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第三章
手痛い講義
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翌日。俺たちはアーロンの魔法学院に来ていた。オフシーズンをここで過ごしているある選手を訪問する為である。
ここ以外でも他に何名か面談する予定があるが、一番の問題児との機会が最初に来たのは僥倖だろう。アレだ、最初にキツい坂を登ってしまえば後は楽になるってヤツ。
俺たちは学院の受付で聞いた棟へ入り、目当ての教室の後方のドアからそっと中を覗き込んだ。傾斜が設けられた生徒たちの座席の前方。坂の一番下の所、教壇に彼女がいた。
「で~式に代入すると答えは自ずとであるから~」
いつも通り、着崩した服装の上に今日は白衣。眼鏡もかけているので辛うじて真面目そうに見えるが、常に他者を騙そうとしているかのような気の抜けた笑顔は変わらない。シャマーさんだ。
「まだ授業中のようだから、出直そうか?」
俺は宿題を少しでも先延ばしにしたがる生徒のような気分で後ろのナリンさんたちに呟いた。今日はスワッグとステフもついてきている。
「じゃあ食堂でカレーライスでも喰って待つぴよ?」
「ショーちゃん! 来てくれたんだ!」
スワッグにツッコミを入れようとした俺のすぐ後ろで声がした。
「うわ、シャマーさん!」
瞬間移動か!? と驚く間にも彼女の腕は俺をがしりと掴んだ。
「今日はここまでー! 後は自習ねー!」
シャマーさんは俺の腕をしっかりと抱え込み、引っ張って教壇に向かいながら叫ぶ。
「え? 教授?」
「まだ講義は始まったところで……」
「ええい、うるさーい! 課題なら出してあげるから……えい!」
当然、生徒たちから講義中止への抗議の声が上がったが、シャマーさんが何言か呟くと半透明で巨大な手の平が空中に現れぽいぽいと彼らを廊下へつまみ出していく。
「そんな事して良いんですか!?」
「良いよ~。ここは私の教室だしー。ね、わざわざ来てくれたんだからお礼しないと! 教卓の上が良い? それとも黒板に押しつけて?」
上や黒板で何をするんだ!? とパニクる俺をシャマーさんは床の上に押し倒し、白衣を脱ぐ。
「シャマー! 辞めなさい!」
ナリンさんが廊下から叫ぶ。いつのまにかいつぞやのように壁が出来て妨害を阻止しているが、今回の壁はもっと大きく教室を覆うくらいだ。
「ふふふ。ここは私の領域だし、今日はダリオもいないもんねー」
そう言いいながらシャマーさんは俺の腰の上に跨がり、腹から首筋までそっと指を這い登らせる。
「そういうのは辞めましょうシャマーさん! 話をしましょう! 今日はねシャマーさん、俺は話をしに来たんだ!」
俺はかつての飯塚さんに説得を試みる野上アナウンサーのような事を口走ったが、それは結果が同じ事になるフラグに過ぎなかった。
「今日はアレ着てないんだね。じゃあ脱いじゃえ~」
シャマーさんは俺の上着を一気にはぎ取った。露わになった俺の胸を指先でさぐりつつ、自分は腰をくねらせる。くっこのままでは……
「あーこれは確実に一度は抱いとるぴよ」
「言っただろう? アタシはこういう事に詳しいんだ」
すぐ側で気の抜けた声がした。スワッグとステフだ! 俺を様々な危険から守る筈のコンビは床の上の俺たちを見易いようにしゃがみ込んで眺めている。
「な! どうやって中に!?」
「おまえ等、護衛だろう! 助けてくれ!」
驚くシャマーさんにとプロレス団体の悪のオーナーみたいな台詞で助けを求める俺を前に、一匹と一人は顔を見合わせて言った。
「俺たち青義軍じゃないぴい」
「そんなに必要そうでもないしなあ」
薄情者!
「もしかして……ダスクエルフに風の眷属!? 本気って訳ね……!」
しかしシャマーさんの反応は違った。俺の上から跳ね飛び窓際まで後退すると、右手で眼鏡を外し左手に魔法の稲妻を帯電させる。
「でも白昼の情事の邪魔はさせない! 相手にとって不足はないわ!」
「ほー不足ないならどうするんだ?」
初めて見るシリアスな顔のシャマーさんに対峙し、ステフも芸人衣装のだぶついた所をまとめて帯へ押し込む。両者、完全に戦闘態勢だ。待て、作風が違ってしまう!
「ショーキチ殿! 大丈夫ですか!?」
気づくとナリンさんが隣に立ち、立ち上がった俺にマントを被せていた。廊下を見ると魔法の壁に穴が開いている。ステフがやったのか?
「はい、でもアレを停めないと!」
そのステフとシャマーさんを見ると、二人は無言でにらみ合いながらジリジリと距離を詰めていた。魔術の達人らしいシャマーさんにとって近距離は不利ではないか? とは思うものの、剣士らしいステフの方もまだ武器は抜いていない。
お互い魔法攻撃も武器も繰り出さないまま、魔術師と剣士はズズイ、と歩み寄り、無い胸同士が(失礼!)触れる距離まで接近すると額をぶつけるように顔を近づけ……
「ちゅっ!」
軽く、小鳥のようなキスをした。
「はい?」
呆気にとられた俺とナリンさんの横で、スワッグが何かを取り出し器用に口にくわえながら、どこか聞き覚えのある音楽を口ずさんだ。
「てってれー! 大成功ぴい!」
どういうワザか知らないがプラカードの柄を口に含みつつ正確に発音している。そして当のプラカードには大きく
「まる秘! ドッキリ大作戦!」
の文字が!
「いぇーい!」
「やったぜ!」
真剣な顔から一転、笑顔になったシャマーさんとステフがハイタッチを交わしている。
「ドッキリだったの?」
「そうだよー」
「いやあ、良い騙されっぷりだったぞ?」
安堵と衝撃で俺は再び倒れ込んだ。まさか異世界の住人がダチョウ倶楽部のアレを完全に演じ切るとは!
「なかなかの撮れ高ぴよ」
黙れダチョウというより堕鳥!
「ショーキチ殿、これは一体?」
取り残されたナリンさんが困惑しつつ俺の横に座り込む。
「あーこれはドッキリと言って地球にある悪趣味な悪戯です。さっきのバチバチは演技で……ていつ仕込んだ!?」
言葉の最後はナリンさん以外の三人にへ、だ。
「ショーちゃんたちが試合を観ている間に来てくれたんだよー」
「アタシたち、もともと知り合いでなあ」
「トリオでコントしてドサ回りしても受けそうぴよ」
そうか。俺とナリンさんが全うに仕事している間にそんな事を。
「でもスーたち、介入のタイミングがちょっと早かったよー」
「いやそれはお前がアドリブで脱がすからだぞ?」
「ゴールデンで流す限界を見極めるぴよ」
早速、反省会を始める三人を横に、俺も俺で二度とシャマーさんには騙されまい、と反省するのであった……。
ここ以外でも他に何名か面談する予定があるが、一番の問題児との機会が最初に来たのは僥倖だろう。アレだ、最初にキツい坂を登ってしまえば後は楽になるってヤツ。
俺たちは学院の受付で聞いた棟へ入り、目当ての教室の後方のドアからそっと中を覗き込んだ。傾斜が設けられた生徒たちの座席の前方。坂の一番下の所、教壇に彼女がいた。
「で~式に代入すると答えは自ずとであるから~」
いつも通り、着崩した服装の上に今日は白衣。眼鏡もかけているので辛うじて真面目そうに見えるが、常に他者を騙そうとしているかのような気の抜けた笑顔は変わらない。シャマーさんだ。
「まだ授業中のようだから、出直そうか?」
俺は宿題を少しでも先延ばしにしたがる生徒のような気分で後ろのナリンさんたちに呟いた。今日はスワッグとステフもついてきている。
「じゃあ食堂でカレーライスでも喰って待つぴよ?」
「ショーちゃん! 来てくれたんだ!」
スワッグにツッコミを入れようとした俺のすぐ後ろで声がした。
「うわ、シャマーさん!」
瞬間移動か!? と驚く間にも彼女の腕は俺をがしりと掴んだ。
「今日はここまでー! 後は自習ねー!」
シャマーさんは俺の腕をしっかりと抱え込み、引っ張って教壇に向かいながら叫ぶ。
「え? 教授?」
「まだ講義は始まったところで……」
「ええい、うるさーい! 課題なら出してあげるから……えい!」
当然、生徒たちから講義中止への抗議の声が上がったが、シャマーさんが何言か呟くと半透明で巨大な手の平が空中に現れぽいぽいと彼らを廊下へつまみ出していく。
「そんな事して良いんですか!?」
「良いよ~。ここは私の教室だしー。ね、わざわざ来てくれたんだからお礼しないと! 教卓の上が良い? それとも黒板に押しつけて?」
上や黒板で何をするんだ!? とパニクる俺をシャマーさんは床の上に押し倒し、白衣を脱ぐ。
「シャマー! 辞めなさい!」
ナリンさんが廊下から叫ぶ。いつのまにかいつぞやのように壁が出来て妨害を阻止しているが、今回の壁はもっと大きく教室を覆うくらいだ。
「ふふふ。ここは私の領域だし、今日はダリオもいないもんねー」
そう言いいながらシャマーさんは俺の腰の上に跨がり、腹から首筋までそっと指を這い登らせる。
「そういうのは辞めましょうシャマーさん! 話をしましょう! 今日はねシャマーさん、俺は話をしに来たんだ!」
俺はかつての飯塚さんに説得を試みる野上アナウンサーのような事を口走ったが、それは結果が同じ事になるフラグに過ぎなかった。
「今日はアレ着てないんだね。じゃあ脱いじゃえ~」
シャマーさんは俺の上着を一気にはぎ取った。露わになった俺の胸を指先でさぐりつつ、自分は腰をくねらせる。くっこのままでは……
「あーこれは確実に一度は抱いとるぴよ」
「言っただろう? アタシはこういう事に詳しいんだ」
すぐ側で気の抜けた声がした。スワッグとステフだ! 俺を様々な危険から守る筈のコンビは床の上の俺たちを見易いようにしゃがみ込んで眺めている。
「な! どうやって中に!?」
「おまえ等、護衛だろう! 助けてくれ!」
驚くシャマーさんにとプロレス団体の悪のオーナーみたいな台詞で助けを求める俺を前に、一匹と一人は顔を見合わせて言った。
「俺たち青義軍じゃないぴい」
「そんなに必要そうでもないしなあ」
薄情者!
「もしかして……ダスクエルフに風の眷属!? 本気って訳ね……!」
しかしシャマーさんの反応は違った。俺の上から跳ね飛び窓際まで後退すると、右手で眼鏡を外し左手に魔法の稲妻を帯電させる。
「でも白昼の情事の邪魔はさせない! 相手にとって不足はないわ!」
「ほー不足ないならどうするんだ?」
初めて見るシリアスな顔のシャマーさんに対峙し、ステフも芸人衣装のだぶついた所をまとめて帯へ押し込む。両者、完全に戦闘態勢だ。待て、作風が違ってしまう!
「ショーキチ殿! 大丈夫ですか!?」
気づくとナリンさんが隣に立ち、立ち上がった俺にマントを被せていた。廊下を見ると魔法の壁に穴が開いている。ステフがやったのか?
「はい、でもアレを停めないと!」
そのステフとシャマーさんを見ると、二人は無言でにらみ合いながらジリジリと距離を詰めていた。魔術の達人らしいシャマーさんにとって近距離は不利ではないか? とは思うものの、剣士らしいステフの方もまだ武器は抜いていない。
お互い魔法攻撃も武器も繰り出さないまま、魔術師と剣士はズズイ、と歩み寄り、無い胸同士が(失礼!)触れる距離まで接近すると額をぶつけるように顔を近づけ……
「ちゅっ!」
軽く、小鳥のようなキスをした。
「はい?」
呆気にとられた俺とナリンさんの横で、スワッグが何かを取り出し器用に口にくわえながら、どこか聞き覚えのある音楽を口ずさんだ。
「てってれー! 大成功ぴい!」
どういうワザか知らないがプラカードの柄を口に含みつつ正確に発音している。そして当のプラカードには大きく
「まる秘! ドッキリ大作戦!」
の文字が!
「いぇーい!」
「やったぜ!」
真剣な顔から一転、笑顔になったシャマーさんとステフがハイタッチを交わしている。
「ドッキリだったの?」
「そうだよー」
「いやあ、良い騙されっぷりだったぞ?」
安堵と衝撃で俺は再び倒れ込んだ。まさか異世界の住人がダチョウ倶楽部のアレを完全に演じ切るとは!
「なかなかの撮れ高ぴよ」
黙れダチョウというより堕鳥!
「ショーキチ殿、これは一体?」
取り残されたナリンさんが困惑しつつ俺の横に座り込む。
「あーこれはドッキリと言って地球にある悪趣味な悪戯です。さっきのバチバチは演技で……ていつ仕込んだ!?」
言葉の最後はナリンさん以外の三人にへ、だ。
「ショーちゃんたちが試合を観ている間に来てくれたんだよー」
「アタシたち、もともと知り合いでなあ」
「トリオでコントしてドサ回りしても受けそうぴよ」
そうか。俺とナリンさんが全うに仕事している間にそんな事を。
「でもスーたち、介入のタイミングがちょっと早かったよー」
「いやそれはお前がアドリブで脱がすからだぞ?」
「ゴールデンで流す限界を見極めるぴよ」
早速、反省会を始める三人を横に、俺も俺で二度とシャマーさんには騙されまい、と反省するのであった……。
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