼女のように無邪気に喜べないが、何名かは羨ましそうな顔でその様子を見ている。しかしカー監督、実際の試合だけじゃなくて駒を動かして遊ぶのも好きなんだな。この世界にもウイ○レがあれば良い対戦相手になってくれただろう。
「なるほど。そんな試合があると相乗効果でそれも売れそうですね」
ストックトンさんが嬉しそうに言った。
「ええ。と言うかこれを買わないと投票できませんし」
「エっ!?」
シャマーさんの声にカー監督が手を止めて驚いた。
「投票……無料じゃできないノ?」
「はい。オールスターの投票券はスタンドにだけついてきます」
俺は彼女の説明に併せてスタンドと投票券が一緒になったパッケージを取り出して皆に見せる。
「あー! ウチの握羽券と同じだ!」
トナー監督が嬉しそうに叫んだ。
「まあ、そうなりますね」
俺はこそっと彼女にだけ告げる。その間にシャマーさんが重々しい感じに口を開いた。
「自分の種族のチームを強化し自分の種族の人気だけを上げる……失礼ですが、それだけを考えていれば良い時代は終わりました。これからは共存共栄の時代です。ア・クリスタルスタンド、センシャの廃止、マンデーナイト、オールスター……。これらは全て、サッカードウ全体の利益を考えての事なのです!」
言葉の途中からシャマーさんはテーブルの上に立ち、両手を広げて訴えていた。その演説が終了すると同時に監督たちが一斉に拍手を送る。
「なんとそこまで考えておったか!」
「いやもっとも儲かるのは我が種族かもしれんぞ?」
「なんか分からないけど楽しそう!」
これはいけるかもしれない! 机の上のシャマーさんにスポットライトを当てつつ、俺は影でナリンさんと悪い微笑みを交わす。
「でもウチ、もう水着買っちゃったよ。きわどいの。どうしよう?」
ふと、オークのサンダー監督が呟く。いやそれはあまり聞きたくなかったなあ。
「あ、ウチもだー」
トナー監督も呟いた。それに続いて何名かの監督も追従する。
「まあそれはチャリティにでも回せ……」
俺は慌てて口を開きかけたが、残念ながらストックトンさんの声にかき消されてしまった。
「今回はエルフ代表から素晴らしい提案を何件も頂きました。全て採用の方向で考えますが、センシャの廃止だけは既に水着を購入しているチームもあるので……来季からでどうでしょう?」
「「賛成!」」
殆どの監督が賛同の声を上げる。その中で、重鎮らしくポビッチ監督が一言付け加えた。
「来季での廃止も時期尚早ではないか? いやいっそどうだろう、提案者のエルフ代表がリーグかトーナメントで三位以上になれたら採用というのは?」
おい何を言い出すんだこのドワーフ!?
「アタシもそれは良いとおもうぞ!」
サンダー監督がそれに同意する。ちょっとドワーフとオークの歴史的合意がこんな簡単に!?
「なるほど。それが妥当かもしれませんね。ではそれで決定とし今回の会議は以上とします!」
青ざめる俺達三人を置いて、会議出席者全員が頷いた。ふと目を合わせるとストックトンさんの口が静かに動いた。
「(す・き・ほ・う・だ・い・さ・れ・た・の・で・す・こ・し・お・か・え・し・で・す)」
それはトナー監督がやったような、俺にだけ聞こえるメッセージ。しかしより明瞭なものだった。
一ヶ月後に開始する一部残留を賭けて戦う筈のリーグ戦。しかし絶対ではないがかなり必要な目標として、三位以上というのが課せられてしまった……。
第九章:完
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
魔王城のグルメハンター
しゃむしぇる
ファンタジー
20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。
主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。
その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
文太と真堂丸
だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。
その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。
逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。
そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達
お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。
そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇
彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。
これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。
(現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる