上 下
87 / 647
第六章

むかし荒ぶるエライお坊さんが!

しおりを挟む
 その時の会合はそれで終わり、色々な事が有耶無耶になったままヨミケを立つ日が訪れた。
 母親の事を許す事ができない、とあの日には言っていたレイさんだがとっくに仲直りしていたらしく、別れの時はフィーさん含め家族全員と熱く抱擁を交わし、これまた関係を修復したかつてのチームメイトやコーチに手を振りヨミケを後にした。
 ルートは以前、俺達がリストさんの尊み略奪隊と共に来た道である。フィーさんの抜け道はイリス村に近過ぎるのだ。
 故に道中は再び無言と緊張で占められ、地上に無事着いた時は全員が一斉に大きく息を吐いた。
「はあ~! これが地上の朝、なんやね!」
 特にレイさんは感動もひとしおといった感じである。彼女は略奪隊に参加経験も無く、母親を問い詰めにイリス村付近に行った時は夜かつあんな事情……ということで地上を噛みしめる状況ではなかったからだ。
「準備おっけーだぴい!」
「よーし、みんな乗りな!」
 俺達が一息ついている間に諸々を整えたスワッグとステフが馬車と共に現れた。このコンビは地上に隠していた馬車を回収そして改造してくれたのだ。
「お邪魔するでござる。ほう、広い!」
「ゲームも漫画もいっぱいあるっすよ!」
 乗るなり、リストさんとクエンさんが歓声を上げる。以前から馬車の内部は魔法で見た目より広くされているが、今回三名が旅に加わるとあって更に広げられたのだ。
 そう、三名。ナイトエルフのリストさんクエンさんレイさんだ。初めて地上で暮らす事になる彼女らをいってらっしゃい、とばかりにエルフの都へ自分たちだけで行かせる訳にもいかず、かと言ってずっと同行させるにもフットワークが悪い……との事でこの後の視察旅行はやや駆け足で済ませる事となる。
「じゃあ、俺はこっちで。すぐ出発しますよ」
 みんなにそう言い残し、俺は御者台へ座った。スワッグに合図し移動を始める。
 動き初めてすぐ、馬車内の部屋から歓声があがった。おそらく
「うわ、全然揺れてない」
などと盛り上がっているのだろう。
 これからの旅の間は御者台で俺が引き続き世界や種族の講義を受け、馬車の中でナリンさんがアローズの戦術などについて指導する予定だ。という予定ではあるが、あの女子だらけ集団でどれだけ順調に進行できるかは謎だ。時には俺もアシストに入る必要があるだろう。
「眠そうな話だったから来たぞ」
 そう考え込む俺の隣にステフが現れた。俺達にまあまあ感化されて変わってきたとは言え、彼女はサッカードウにそこまで興味はない。ナリンさんの話も退屈だったのだろう。
「ああ、ちょうど良い所に来てくれた」
 俺は御者台のクッションを手渡し、彼女に相談を始めた。

「先にちょっと困った報告から言っておくんだけど、ナリンさんに俺の家族の事が知られたよ」
 大洞穴へ入る前に俺のステフの間で議題に登った件だ。俺の境遇――家族と殆ど死別し孤独な身であること――をナリンさんに伝えるかどうか? 伝えたらどんな影響があるか? の話。
「ほほう」
「正直、その後から忙しくて二人っきりになる事もなかったからナリンさんの態度がどう? とかは言えないんだけどな」
 デイエルフは家族ファミリー愛が強く孤立した対象への保護欲も強い。それが時として予想外の愛情に繋がってしまうかもしれない、との話だ。
 前半部分については間違いはなくナリンさんも例外ではなかった。レイさんの悩ましい家族関係を耳にした時、ナリンさんは普段のクールさからは想像もつかないくらいに取り乱し、人目もはばからずに涙を落とした。 
 が、そこは問題ではない。やっかいなのは後半部分だ。そのレイさんの家族関係が一段落したのと入れ違うように、俺の環境がナリンさんに伝わってしまった。いやはっきり言うと俺が口を滑らせてしまったのだが。
 それを聞いてナリンさんはどう思ったのだろう? また俺に対して何か違った感情を持つようになってしまったのだろうか?
「そっか」
「そっかじゃなくてさ。そんなに軽く受け流さないでくれよ。意外と深刻な問題になるかもしれないんだし」
 ステフの態度に少し苛ついた俺が抗議の声を上げると、彼女はすまんというように手を上げ続けた。
「実は別方面でも事態が動いてな。じゃあこっちもちょっと困った報告から行こうかな」
 上げた手をそのまま頭部に降ろし、髪先を指で弄びながらステフは続けた。
「レイちゃんにもお前の家族の話が伝わったぞ」
「はあ。そっか」
 どういう会話の流れでそうなったのか謎だったが、もっと不思議なのはそれが困った報告、という部分だ。
「そっかじゃなくてな! お前も軽く受け流し過ぎだぞ」
 今度はステフが俺の態度に抗議を行った。
「いや、だって別にナイトエルフはナリンさんたちデイエルフほど情がどうこうって訳じゃないだろ? 尊いとかそっち方面はうるさいけど」
 俺がそう聞き返すとステフはクンクンと鼻を鳴らした後、空を見上げて言った。
「分からんのか、哀れな男だな。まあいいや、アタシの勘じゃあと3分くらいで本体レイさんが来るから」
 なんだよその哀れな男呼びと具体的な時間は? としかめっ面でステフを見るが、彼女は口笛で「コーヒールンバ」を奏でつつよそを向いた。
「なあ? ウチもそっち行ってええ?」
 悔しい事に、ステフの予言通りレイさんが馬車内から声をかけてきた。
「いいぞ、入れ替わろう。あ、それ一個貰って良い?」
 俺が返事するより早くステフがレイさんに応答し、彼女の持ってきたトレイからコーヒーカップを一つ掴むと入れ替わるように馬車の中へ消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...