上 下
95 / 624
第六章

墓前で茫然自失

しおりを挟む
「ショーキチ、熱心にありがとう。パパも喜んでると思う」
 クラマさんが最後に残したモノは二つある。一つはノトジアにノートリアスというサッカードウチームを。彼はノートリアスの初代監督でもあった。
 そしてもう一つ……というかもう一人。ルーナさんだ。彼女はクラマさんとアルテさんの娘なのだ。
「そうだと良いけど。実際の所、パパ……クラマさんってどんな人だったの?」
 俺がそう訊ねるとルーナさんは墓石の周りの雑草を引き抜きつつしばらく長考に入った。彼女独特の間だ。流石にちょっと慣れてきた。
「そうだなあ。顔や背丈は全然違うけど、ショーキチに似てなくもないかな?」
「えっ!? それは嬉しいような恐れ多いような」
 何せこの世界にサッカードウを広め、後にはノトジアで戦った御仁だ。偉人にして英雄だもんな。
「頭良いけど面白くて……頭が柔らかいっていうのかな? 色々と楽しい事を思いつく天才。それで凄く優しいけど自分には厳しい」
 クラマさんの事を言っている筈だが何だか照れてきた。
「確かにそうであります。クラマ殿とショーキチ殿、共通点は多く素敵な方です」
 赤くなった俺の顔を面白がるようにナリンさんも覗き込む。珍しくナリンさんがSモードからかいモードだ。
「だよねナリン。あ、あとエッチな所も似ている」
 はあ!?
「なっナリンさんもそう思ってらっしゃるんですか?」
「違います! 同意したのはその前の部分までです!」
 騒ぐ俺たちを見ながらルーナさんは続ける。
「わたしがセンシャやるのも嫌がってたら『何を恥ずかしがる。パパも見たいから是非やりなさい』だもん。凄い神経してるよね」
 センシャ、あの負けたチームが水着で勝ったチームの馬車を洗う儀式のことだ。廃止を提言する予定ではあるが、確かにそれはなかなかの助べえだな。
 そう、涙を飲んで提言するつもりだ。む!? ここは話を変えるチャンスだな!?
「じゃあSBをやりたいって言うのも、お父さんの提言だからなんだ?」
 お墓までの道中で話題になったのがそれだ。シャマーさんにも言った通り、俺は4バックのセンターコンビをルーナさんとシャマーさんで考えていた。たが俺の構想を前に、彼女はきっぱりと自分の希望を告げていた。
「私は左SBで勝負したい」
と。
「いつかはCBをやると思う。パパは『監督をやる前の何年かはCBになるだろう』って言ってた。でもそれまではSBとして勉強しなさい、て」
 俺の狙い通り話の流れが変わった! と喜んでないで真面目に考える必要がある。
 実際のところ彼女のCBとしての適正は抜群だ。だが身体能力だけで殆どこなせてしまうので、守備専のそれだけの選手になってしまう可能性がある。
 しかしSBとして選手人生を過ごすなら話は別だ。攻撃、守備、パスでの組立……最初は苦労するだろうが、より多くの事に関わりよりスケールの大きな選手に育つチャンスがある。
 しかも監督になる事も視野に入れているという。ならばSBという難しいポジションを経験しておくことはきっと役に立つ筈だ。
 それらを併せて思うのは、クラマさんはサッカードウの未来を何も考えていな訳ではなかったという事だ。
 ノートリアスという種族混成チームを作り種族代表チーム以外の可能性を、そして愛娘ルーナさんに学ぶべき事を伝えサッカードウの戦術の発展を。
 となると別に俺がこの世界にこなくても、それなりにサッカードウは進化してたかもしれないな?
「ショーキチ? 大丈夫?」
 自分の必要性? 必然性? みたいなモノが減った感じがして少し寂しくなっていた俺を見て、ルーナさんが気遣うような言葉をかけてきた。
「大丈夫だよ。ただシャマーさんに相棒がルーナさんって事とSBの候補探しを依頼してたので、またお願いし直さなきゃいけないなー、と思ってただけさ」
 ルーナさんに余計な心配をかけまいとして、俺は少しおどけて言う。
「それは心配ない。ショーキチのお願いならシャマーは何でも聞くよ」
 なんだその根拠無い自信は?
「それよりも新しい彼女ができた言い訳の方を考えておいた方が良い」
「ええっ!?」
 ナリンさんが派手にバケツをひっくり返した。
「ショーキチ殿、あれははったり演技では無かったのでありますか!?」
「違う違う! 前に言った通りアレはお母さん宛の演技だよ!」
 ナリンさんにはそう、説明していた。レイさんはお母さんを心配させる為に俺との結婚をチラつかせただけだ、と。
「可愛いよね、あのナイトエルフのレイって娘。ショーキチとの空気感も何か特別なものがあるし。ナリンの事は十分に警戒してたみたいだけど、あんな強敵も現れるなんてシャマーも大変だ」
 ルーナさんため息混じりにしみじみと呟く。
「自分が!? いや自分は違う……と言いうか違うのが違うと言うか……」
「いや二人とも凄い誤解があります!」
 恐ろしい読みを発揮するルーナさんとしどろもどろのナリンさんを前に俺はうろたえるしかなかった。
「じゃあ帰ろっか」
 そんな俺達を気にもせずルーナさんが歩き出した。
「ちょっと! 誤解したままなのは困るっていうか!」
「そうであります! ルーナ、詳しい話を!」
 俺とナリンさんは慌ててルーナさんを追いかけ、最後に一度、揃ってクラマさんのお墓に頭を下げた。

 墓石の方から、クスっと笑い声のような風が吹いた気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる
ファンタジー
 20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。  主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。  その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

文太と真堂丸

だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。 その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。 逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。 そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達 お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。 そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇 彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。 これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。 (現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

処理中です...