上 下
96 / 624
第六章

作業の合間に

しおりを挟む
 例の果物の収穫が終わるのを待ち、俺達はルーナさんを加えて総勢8名となってエルフの都へ帰る事となった。待つ、と言っても単純に過ごす訳ではなく(アルテさんの強い要望を受け)農場に泊まりつつ、代わりに作業を手伝いながらではあったが。
 その収穫作業だがアルテさんが風の魔法で果物を吹き飛ばし、一カ所に集める風景はなかなか爽快なものだった。俺達は主にその後の選定や箱詰め、出荷先毎の仕分け等を担当した。
 気分としては学生時代のバイトに近い。ただ現場が郊外の爽やかな農場であり、頻繁にお茶やお菓子の休憩が入った為、しばしばピクニックをしているような感覚に陥った。
 そんな青空の下での共同作業を経て、ルーナさんとその他一行の距離は大いに縮まった。彼女はもともとハーフエルフという立ち位置、そして淡泊な性格というのも相まって他者と打ち解けにくい人物ではあったが、話してみると独特の観察眼とユーモアを持ちサッカーについてもなかなかの見識と熱い情熱を持つ女性である事が分かった。
 例えば俺が計画しているゾーンプレスについて、ルーナさんはクエンさんの存在が肝になると指摘した。ナイトエルフのサッカーにおいてクエンさんが使われてきたポジションは主にCBであったが、ルーナさんはボランチこそがクエンさんの居場所だと主張したのだ。
 あのミノタウロス戦で俺はDF陣をそのまま中盤に上げたが、消耗戦的な守備はともかくデザインされた組織守備やパス回しは、突貫作業だったという言い訳を差し引いても満足できるものではなかった。
 ルーナさん曰く、残念ながら地上のエルフ達には守備の強度を保ちつつパスを組み立てるような個性を持った選手がまだ少ないと。だがクエンさんならばその役割を果たせるだろうと。
 言われてみれば確かにクエンさんは説明等も非常に適切だったし、常に理論的な話し方をしていた。いや話し方とプレーが直結する訳ではないが、少なくとも脳内で理論をちゃんと組み立てられているとは言える。であれば極めてシステマティックに動く中盤において、頭脳の役割を果たせるのではないだろうか? と。

「なるほど。ただの屈強なDFだと思われていたドゥサイー選手を中盤で使ってブレイクさせたミランの監督みたいな考え方だね」
 俺はACミラン等で活躍したフランス人選手を思い浮かべた。
「そのダサイーっで選手は知らないけど。あの娘なら高い位置で奪ってダサくない、綺麗なパスも出せると思う」
「確かに……ってダサイーじゃなくてドゥサイーな? ダサいどころかめっちゃお洒落な選手だったからね!」
 私服のスーツとかグラサンとかめっちゃ格好良かった筈だ。
「わざとだよ。ショーキチがレイちゃん以外にも突っ込むか試したんだ。意外にも完全に彼女のモノになっていないんだね。まだシャマーやナリンにもチャンスはあるのかあ」
「なんでそんな話しに!?」
 ルーナさんの特殊の視点は人間関係にも現れていた。前に彼女が言っていたように俺とレイさんの間には『特別な空気感やらしい雰囲気』みたいなものがある、と言うのが彼女の主張だった。
 恐らく関西弁同士の通じ易さとかボケツッコミのリズムの事をそう勘違いしているだけだと思うが、ルーナさんはしばしばその話題を休憩中の雑談の肴にしていた。
 ある時など、
「私はレイちゃんに賭けるな。あの娘はショーキチの急所を突いていると思う」
「俺はシャマーぴよ。知り合いという贔屓もあるけど、シャマーがいちばん手段を選ばないぴい」
「自分はダリオ姫っす。詳しくは存じ上げないけど、異世界転移者はお姫様とくっつくもんっす!」
「拙者はナリショー一筋!」
「だよな! アタシもナリンだ。シャマーもダリオも知り合いだけど、やっぱ一緒に旅をして情が移ったから応援したくもある」
「ふうん。情にかまけて損をするタイプだね」
「あんだと! じゃあ損をするのはどっちかはっきりさせようぜ!」
「乗ったぴい! 土地の権利書でも賭けるぴよ?」
とレイさん以外の皆と昭和の雀鬼みたいな会話までしていた。
 このままではチームの風紀が乱れてしまう。俺は組織の長として、内部での賭博を全面禁止しなければならない、と誓うのであった。

「これで準備オッケーかな?」
 俺は身支度を整えながら同行者たちを見回した。
「うん」
「オッケーっす! もう一度基地が見れるなんて楽しみっすねー!」
 農場に泊まって二日。俺は用事を済ませる為に、ノトジアの中心部へ一度戻る事にしたのだ。
「ルーナちゃん、ちゃんとメモは持った?」
「大丈夫だよ、ママ。何かお土産買うね」
 同行者はルーナさんとクエンさんだ。用事と言うのは大した事ではない。アルテさん邸に宿泊するのが決まったので、ノトジアでとった宿の残り日数をキャンセルし部屋に置いた荷物を引き取りに行くだけである。
 珍しいこのトリオになったのはルーナさん家にも個人的な買い物があったのと、荷物が多く力持ちを一名動員したかったからだ。
「じゃあちょっと行ってきます」
 俺達は見送るアルテさんに手を振り、ノトジアへの道を歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる
ファンタジー
 20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。  主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。  その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

文太と真堂丸

だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。 その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。 逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。 そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達 お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。 そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇 彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。 これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。 (現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

処理中です...