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第二章

就任式、堪忍

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 窓の外から聞こえる騒がしい声で目を覚ますと、ナリンさんの姿はなかった。ただ机に
「何処へでもご一緒します。怒りマーク」
という手紙だけが残されていた。なんだ、怒りマークって? 魔法の眼鏡のバグだろうか?
「ほんと、誠実な女性だなあ。それに比べて……」
 俺は窓に近づき中庭を見下ろす。そこには大きな馬車から次々と降りてくる代表チームの面々選手たちの姿があった。
『よっしゃ、飲むぞー!』
『ティアはそこそこにしなさいよ』
『リーシャ、足元注意』
 琵琶っぽい楽器を背負ったティアさん、それにリーシャさんとユイノさんの姿があった。みな服装はバラバラだが、それなりに正装しているようだ。あと負傷も、もう大丈夫っぽい。
『カイヤさま、お手を』
『もうシャマー、急に妊婦扱いしないでー』
 先にぴょん、と飛び降り手を差し出すシャマーさんと笑いながら介助を受けるカイヤさんの姿もあった。胸元の空いたドレスの谷間が俺の目に飛び込んでくる。
「うわっ、やべ!」
 慌てて目を逸らして呟く。今の風景ではない。エルフさんの言葉がまた分からなくなっているのだ。
 昨晩は深夜を越えても効いてた筈だし……12時の鐘ではなく夜明けで切れるパターンの魔法か。
『ショウキチ様、起きてらっしゃいますか?』
 その声にドアを開けた先には昨晩も世話になった侍従さんの姿があった。俺は魔法の眼鏡を駆使した筆談で再び翻訳魔術をかけて貰い、その日の段取りを聞く事となった。

 昼から始まった謝恩会には代表チーム、王族貴族、魔術商人冒険者各ギルド等関係者が列席し、意外と厳粛なムードで進行していった。あの王様がいつボケるか冷や冷やしながら観ていたもんだが。
 会も終盤。冒頭で監督兼キャプテン兼協会会長として(やっぱ過労じゃね?)今シーズンのサポートのお礼とチームの不振を詫びたダリオさんが再び登壇し、来シーズンの意気込みを語り終わった後で会場が暗転し魔法のスクリーンが出現した。
 そこにはまず今シーズンの失点シーンや苦しそうに喘ぐ選手達の動画が流れ、後にミノタウロス戦の激闘が映し出された。
 それにクロスオーバーするような形でピッチサイドで叫び走りミノタウロスの監督に吼える俺の姿も。……もう作ったんかこんなんプロモーションビデオ
「監督、どうぞ」
 朝に契約書とメモを提出し微調整を経て本契約が結ばれ、俺は晴れて代表監督に就任していた。侍従さんに促され壇上へ進む。
「彼こそは再び地球から現れたサッカードウ伝道師、名門コールセンターSVで敏腕を発揮し、ミノタウロス戦の逆転劇、奇跡的な残留を導いた名将、そして来シーズンより我らがエルフ代表を率いる新監督! ショウキチ殿であります!」
 レブロン王が朗々とした声で俺を紹介し、肩を掴んで見せびらかすようにお披露目する。万雷の拍手が会場を包んだ。てか王みずから司会のような仕事するんか。
「おお、あの死闘の指揮官が!」
「来シーズンの飛躍は間違いなしですな!」
「おめでとうございます!」
 お偉いさん達が祝福の声を上げる。分かっとんのか。
「おめでとー」
「スピーチスピーチ! 愛の言葉プリーズ!」
「なんかボケろ!」
 代表チームの面々も叫ぶ。後でシャマーさんとティアさんには屋上に来て貰おうヤキを入れよう
「そうだな。ここで新代表監督から一言貰おうか」
「はい」
 ここはちょっと締めねば。
「任命ならびにご紹介預かりまして誠にありがとうございます。チームを強化するにあたってはハードワークしかない。地球の監督の言葉にもあります。『努力と交渉の余地はない』。これは少しでも楽をしようと思うな、という意味であります。ですから自分はどんな仕事にもハードワークで挑む所存であります」
 その言葉でピリっとした面々(主にデイエルフ)や「固いよぉ~」と言いたげな面々(主にドーンエルフ)を見ながら続ける。
「ただ俺はこのチームを勝たせる為に来たのではありません。このチームをダイナスティチーム、長くリーグで勝利し優勝し、他のチームを圧倒するような支配的なチームにする為に来ました。その為には選手スタッフにも同じくハードワークを要求するつもりです。宜しくお願いします」
 再び拍手に包まれる会場。
「うむ、素晴らしいスピーチであった。ただ監督が言うようなチームを作るには時間がかかる。どうか皆様がた、な……」
 まずい! 悪い予感しかしないので俺はレブロン王に割り込むように口を開く。
「俺の契約期間は三年です。残念ながら三年の間に成果がみられないようであれば、解雇して頂いても……」
 ふと見ると王の肩が震えている。俺の意気込みに武者震いしたか?
「解雇して頂いて……」
「『残念、三年』……ぷぷぷ」
 しまった! と、気づいた時には遅かった。
「このユーモア溢れる若き監督に栄光あれ!」
 大爆笑に溢れる会場に三度拍手の嵐。俺とデイエルフの面々はそれをしばらくの間、眺めるしかなかった。
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