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第五章
ファン感謝祭
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翌日になっても頭の痛みは治らなかった。むしろ増したと言っても良いくらだ。
いや、順番通り整理しよう。「ナイトエルフ代表ファン感謝祭」は順調に開催された。スタジアムDJのスワッグステップが煽る中、ファンと選手がコンビを組んで挑むドリブルリレー競争やキックターゲットが遊ばれ、選手への一問一答コーナーが盛り上がり、まず選手ファン入り交じりの、後に選手だけの紅白戦が行われた。
その全てでリストさんは大活躍だった。ドリブルで劣勢になると相棒の幼子を抱えて全力疾走、キックは的を壊す勢い、質問コーナーでは特有の早口で熱く語る。悔しいが顔も整っていて気さくな性格なので人気も高く、サイン会では長蛇の列が前に並んだ。
しかし一番の躍動はやはり試合だった。相棒のクエンさんと組んだCBのコンビはまさに鉄壁の山脈。一般的にナイトエルフさんたちは生息地が大洞穴という洞窟&対戦相手がゴルルグ族、という事から足下の細やかなテクニックに優れ、予測不可能なフェイントやドリブルを得意とするようだが、彼女たちは悉くそれをシャットダウンした。
しかも恐るべき事にリストさんは後半からCFで出場した。ゴブリンのカーリー選手のようにリベロの練習……という感じではない。本格的なFWとして前線に張った彼女は空中戦でボールを収め、巧みなテクニックで相手DFの嫌がる所にボールを運び、強烈なシュートでゴールを決めた。まさかサッカーでも二刀流だったとは。
強い。強すぎる個性だ。チームに欲しい欲しくないで言えば欲しい。だがあまりにも本能のままにプレイしている。CBの時は味方の位置を考えずボールホルダーに闇雲にアタックするし、FWの時も既に味方がいるニアサイドへ同時に突っ込んでしまったりする。
監督としてはメリットデメリット計算の上でそんな選手を使うかどうか非常に悩む所だし、一個人のサッカーファンとしても「勿体ないなあ」という気持ちがある。
そういう訳で俺はその日になってもリストさんの事で頭を痛めていたのである。そして次にはそれを忘れるような大事件も起きた。
『それでは最後の触れ合いコーナーですぴい。選手はそのままピッチに残って下さいぴよ。観客席のお子さんは係員さんのいる階段からピッチに降りて選手と戯れて良いぴよ』
『お子さんと、その保護者だけだぞ! 行けるヤツは行っとけ! この機会に触っておかないと勿体ないぞ!』
それは、なんて事ない時間だった。スワッグとステフの場内アナウンスの通り、ファン感謝祭最後のイベントである触れ合いタイム――ピッチを子供たちに解放し、自由にボールを蹴ったり選手にファンサービスして貰ったりできる時間――の風景。
俺はスタジアム上部のボックスシートからそれを眺めていた。ここまでスキルチャレンジや練習や紅白戦を上から観てアローズへ誘いたい選手を何名かピックアップし、リストさんの事で脳味噌を使い過ぎて頭を痛めた。だからその時間に至ってはあまり真剣に芝生の上を見ていなかった。
そもそも練習試合後の子供との戯れだ。さっきまで真面目な顔をしていた選手たちのゆるんだ顔や、楽しそうな子供たちの姿を見てなごむ時間である。
だが俺はある少女に目を奪われた。人間だとギリギリ高校生くらいに見えるその少女は、クエンさんにドリブル突破をしかけ尻餅を着かせて抜き去ると、斜め後ろから突っ込んできた幼女二名――前を見ずに後ろを向いて楽しい悲鳴を上げながら逃げている――を一跳躍で飛び越え、幼女を追って走ってきたリストさん(だった)の頭上にボールを通して自分は脇をすり抜けてまた全速力で別の方向へダッシュしていた。ボールはその間、頭上に浮かした時を除いて彼女の足先から10cmと離れる事はなかった。
「ナリンさん、ナリンさんあの子!」
俺はボックスシートから飛び出し階段を駆け下り、ピッチサイドで係員として働いているナリンさんを呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「ナリンさん、今すぐあの子を捕まえて着替えさせて、もし保護者の方がいたらその人たちも一緒に控え室まで連れてきて下さい!」
いや、順番通り整理しよう。「ナイトエルフ代表ファン感謝祭」は順調に開催された。スタジアムDJのスワッグステップが煽る中、ファンと選手がコンビを組んで挑むドリブルリレー競争やキックターゲットが遊ばれ、選手への一問一答コーナーが盛り上がり、まず選手ファン入り交じりの、後に選手だけの紅白戦が行われた。
その全てでリストさんは大活躍だった。ドリブルで劣勢になると相棒の幼子を抱えて全力疾走、キックは的を壊す勢い、質問コーナーでは特有の早口で熱く語る。悔しいが顔も整っていて気さくな性格なので人気も高く、サイン会では長蛇の列が前に並んだ。
しかし一番の躍動はやはり試合だった。相棒のクエンさんと組んだCBのコンビはまさに鉄壁の山脈。一般的にナイトエルフさんたちは生息地が大洞穴という洞窟&対戦相手がゴルルグ族、という事から足下の細やかなテクニックに優れ、予測不可能なフェイントやドリブルを得意とするようだが、彼女たちは悉くそれをシャットダウンした。
しかも恐るべき事にリストさんは後半からCFで出場した。ゴブリンのカーリー選手のようにリベロの練習……という感じではない。本格的なFWとして前線に張った彼女は空中戦でボールを収め、巧みなテクニックで相手DFの嫌がる所にボールを運び、強烈なシュートでゴールを決めた。まさかサッカーでも二刀流だったとは。
強い。強すぎる個性だ。チームに欲しい欲しくないで言えば欲しい。だがあまりにも本能のままにプレイしている。CBの時は味方の位置を考えずボールホルダーに闇雲にアタックするし、FWの時も既に味方がいるニアサイドへ同時に突っ込んでしまったりする。
監督としてはメリットデメリット計算の上でそんな選手を使うかどうか非常に悩む所だし、一個人のサッカーファンとしても「勿体ないなあ」という気持ちがある。
そういう訳で俺はその日になってもリストさんの事で頭を痛めていたのである。そして次にはそれを忘れるような大事件も起きた。
『それでは最後の触れ合いコーナーですぴい。選手はそのままピッチに残って下さいぴよ。観客席のお子さんは係員さんのいる階段からピッチに降りて選手と戯れて良いぴよ』
『お子さんと、その保護者だけだぞ! 行けるヤツは行っとけ! この機会に触っておかないと勿体ないぞ!』
それは、なんて事ない時間だった。スワッグとステフの場内アナウンスの通り、ファン感謝祭最後のイベントである触れ合いタイム――ピッチを子供たちに解放し、自由にボールを蹴ったり選手にファンサービスして貰ったりできる時間――の風景。
俺はスタジアム上部のボックスシートからそれを眺めていた。ここまでスキルチャレンジや練習や紅白戦を上から観てアローズへ誘いたい選手を何名かピックアップし、リストさんの事で脳味噌を使い過ぎて頭を痛めた。だからその時間に至ってはあまり真剣に芝生の上を見ていなかった。
そもそも練習試合後の子供との戯れだ。さっきまで真面目な顔をしていた選手たちのゆるんだ顔や、楽しそうな子供たちの姿を見てなごむ時間である。
だが俺はある少女に目を奪われた。人間だとギリギリ高校生くらいに見えるその少女は、クエンさんにドリブル突破をしかけ尻餅を着かせて抜き去ると、斜め後ろから突っ込んできた幼女二名――前を見ずに後ろを向いて楽しい悲鳴を上げながら逃げている――を一跳躍で飛び越え、幼女を追って走ってきたリストさん(だった)の頭上にボールを通して自分は脇をすり抜けてまた全速力で別の方向へダッシュしていた。ボールはその間、頭上に浮かした時を除いて彼女の足先から10cmと離れる事はなかった。
「ナリンさん、ナリンさんあの子!」
俺はボックスシートから飛び出し階段を駆け下り、ピッチサイドで係員として働いているナリンさんを呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「ナリンさん、今すぐあの子を捕まえて着替えさせて、もし保護者の方がいたらその人たちも一緒に控え室まで連れてきて下さい!」
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