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第二章
よっ、と出勤
しおりを挟む一つ方針が決まった所で俺は王城へ向かう事にした。新居は練習場には近いが、都やその中心へ行くには少々時間がかかる場所にある。王家と距離を取りたいと望んだ事とは言え、少々面倒だ。これまた自ら決めた事だが一週間に一度エルフサッカードウ協会、つまりダリオさんとのミーティングに出向くのも。まあ家と練習場の往復だけでは気が塞がるし、完全放置ではゆるみも出てしまうしね。
で、出勤先へ行く手段は大きく分けて三つある。一つは例のグリフォン。あの魔獣は森林警護隊にもふんだんに配備されており、何かあれば魔法の角笛で運転手込みで呼び出せるようになっている。そして俺は緊急事態のみならず普段の脚として使用することも認可されていたりする。嬉しいような嬉しくないような。
次いで二つめは魔法の転送装置。魔力の込められた鎖を特定の形で地面に並べ、その中心に飛び込めばすぐ王城内の魔法円に瞬間移動されるようになっている。だがこちらこそ緊急事態専用の手段で、普段は俺の寝室の鍵がかかる引き出しに保管されている。実は試した事もない。怖いから。瞬間移動の最中に蠅でも同乗したらどうなるんだ?
最後の三つ目は船。家のすぐ側の桟橋に繋がれた小型ヨット、それ自体は普通の品物だが、俺にはシルフ(風の妖精)を封じ込めた魔法のオールが与えられている。オールからは圧縮空気的なものが放出され、帆を大きくたわませる事も水中に差し込んで推力を産み出すことも可能だ。荷物や搭乗人数、あともちろん風向きによって使い分ける事となる。
幸い、今日は西風だ。俺は行きをオールで進み、帰りに風の力を使える船で向かう事にした。買い物もして帰りには荷物が増える予定だし。
「ディードリット号、出発進行!」
何気に暇な時はこの船に乗って釣りをしたり、軽くジェットスキーのような操縦をしたりして手慣れている。名前さえもつけているくらいだ。ディード(愛称もある)は何の問題も無く湖面をスイスイと軽快に進み出した。
「かーんーとーくー! おーでーかーけー?」
その声に振り返ると、湖岸の開けた所でサッカーをしていたエルフの少年少女たちが足を止め手を振っていた。
「ああ。都まで!」
「おーみーやーげーまっーてーるー!」
「ああ、何かお菓子買って帰るよ!」
彼ら彼女らは俺のご近所さんであり友人であり教え子だ。エルフのみなさんは基本的に友好的かつ敬意を持って接してくれるが、やはり少し緊張も残る。だが子供たちとなると遠慮なく純粋に気持ちをぶつけてくれる。あの子たちの屈託のない振る舞いはここ数日で既にもう、かけがえのない大事なものになっていた。
まあ子供と言っても俺より年齢上だけれどな。
「やったー!」
「試合してて! 勝ったチームにはおまけをつけるよ!」
「わーい!」
そして俺はあの子たちにも指導を始めていた。と言っても大袈裟なものや技術的なものは教えたくないし教えられない。主に「変わったゲームのやり方」を提案する出題者として存在していた。
例えば「ヒールキックだと3点入る4vs4」とか。最初から全部ヒール繋ごうとするチームや、ゴール前に後ろ向きの選手を待たせて放り込むチームなどができて面白い。
或いは「二名手繋ぎ8vs8」とか。一名がボールキープに専念し名人が体でブロックするコンビ、軽い子を肩車してしまうコンビなども産まれたりする。
基本的に俺はルールを提示するだけで細かいやり方は教えない。ヒールキックの高さを決めないから浮いたボールを踵落としで決める子もいたし、手の繋ぎ方も決めないので向かい合って両手で輪を作り、その中でボールをキープするコンビができたりもする。
それで良いと思う。俺はあの子たちにはまずサッカーを好きになって欲しいし、色々思いついて試して失敗して笑いあって欲しい。
まあ、代表選手にさせる予定の練習の予行練習にもなるし。そう思えばお菓子代など安いものだろう。俺は脳内の買い物リストにお菓子を付け足しながら、船を都へ向けた。
かなり回り道というか回り運河させられながらも、俺は無事王城へ着いた。経路が簡単でないのは道と同じく、城の防衛の為だろうか。
「ショウキチ監督ですね、どうも」
俺の顔は先日の就任式以降、様々な媒体で広まっており衛兵さんたちにも顔パス状態だった。と言うか認証は不要だったが「代表を宜しくお願いします!」とか「今年こそ優勝を!」など言いながら握手を求める城のエルフ達によって進み難かったが。
それだけ鬱憤が溜まって期待が膨れているんだな。嬉しいが余計なプレッシャーにならなければ良いが……。そう思いつつ、適当な侍従さんを見つけて案内を頼み、俺はダリオさんの元へ着いた。
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