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第八章
学園天国と地獄
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俺達は都の中心部に近い学校へ入った。学校と行っても俺が通った無機質な刑務所のような建物ではなく、世界名作劇場で貴族のお嬢様が通っていたお屋敷のような建築物である。
この世界で所謂「学校」を持っているのはエルフ、ドワーフ、ノーム、ガンスといった高度な文明と社会性を備えた種族だけだが、中でもエルフの学校はかなり計画的かつ長期的なもののようだ。
例えばここは地球で言う高校に当たるが、基礎的な学問を学ぶだけで細かな分野に分かれて本格的な学習をする場所ではない。まずここで適性や興味を絞り、卒業後にそれぞれの専門学校へ進んで行くのだ。例を挙げればシャマーさんとムルトさんの様にここでは机を並べて学習したが、後に魔術と算術に分かれて行った……みたいな。
そういう事もあってか廊下ですれ違う生徒には様々な子がいた。もちろんドーンエルフが主だが、デイエルフ――基本的に勉強は一族が口伝で行うらしい――もそこそこいるし、都で働くドワーフやリザードマンのご子息なども少しいる。中には制服――地球の高校の物にかなり近い、上は紺のブレザーに下はズボンかチェックのスカート。恐らくこれもクラマさんの趣味だ――を着ず、お菓子をボリボリ喰ってこぼしながら歩く行儀の悪い子も。
「うぼー! ショーキチにリストじゃないか!」
いや、生徒の子じゃなかった。ステフだ。
「おお、ステファニー殿!」
「うぼーじゃないよステフ。ちゃんとレイさんとポリンの護衛、してくれてんのか?」
旅が終わった後、ステフとスワッグはナイトエルフ三娘が地上で生活する上でのアドバイザーに転職した。と言ってもリストさんとクエンさんは早々にチームに合流し選手寮生活に入ったので、実質レイさん専属みたいなものである。
もっともいま見た通り、その専属という楽な仕事がこなせているかは疑問だが。
「いやだって王都の学校なんて世界で指折りの安全な場所だぞ? 暇で暇で食うしかないわ!」
そう言いながらステフは紙袋から新しいお菓子を取り出し口へ運ぶ。
「アタシはもっと切った張ったの危険な仕事とか、惚れた腫れたのドロドロした恋愛関係を見られる仕事がしたいんだよ! エルフの貴族も通う学校って聞いたから楽しみにしてたのに、とんだ期待外れだわ!」
ステフは口から泡と食べカスを派手にこぼしながら叫ぶ。
「ステファニー殿は本当に正直でござるな。ウエッ」
リストさんはまだ治らない船酔いとステフの旺盛な食欲を見てでやや胃が苦しそうだ。
「期待外れはこっちの方だ! レイさんとポリンがちゃんと学校に馴染めるように見守ってくれって言っただろ?」
俺は頭を掻きながらステフの勤務態度を詰った。とは言え確かに学校は緩そうな空気ではある。
「レイちゃんが馴染んでいるかどうかは一目瞭然だぞ、ほら」
そう言うとステフは俺たちを手招きし教室の中を指さした。すると今は休み時間なんだろう、レイさんの座る付近にエルフの男女が集まり、ワイワイと騒いでいる。
「お、良かった。ナイトエルフだからって疎遠になったりしてないみたいだね」
「まああの性格にルックスだからな。男女問わず人気みたいだ」
「リア充でござるな……ゲップ」
制服姿のレイさんは年相応の少女に見え、男子生徒の冗談を聞いてかケラケラと笑っていた。
……狙い通りだ。ここで彼女は青春を謳歌し、その間に幼くもむずがゆい恋を、クラスメイトの男子と経験したりするだろう。リストさんには胃もたれするような光景かもしれないが。
「そうか。あーでもここは男女共学だし、男女のイザコザはいずれ起きるんじゃないか?」
「本当か!?」
「いやごめん。実は知らない。俺、男子校だったし」
「ショー殿は男子校育ちでこざったか!? ではそちらの男男のイザコザの話をkwsk!」
苦しんでいたリストさんのテンションと声量が一気に跳ね上がった。その音量に教室の中の生徒さんたちが一斉にこちらを向く。当然、彼女も気づく。
「あ、ショーキチにいさん!? 来てくれたん?」
レイさんはそう叫ぶと自慢の跳躍力で自分を囲むクラスメイト達を飛び越し、数歩で教室を飛び出して俺の胸へ飛び込んできた。
「ちょっとレイさん!?」
「もうもう、ウチが心配で見に来たん? それとも放課後制服デートのお誘い?」
そう言いながらレイさんは俺の首や胸に頬を押しつけてくる。
『あ、あれがレイちゃんの言ってた彼氏!? 以外と普通……』
『俺知ってる! アイツ、代表監督なんだぜ!』
『ぱっとしないわね……。あんなので監督できるの?』
皆の視線が集まり、レイさんのクラスメイトの容赦ない批評が聞こえてくる。海外へ移籍してすぐの選手がよく、
「言葉を知らない方が、野次の意味が分からないので楽」
などと言っているのを聞いて軟弱な! と思っていたが今はその気持ちが分かる。辛い。心に来る。
「レイさん待ってください、人目のある学校でそういうのは……しかも俺は今日は用事で来たんです!」
経験した事あるような、無いような状況に俺は慌てつつ彼女をふりほどこうとする。
「アーロンの魔法学院と似たような風景だな。てかショーキチお前、意外と学習能力あるようでないな!」
この批評はステフだ。だが彼女の悪口は慣れっこなのでそれほどダメージはない。
「ぴぴぴー! 不純異性交遊の気配ぴよ!」
そこへファウルを申告する笛の様な聞き覚えのある声が響いた。
この世界で所謂「学校」を持っているのはエルフ、ドワーフ、ノーム、ガンスといった高度な文明と社会性を備えた種族だけだが、中でもエルフの学校はかなり計画的かつ長期的なもののようだ。
例えばここは地球で言う高校に当たるが、基礎的な学問を学ぶだけで細かな分野に分かれて本格的な学習をする場所ではない。まずここで適性や興味を絞り、卒業後にそれぞれの専門学校へ進んで行くのだ。例を挙げればシャマーさんとムルトさんの様にここでは机を並べて学習したが、後に魔術と算術に分かれて行った……みたいな。
そういう事もあってか廊下ですれ違う生徒には様々な子がいた。もちろんドーンエルフが主だが、デイエルフ――基本的に勉強は一族が口伝で行うらしい――もそこそこいるし、都で働くドワーフやリザードマンのご子息なども少しいる。中には制服――地球の高校の物にかなり近い、上は紺のブレザーに下はズボンかチェックのスカート。恐らくこれもクラマさんの趣味だ――を着ず、お菓子をボリボリ喰ってこぼしながら歩く行儀の悪い子も。
「うぼー! ショーキチにリストじゃないか!」
いや、生徒の子じゃなかった。ステフだ。
「おお、ステファニー殿!」
「うぼーじゃないよステフ。ちゃんとレイさんとポリンの護衛、してくれてんのか?」
旅が終わった後、ステフとスワッグはナイトエルフ三娘が地上で生活する上でのアドバイザーに転職した。と言ってもリストさんとクエンさんは早々にチームに合流し選手寮生活に入ったので、実質レイさん専属みたいなものである。
もっともいま見た通り、その専属という楽な仕事がこなせているかは疑問だが。
「いやだって王都の学校なんて世界で指折りの安全な場所だぞ? 暇で暇で食うしかないわ!」
そう言いながらステフは紙袋から新しいお菓子を取り出し口へ運ぶ。
「アタシはもっと切った張ったの危険な仕事とか、惚れた腫れたのドロドロした恋愛関係を見られる仕事がしたいんだよ! エルフの貴族も通う学校って聞いたから楽しみにしてたのに、とんだ期待外れだわ!」
ステフは口から泡と食べカスを派手にこぼしながら叫ぶ。
「ステファニー殿は本当に正直でござるな。ウエッ」
リストさんはまだ治らない船酔いとステフの旺盛な食欲を見てでやや胃が苦しそうだ。
「期待外れはこっちの方だ! レイさんとポリンがちゃんと学校に馴染めるように見守ってくれって言っただろ?」
俺は頭を掻きながらステフの勤務態度を詰った。とは言え確かに学校は緩そうな空気ではある。
「レイちゃんが馴染んでいるかどうかは一目瞭然だぞ、ほら」
そう言うとステフは俺たちを手招きし教室の中を指さした。すると今は休み時間なんだろう、レイさんの座る付近にエルフの男女が集まり、ワイワイと騒いでいる。
「お、良かった。ナイトエルフだからって疎遠になったりしてないみたいだね」
「まああの性格にルックスだからな。男女問わず人気みたいだ」
「リア充でござるな……ゲップ」
制服姿のレイさんは年相応の少女に見え、男子生徒の冗談を聞いてかケラケラと笑っていた。
……狙い通りだ。ここで彼女は青春を謳歌し、その間に幼くもむずがゆい恋を、クラスメイトの男子と経験したりするだろう。リストさんには胃もたれするような光景かもしれないが。
「そうか。あーでもここは男女共学だし、男女のイザコザはいずれ起きるんじゃないか?」
「本当か!?」
「いやごめん。実は知らない。俺、男子校だったし」
「ショー殿は男子校育ちでこざったか!? ではそちらの男男のイザコザの話をkwsk!」
苦しんでいたリストさんのテンションと声量が一気に跳ね上がった。その音量に教室の中の生徒さんたちが一斉にこちらを向く。当然、彼女も気づく。
「あ、ショーキチにいさん!? 来てくれたん?」
レイさんはそう叫ぶと自慢の跳躍力で自分を囲むクラスメイト達を飛び越し、数歩で教室を飛び出して俺の胸へ飛び込んできた。
「ちょっとレイさん!?」
「もうもう、ウチが心配で見に来たん? それとも放課後制服デートのお誘い?」
そう言いながらレイさんは俺の首や胸に頬を押しつけてくる。
『あ、あれがレイちゃんの言ってた彼氏!? 以外と普通……』
『俺知ってる! アイツ、代表監督なんだぜ!』
『ぱっとしないわね……。あんなので監督できるの?』
皆の視線が集まり、レイさんのクラスメイトの容赦ない批評が聞こえてくる。海外へ移籍してすぐの選手がよく、
「言葉を知らない方が、野次の意味が分からないので楽」
などと言っているのを聞いて軟弱な! と思っていたが今はその気持ちが分かる。辛い。心に来る。
「レイさん待ってください、人目のある学校でそういうのは……しかも俺は今日は用事で来たんです!」
経験した事あるような、無いような状況に俺は慌てつつ彼女をふりほどこうとする。
「アーロンの魔法学院と似たような風景だな。てかショーキチお前、意外と学習能力あるようでないな!」
この批評はステフだ。だが彼女の悪口は慣れっこなのでそれほどダメージはない。
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