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第七章

運命の相方に会いたかった

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 アローズへ戻ってきた選手の数も増え、何よりチームの頭脳でありキャプテンでもあるシャマーさんが到着した事もあり、翌朝から練習はかなり本格的なものになっていった。
 選手によってバラバラなフィジカルをある程度統一したレベルに引き上げ、失っていたボールへの感覚を取り戻し、ゾーンプレスという戦術を行う為に基礎的な練習――まずは狭いエリア、少ない人数で攻撃側がパスを回し、守備側はその決まった回数の後にボールを奪いに行く――等を次々と行っていく。
 それらは俺の要望によりなるべく関わり合うように、例えばただ走ったりウエイトを使ったりで有酸素運動や筋トレするのではなく、戦術トレーニングを行うと同時に負荷をかけてフィジカルトレーニングにもするように設計されていた。 
 これは言うは易し行うは難しな内容だが、コーチ陣は俺の難しいオーダーに応える為に知恵を振り絞って実現してくれていた。その甲斐あって初日から選手たちの評価も上々、続く数日間も新たに少しづつ選手が加わり練習が追加され……と活気のある日々を送っていた。
 その間の俺は実の所、まあまあの蚊帳の外ひまであった。そもそもサッカーについては観るかTVゲームでするのを専門にしていた人間である。実は目の前で行われているアローズの練習を観てコーチの話を聞いて、
「ああ。シーズン前のキャンプレポート等で観る練習はこんな意味があったのか」
と初めて理解するような始末だ。あまり助けにはならない。
 とは言え全く働かないでいたかと言うとそうではない。用具の準備や練習のフィードバック――今日のこの練習はこういう意味がある(らしいとコーチ達から聞いた)けどどうだった? と選手に聞いて回りコーチに伝える――を行い、エルフ王家やチーム支援者と密に連絡を取り、クラブハウス完成の暁には建築に携わった職人さんたちを慰労するパーティーも主催した。この先まだ新たなスタッフ採用に関する面接に立ち会う予定もある。監督就任の際にダリオさんへ伝えた通り、総監督GM的な動きをしていたのである。
 そうそう密に連絡を取る、と言えば彼女が宣言していた通りシャマーさんとも密に話し合う状況になっていた。ディフェンスのやり方が全く違う(サッカードウではマンマークが主流でゾーンディフェンスはほぼ行われておらず、その概念を一から教える必要があった)というのに加えて、彼女の相棒問題がまだ未解決だったからだ。
 しかしその問題はまったく予想外の方向から解決に向かう事になった。

「思ったより手こずっているみたいですね」
 俺は監督室の来客用椅子に座るシャマーさんに飲み物を手渡しながら言った。
「ありがとう。でも紐で縛られて分かったわ。私、自分でも奔放な方だと思っていたけど、実はエルフ全体が割と放任主義だったのね」
 時刻は夜。今は練習後で殆どの選手が宿舎や自宅へ帰っている。スタッフの方も、事務室に例のいつも居残りしている眼鏡のお姉さんがいるだけで他は誰もいない。
「それはずーっと狭い所で一緒に暮らしているドワーフと比べれば、ですよ。初めて体験するならどんな種族だって手こずりますって」
 シャマーさんが言っているのは、ドワーフであるジノリコーチに指導された「DFラインの4名を紐で繋いでDF同士の適切な距離を学ぶ」という練習の事である。これは俺も何かで見たくらいメジャーなものだが、意外な事にエルフの皆はその動きに非常に苦労し、ジノリコーチから
「ドワーフ代表の子供以下」
と叱責されていたのだ。
「慰めてくれてもう一度ありがとう。ここだけの話、せめて相方が定まったらなー、って思うわ」
 シャマーさんの凹み具合は本物だ。俺に何かエッチな方面のイジリもせず、本音の愚痴を漏らすとは。いつもこれくらいなら可愛いのにな。
「そこは……何かすみません。あと数日やって駄目ならクエンさんかリストさんを固定にします」
 シャマーさんの相棒のCBにはナイトエルフの二名、或いは昨シーズンまでレギュラーであったガニアさんパリスさん等を試していたが、全員マンマークで強みを発するタイプでゾーン守備への移行はなかなか難しそうであった。それでも新しい面を引き出せないかと少しづつ練習の時間を割り振って試していたが、今度はその割り振りが逆効果となってコンビネーションを熟成する時間が足りず……という悪循環に陥っていた。
「うん、そうして~」
「すみません、俺の我が儘で」
「ううん、監督は自分の我が儘を言うもんよ。ダリオが監督もやってた時にももっと我儘言え、て助言して聞いてくれなかったけど」
 言い終わるとシャマーさんは飲み物を口に含んで河豚のように膨らませた。何か過去に不満があったみたいだな。
「シャマーさん、その頃の話なんで……」
「あら、監督ってそちらでも我が儘放題なんですの?」
 シャマーさんとダリオさんの過去を聞こうとしたタイミングで、廊下の方から声がかかった。二人してそちらを見ると、監督室のすぐ外に事務室の居残り姉さんがいた。
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