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第六章

墓前で茫然自失

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「ショーキチ、熱心にありがとう。パパも喜んでると思う」
 クラマさんが最後に残したモノは二つある。一つはノトジアにノートリアスというサッカードウチームを。彼はノートリアスの初代監督でもあった。
 そしてもう一つ……というかもう一人。ルーナさんだ。彼女はクラマさんとアルテさんの娘なのだ。
「そうだと良いけど。実際の所、パパ……クラマさんってどんな人だったの?」
 俺がそう訊ねるとルーナさんは墓石の周りの雑草を引き抜きつつしばらく長考に入った。彼女独特の間だ。流石にちょっと慣れてきた。
「そうだなあ。顔や背丈は全然違うけど、ショーキチに似てなくもないかな?」
「えっ!? それは嬉しいような恐れ多いような」
 何せこの世界にサッカードウを広め、後にはノトジアで戦った御仁だ。偉人にして英雄だもんな。
「頭良いけど面白くて……頭が柔らかいっていうのかな? 色々と楽しい事を思いつく天才。それで凄く優しいけど自分には厳しい」
 クラマさんの事を言っている筈だが何だか照れてきた。
「確かにそうであります。クラマ殿とショーキチ殿、共通点は多く素敵な方です」
 赤くなった俺の顔を面白がるようにナリンさんも覗き込む。珍しくナリンさんがSモードからかいモードだ。
「だよねナリン。あ、あとエッチな所も似ている」
 はあ!?
「なっナリンさんもそう思ってらっしゃるんですか?」
「違います! 同意したのはその前の部分までです!」
 騒ぐ俺たちを見ながらルーナさんは続ける。
「わたしがセンシャやるのも嫌がってたら『何を恥ずかしがる。パパも見たいから是非やりなさい』だもん。凄い神経してるよね」
 センシャ、あの負けたチームが水着で勝ったチームの馬車を洗う儀式のことだ。廃止を提言する予定ではあるが、確かにそれはなかなかの助べえだな。
 そう、涙を飲んで提言するつもりだ。む!? ここは話を変えるチャンスだな!?
「じゃあSBをやりたいって言うのも、お父さんの提言だからなんだ?」
 お墓までの道中で話題になったのがそれだ。シャマーさんにも言った通り、俺は4バックのセンターコンビをルーナさんとシャマーさんで考えていた。たが俺の構想を前に、彼女はきっぱりと自分の希望を告げていた。
「私は左SBで勝負したい」
と。
「いつかはCBをやると思う。パパは『監督をやる前の何年かはCBになるだろう』って言ってた。でもそれまではSBとして勉強しなさい、て」
 俺の狙い通り話の流れが変わった! と喜んでないで真面目に考える必要がある。
 実際のところ彼女のCBとしての適正は抜群だ。だが身体能力だけで殆どこなせてしまうので、守備専のそれだけの選手になってしまう可能性がある。
 しかしSBとして選手人生を過ごすなら話は別だ。攻撃、守備、パスでの組立……最初は苦労するだろうが、より多くの事に関わりよりスケールの大きな選手に育つチャンスがある。
 しかも監督になる事も視野に入れているという。ならばSBという難しいポジションを経験しておくことはきっと役に立つ筈だ。
 それらを併せて思うのは、クラマさんはサッカードウの未来を何も考えていな訳ではなかったという事だ。
 ノートリアスという種族混成チームを作り種族代表チーム以外の可能性を、そして愛娘ルーナさんに学ぶべき事を伝えサッカードウの戦術の発展を。
 となると別に俺がこの世界にこなくても、それなりにサッカードウは進化してたかもしれないな?
「ショーキチ? 大丈夫?」
 自分の必要性? 必然性? みたいなモノが減った感じがして少し寂しくなっていた俺を見て、ルーナさんが気遣うような言葉をかけてきた。
「大丈夫だよ。ただシャマーさんに相棒がルーナさんって事とSBの候補探しを依頼してたので、またお願いし直さなきゃいけないなー、と思ってただけさ」
 ルーナさんに余計な心配をかけまいとして、俺は少しおどけて言う。
「それは心配ない。ショーキチのお願いならシャマーは何でも聞くよ」
 なんだその根拠無い自信は?
「それよりも新しい彼女ができた言い訳の方を考えておいた方が良い」
「ええっ!?」
 ナリンさんが派手にバケツをひっくり返した。
「ショーキチ殿、あれははったり演技では無かったのでありますか!?」
「違う違う! 前に言った通りアレはお母さん宛の演技だよ!」
 ナリンさんにはそう、説明していた。レイさんはお母さんを心配させる為に俺との結婚をチラつかせただけだ、と。
「可愛いよね、あのナイトエルフのレイって娘。ショーキチとの空気感も何か特別なものがあるし。ナリンの事は十分に警戒してたみたいだけど、あんな強敵も現れるなんてシャマーも大変だ」
 ルーナさんため息混じりにしみじみと呟く。
「自分が!? いや自分は違う……と言いうか違うのが違うと言うか……」
「いや二人とも凄い誤解があります!」
 恐ろしい読みを発揮するルーナさんとしどろもどろのナリンさんを前に俺はうろたえるしかなかった。
「じゃあ帰ろっか」
 そんな俺達を気にもせずルーナさんが歩き出した。
「ちょっと! 誤解したままなのは困るっていうか!」
「そうであります! ルーナ、詳しい話を!」
 俺とナリンさんは慌ててルーナさんを追いかけ、最後に一度、揃ってクラマさんのお墓に頭を下げた。

 墓石の方から、クスっと笑い声のような風が吹いた気がした。
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