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第六章
アホちゃいまんねん
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レイさんが入れ替わりでやってきた。無言で隣に座り、たまに前髪の隙間から冷たい目で俺を見る。ここ数日の、お喋りで快活な彼女の姿はどこにもない。ほんの数瞬の出来事で、いやほんの数言のやりとりで彼女は昔の彼女に戻ってしまった。
違う。戻したのは俺だ。
「レイさん、あの……」
「なに? コーチと監督だけの大事な話は終わったん?」
くっ、言葉に嫌みがキツい。が、レスポンスが早いということは、彼女も話はしたがっているという事だ。
「ごめん! 冷たい言い方して! 俺が全面的に悪かった!」
俺は頭を下げ、戻した後に話を続ける。
「言い訳になるけど、本当に選手には聞かれたくない話だったんだ。選手に内緒でサプライズパーティーを計画してて、驚かせて喜ばせたかった。でもだからと言ってあんな風にレイさんを追い返すのは間違ってた。もうしない。すみません!」
「え!? サプライズパーティー!?」
驚くレイさんに俺はナリンさんにしたのと同じ様な説明を行う。
「それほんまなん?」
「ほんまです」
「でもここでネタバレしてしまったら、いろいろとぱぁにならへん?」
『ぱぁになる』とは無駄になってしまうとか駄目になってしまうという意味だ。
「パーティーがぱーでんねん」
とあの着ぐるみを着て叫ぶある芸人さんの姿が脳裏に浮かんだが必死で打ち消す。
「なる。けど……」
「けど?」
「レイさんが悲しい気持ちになるのはもっと嫌だ。たがだがサプライズにそこまでの価値はない」
これは本音だ。まあナリンさんに指摘されるまでレイさんを悲しい気持ちにさせた、て事に気づいてなかったのは恥ずかしい限りだが。
「ふうん?」
レイさんは小首を傾げて俺の顔を覗くと、すっと近づいて訊ねる。
「ウチの為やったら、パーティーがぱーになってええねん?」
そう言いながら両掌をパーの形に開く。
「うん? うん、ぱーになってええねん」
俺も彼女のジェスチャーに併せて開く。
「スキあり!」
レイさんは俺の両掌に手を重ねて握ると、素早く俺の唇を自分の唇で塞いだ!
「(これじゃスキありじゃなくてキスありやんか!)」
と俺は叫ぼうとしたがもちろん口は塞がれている。ふと前を見ると馬車を牽くスワッグと目が合い、彼はウインクしてモールス信号を送る。
「(貴・方・の・キ・ス・を・数・え・ま・し・ょ・う)」
「(そうだった! レイさんとの通算4回目、手繋ぎキスは1回目……って嘘吐け! 俺はモールス信号分からんわ! テレパシーだろこれスワッグ!)」
「(ばれたかぴよ。あ、何も見てないし聞こえませんぴい)」
スワッグは前のように毛を逆立てて後方を遮断した……体をとる。
「ん……ふう。ごめん、ウチも悪かったわ。ショーキチにいさんかて監督としていろいろ考えなあかん立場や、て事を忘れて拗ねた」
息苦しくなるまで唇を重ねた後、レイさんは顔を離してそう言った。
「いや、本当に……ごめん」
「ええよ、もう謝らんでも。計画のことはウチも絶対に口にせえへんし、進めたらええんちゃう? ウチだけサプライズやないけど、うまいこと演技するし」
確かにレイさんは演技も上手そうだ。
「うん、そうするよ」
「うん、そう、して」
今の「して」は例のじゃないよな? と悩みながら様子を見ると、レイさんは珍しく照れながらこちらを見上げていた。
「えへへ。なんかこんな風に指を絡めてするの、ドキドキせえへん?」
実を言うと俺もドキドキしていた。恋人同士のような、引き返せない線を越えてしまいそうな危険を感じる。
「名残惜しいけど行くわ。ほなね」
レイさんはそう言うと最後に軽く俺の頬にキスをして馬車の中へ帰っていった。
「今のは2回としてカウントするぴよ? それとも1回ぴい?」
分からない。今の自分の気持ちも、どうすべきかも。俺はスワッグに何も返事せず、ずっと遠くを眺めていた。
故郷を最も意識するのは故郷に着く直前である、とは誰の言葉だっただろうか? 俺は魔法都市アーロンへ向かう道を眺めながらそんな事を思い出していた。
「魔法学園都市、とやらに寄るそうっすよ」
「鬼畜白衣眼鏡とかいっぱいいそうでござる!」
「エルフの学校の先生にもアーロン出身が多いんやって」
ステフから説明を受けたナイトエルフの三娘が思い思いに言葉を漏らす。俺は何か聞きたそうなルーナさんの視線に気づいて顔を上げた。
「どうしたの、ルーナさん」
「いや、なんでまっすぐ帰らずにアーロンに行くのかな? って。一度は寄ってるんだよね?」
大した回り道ではないが寄り道は寄り道だ。まして俺が浮かない顔をしているのもあって気になったのだろう。ルーナさんにも関係する事なので言い難いが、隠すのも変だし前に少し話した内容なので俺は理由を伝える事にした。
「前にアーロンに寄った時に、シャマーさんにお願いしたやつだよ。左SBや各DFラインのバックアップ候補を考えておいて、って。でもSBはルーナさんがする事になっただろ? だから左じゃなくてCBを重点的に探すように変えて欲しいってお願いしようと思って」
俺が説明するとルーナさんはぽん、と掌を拳で叩いた。
「あ、そうだ。私のせいだった」
「いやそんな責任は感じないで! 俺の考察不足もあったし。それにルーナさんが左SBをやる事でいろいろ可能性が増えて俺も嬉しいんだよね~」
スピードやキック力だけでなくサイズも戦術眼もある大型SBなど地球のサッカーでも価値が高い存在だ。それを最初から持てるなんて監督冥利に尽きるだろう。
「それはどうも。でもわざわざ言いに行く? 魔法のメッセンジャーとかでも良くない?」
「それは悪いよ。頼んだ仕事が一部、無駄になるかもしれないんだし。ちゃんとシャマーさんとフェイストゥフェイスで謝った上で説明しないと」
正直に言うと彼女と会うのは怖いのだが。それについてはちょっとルーナさんを恨む気持ちがある。
「そういうところなんだろうね。ショーキチは気づいてないだろうけど」
「は? 何が?」
「別に」
最後に意味深な視線と言葉を投げかけると、ルーナさんはナリンさんの元へ行った。
分からん。だが他にも悩むべき事がたくさんある。明日の昼にはアーロンに着くだろう。俺はさし当たり、どんな説明をシャマーさんにすべきか考える事にした。
違う。戻したのは俺だ。
「レイさん、あの……」
「なに? コーチと監督だけの大事な話は終わったん?」
くっ、言葉に嫌みがキツい。が、レスポンスが早いということは、彼女も話はしたがっているという事だ。
「ごめん! 冷たい言い方して! 俺が全面的に悪かった!」
俺は頭を下げ、戻した後に話を続ける。
「言い訳になるけど、本当に選手には聞かれたくない話だったんだ。選手に内緒でサプライズパーティーを計画してて、驚かせて喜ばせたかった。でもだからと言ってあんな風にレイさんを追い返すのは間違ってた。もうしない。すみません!」
「え!? サプライズパーティー!?」
驚くレイさんに俺はナリンさんにしたのと同じ様な説明を行う。
「それほんまなん?」
「ほんまです」
「でもここでネタバレしてしまったら、いろいろとぱぁにならへん?」
『ぱぁになる』とは無駄になってしまうとか駄目になってしまうという意味だ。
「パーティーがぱーでんねん」
とあの着ぐるみを着て叫ぶある芸人さんの姿が脳裏に浮かんだが必死で打ち消す。
「なる。けど……」
「けど?」
「レイさんが悲しい気持ちになるのはもっと嫌だ。たがだがサプライズにそこまでの価値はない」
これは本音だ。まあナリンさんに指摘されるまでレイさんを悲しい気持ちにさせた、て事に気づいてなかったのは恥ずかしい限りだが。
「ふうん?」
レイさんは小首を傾げて俺の顔を覗くと、すっと近づいて訊ねる。
「ウチの為やったら、パーティーがぱーになってええねん?」
そう言いながら両掌をパーの形に開く。
「うん? うん、ぱーになってええねん」
俺も彼女のジェスチャーに併せて開く。
「スキあり!」
レイさんは俺の両掌に手を重ねて握ると、素早く俺の唇を自分の唇で塞いだ!
「(これじゃスキありじゃなくてキスありやんか!)」
と俺は叫ぼうとしたがもちろん口は塞がれている。ふと前を見ると馬車を牽くスワッグと目が合い、彼はウインクしてモールス信号を送る。
「(貴・方・の・キ・ス・を・数・え・ま・し・ょ・う)」
「(そうだった! レイさんとの通算4回目、手繋ぎキスは1回目……って嘘吐け! 俺はモールス信号分からんわ! テレパシーだろこれスワッグ!)」
「(ばれたかぴよ。あ、何も見てないし聞こえませんぴい)」
スワッグは前のように毛を逆立てて後方を遮断した……体をとる。
「ん……ふう。ごめん、ウチも悪かったわ。ショーキチにいさんかて監督としていろいろ考えなあかん立場や、て事を忘れて拗ねた」
息苦しくなるまで唇を重ねた後、レイさんは顔を離してそう言った。
「いや、本当に……ごめん」
「ええよ、もう謝らんでも。計画のことはウチも絶対に口にせえへんし、進めたらええんちゃう? ウチだけサプライズやないけど、うまいこと演技するし」
確かにレイさんは演技も上手そうだ。
「うん、そうするよ」
「うん、そう、して」
今の「して」は例のじゃないよな? と悩みながら様子を見ると、レイさんは珍しく照れながらこちらを見上げていた。
「えへへ。なんかこんな風に指を絡めてするの、ドキドキせえへん?」
実を言うと俺もドキドキしていた。恋人同士のような、引き返せない線を越えてしまいそうな危険を感じる。
「名残惜しいけど行くわ。ほなね」
レイさんはそう言うと最後に軽く俺の頬にキスをして馬車の中へ帰っていった。
「今のは2回としてカウントするぴよ? それとも1回ぴい?」
分からない。今の自分の気持ちも、どうすべきかも。俺はスワッグに何も返事せず、ずっと遠くを眺めていた。
故郷を最も意識するのは故郷に着く直前である、とは誰の言葉だっただろうか? 俺は魔法都市アーロンへ向かう道を眺めながらそんな事を思い出していた。
「魔法学園都市、とやらに寄るそうっすよ」
「鬼畜白衣眼鏡とかいっぱいいそうでござる!」
「エルフの学校の先生にもアーロン出身が多いんやって」
ステフから説明を受けたナイトエルフの三娘が思い思いに言葉を漏らす。俺は何か聞きたそうなルーナさんの視線に気づいて顔を上げた。
「どうしたの、ルーナさん」
「いや、なんでまっすぐ帰らずにアーロンに行くのかな? って。一度は寄ってるんだよね?」
大した回り道ではないが寄り道は寄り道だ。まして俺が浮かない顔をしているのもあって気になったのだろう。ルーナさんにも関係する事なので言い難いが、隠すのも変だし前に少し話した内容なので俺は理由を伝える事にした。
「前にアーロンに寄った時に、シャマーさんにお願いしたやつだよ。左SBや各DFラインのバックアップ候補を考えておいて、って。でもSBはルーナさんがする事になっただろ? だから左じゃなくてCBを重点的に探すように変えて欲しいってお願いしようと思って」
俺が説明するとルーナさんはぽん、と掌を拳で叩いた。
「あ、そうだ。私のせいだった」
「いやそんな責任は感じないで! 俺の考察不足もあったし。それにルーナさんが左SBをやる事でいろいろ可能性が増えて俺も嬉しいんだよね~」
スピードやキック力だけでなくサイズも戦術眼もある大型SBなど地球のサッカーでも価値が高い存在だ。それを最初から持てるなんて監督冥利に尽きるだろう。
「それはどうも。でもわざわざ言いに行く? 魔法のメッセンジャーとかでも良くない?」
「それは悪いよ。頼んだ仕事が一部、無駄になるかもしれないんだし。ちゃんとシャマーさんとフェイストゥフェイスで謝った上で説明しないと」
正直に言うと彼女と会うのは怖いのだが。それについてはちょっとルーナさんを恨む気持ちがある。
「そういうところなんだろうね。ショーキチは気づいてないだろうけど」
「は? 何が?」
「別に」
最後に意味深な視線と言葉を投げかけると、ルーナさんはナリンさんの元へ行った。
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