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第九章

保護者の気持ち

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「そうでありますね! 正直なところ……」
 ナリンさんは苦笑混じりに続ける。
「レイさんの出場があの時間からで良かったと言うか悪かったと言うか。せめて後半開始から出てもっと点を取ってくれれば、選手の気も緩まなかったかもしれないであります」
「ははっ、それなー」
 俺も苦笑いで応える。いや待て笑ってる場合じゃなかった。
「あ、それよりもですね。ナリンさん、レイさんの事『補習を受けて合流が遅れて』って言ってましたよね? 勉強ついていけてないのかな?」
「ええと、そうですね……。『ごめーん、補習がめっちゃ長引いてん!』と言いながら現れましたが、補習の中身は聞かなかったであります」
 ナリンさんが行ったレイさんの物真似はなかなかにレベルが高かった。意外な才能だ。感心している場合ではないが。
「あーそりゃ良くないなあ。学業に差し障りがあるなら練習参加を減らさないといけないし、或いはそもそも何が原因で成績悪いのか調べて対処しないといけないし。親御さんに相談も、って今いるんだよな。引き離してこっそり……どうしました?」
 思考を垂れ流しに呟きながら窓の外を見ていた俺は、ふとこちらへの視線に気づいた。ナリンさんが不思議な目で俺を見ている。
「ショーキチ殿は随分、その、レイさんの事を気にかけてらっしゃって、お優しいな、と」
「いや、優しさというか。スカラーシップの大事な一期生だし、親元を離れて遠い所で暮らしてる未成年さんだし。サッカードウの選手としても、ちょっと特別な選手だし」
 あまり意識させてプレッシャーになってはいけないが、実のところ彼女の双肩にかかっているモノはかなり重い。これくらいの配慮は当然だと思うのだが。
「なるほど。そう、で、ありますよね」
 ナリンさんはやや頬を赤らめながら呟く。何か変だな。
「あの、もしかして贔屓しているように見えます?」
「あ、いえ、そのようなことは」
「いやいや正直に言って下さい! もし少しでもそう見えるようだったら選手達に不公平感が出るので改めないと!」
 集団を率いる上で大事なことの一つは、公平感だ。良い事も悪い事も皆で等しく分け合うからこそ、統一感が出る。まして今、俺たちがチームに植え付けようとしている組織サッカーは、全員に高い献身を要求するサッカーだ。なのに誰か一名が贔屓を受けている! となると他のエルフのモチベーションが下がり、そこから一気に瓦解してしまう。
 実際には戦術的な意味で、レイさんやリストさんみたいな特殊な選手攻撃のキーマンには守備を免除するような局面も出てくるだろうけど。だからこそ、それ以外の状況では公平さを遵守しないといけない。
「いえ、大丈夫、そのようには見えないであります。彼女は私たち全員の妹のような存在ですし、ショーキチ殿がなさっているような気配りはむしろ嬉しいくらいであります。サッカードウでも、彼女が特別な存在であることは、誰よりも選手達が理解しているであります」
 ナリンさんは慌てる俺を宥めるように言った。その言葉をよくよく考えると「贔屓しているように見える」という部分はあまり否定していないようにも思えるが……。どうなんだろう?
『ただちょっと、妬けるな、と』
「はい?」
 考え込む俺の耳にぼそっと、エルフ語の言葉が飛び込んできた。日本語で密談する為に翻訳のアミュレットを外していたので意味は全く分からないが。
「あ、いえ、今のはスラングで意味は無いであります。このような状況ならなおさら『デス90』の練習で気を引き締めるしかないでありますね! 負けたチームに何か罰ゲームを与えるとか!」
 ナリンさんはおどけるようにそう言った。。
「そうなんですか? てかエルフのメンタル的に罰ゲームってどんな感じなんですか?」
 彼女の口からスラングとか罰ゲームって単語が飛び出すとは意外だ。しかしそれでチームの緩みが解消されてあまりデメリットが無いなら、一考に値する。
「心身にダメージが残らないのが肝心ですが……」
 俺たちはそこからしばらく「罰ゲーム」について詳しく話し合うのであった。
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