上 下
4 / 624
第一章

フラット三銃士を連れて来たよ!

しおりを挟む
 俺は控え室へ戻りながら、ナリンさんから基本的な情報を聞いた。「サッカードウ」なる名前と低いレベル(失礼!)でありながら、大まかなルールは地球のサッカーと変わりは無いようだ。魔法を使ってのズルはできないし(審判のドラゴンさんが魔法消去の術をフィールド周辺にかけている)、体のシルエット以上のパーツ……尻尾や舌などを使うのも禁止されているらしい。
 ミノタウロスさん――そろそろ面倒になってきた。敬意を持つことは大事だが、相手をリスペクトし過ぎるのも良くない。おまえ等はもうミノタウロスだ――の角はどうなんだ? ってなるがあれがぎりぎりのラインらしい。てかアレと良くヘディングで競り合う気になるな……あ、だからさっきの選手は頭から血を流していたのか! 無謀だけど勇敢な選手だな。あとで誉めておこう。
「えっと、選手交代はあと4人いけるんすね? じゃあDF3人と一番テクニックがある人……エルフを集めて下さい」
「分かったであります!」
 ナリンさんは腕を上げて控えの選手を計4名、呼んだ。
「右SBのティア、左SBのルーナ、シャマーは中盤の選手ですが守備も行けます。あとこちらのカイヤはエルフ以外を含めてもベスト11に入るレベルのテクニシャンです」
 そう紹介されたのはなかなか個性的なメンツだった。
 右サイドバックのティアさんは青い短髪で右耳に気合いの入ったピアスがじゃらじゃらついており(試合中、外さんでええんかい!?)選手というよりパンクロッカー風。
 左サイドバックのルーナさんは長身長髪。アスリート体型だが長い髪で顔が隠れてよく見えない。
 シャマーさんは薄いピンクのボブカット。オーバーサイズのユニフォームをだらしなくパンツの外に出し、呼ばれた時からニヤニヤしている。
 カイヤさんは女の子らしい体型というか……栗色の髪に優し気な顔。しかし体は出るとこ出て引っ込むとこ引っ込むわがままバディだ。この体でしかもテクニックがあるのか。
「時間が無いから挨拶や説明は省きます。取り敢えず、騙されたと思って残り時間で俺のやり方を練習して、試合で遂行して下さい。と、通訳して下さい」
「はいであります!」
 ナリンさんは勢いよく頷くと、ふにゃふにゃ笑っているシャマーさんとカイヤさんの肩をそれぞれ掴んで話し始めた。
『彼は地球から来た天才サッカードウ伝道師よ! 彼の言うことに間違いはないわ! 一気逆転の策を告げてくださるから聞きなさい』
 4名の顔が一気に引き締まる。んー怪しい。何か違う気配がする。時間が無いから上手く推理できないけど。
「ナリンさんごめんなさい、この世界って翻訳の魔法とか無いんですか? あ、ここでは使えないんだっけ?」
「いえ、控え室なら使えるであります! シャマー?」
 俺の言葉にナリンさんが何言かシャマーさんに告げる。すると彼女はおもむろに俺を抱き締め、口に軽く接吻(おお!)そして耳を甘噛み(おおおおお!)してきた。
 これは役得! ピンク髪はやはりこの世界でも「そう」と言うことか! でも本音を言うとカイヤさんにして欲しかったなあ……。
「なに、カイヤの方が良かった?」
「いえ、シャマーさんもなかなかのお手前で……て言葉が分かる!」
「ふふふ。耳と口に魔法をかけたよ。もうおっけー」
 ぴょん、と跳ねて彼女は元の位置へ戻った。くっ不覚にも萌えてしまった。
「あ、ありがとうシャマー。では、おっお願いします」
 顔を赤らめたナリンさんが促す。おう、日本語じゃないとふつうの口調なのな。いま見た風景に動揺してはいるが。奇遇だね、俺も動揺してるよ。
「はっはい。えーまずこちらの3人にはフラットな3バックをやって貰って、3人であっちのFW3人を抑えて貰います」
 何言ってんだこのバカ? という表情が全員に浮かぶ。辞めて! コールセンターの人間はノンバーバルスキルが高いんだから。てかエルフも人間と表情の作りが一緒なのな。
「大丈夫。ボールを簡単に奪い、繋ぐ為に『オフサイドトラップ』というものを3人に教えます」
「オフサイドトラップ?」
 オフサイド三銃士、ならぬ3バックをして貰う予定の3人、ティア、ルーナ、シャマーさんの顔を見ながら持ち運べるサイズの黒板(流石にホワイトボードは無かった)にチョークに似た石で図を描く。
「オフサイドのルールは知ってるよね? これは相手FWをオフサイドの位置に置き去りにして、無理矢理オフサイドを獲る戦術です。地球では普通にやってます。やり方は簡単。三人が息を合わせてラインを上げるだけ」

「えー!? ……まあ理論上はできるだろうけどよ、練習もしたこと無いのに『息を合わせて』て難しくねえか? しかも失敗したらチョー危ないだろ?」
 ティアさんは黒板上のFW横にボールを描き、太い矢印をゴールへ一直線繋いだ。
「ほら、こう独走されるだろ?」
 ティアさん見た目に反して頭脳派やん。
「うん。だから今回はちょっとズルしてその問題に対応します。一つ、タイミングは俺が教えます。ピッチの横で君たちと同じラインに立って、上げるべき時に『上げろ!』って叫びながら走るんでお三方はそれに合わせるだけで良いです。二つ、ボールが出たら手を挙げて『オフサイド!』て叫びながら下がって貰います。そしたら万が一違っても相手や審判が勘違いする可能性があります。三つ、『危ない』って言うけどさ……サッカーってスリルを楽しむもんじゃん?」
 沈黙。からの……。
「はははっ! お前、言うじゃん? 面白い、アタシは乗ったよ!」 
 神妙に指折り聞いていたティアさんは、三つ目を聞いて爆笑し出した。いや「お前」じゃなくて「ショウキチさん」な?
 あ、名乗ってなかった気もする。まあ時間ないしいいや。
「シャマーさんは?」
 シャマーさんはさっき俺に口づけした唇を摘みながら(意識するな俺!)考えていたが、
「ねえ、人間さん? オフサイドトラップのトラップって『罠』って意味だよね~?」
「え? はい、そうです」
 ほらやっぱ「人間さん」だ。いや「人の子よ……」とか謎の上から目線で言われるより良いけど。
「うふふ。私、ひとを罠にハメるの大好き~」
 お、おう。これはおっけーと言う意味か。残るはルーナさんだが……。
「ショーキチ、これ」
 彼女も黒板に何か書き出す。あれ? 彼女、俺の名前いつ聞いてたのかな?
「これで大丈夫」
 その図は、さっきティアさんが書いた「独走するミノタウロスFW」の矢印に、後ろから追いついた恐ろしい藁人形が襲いかかり、ぐちゃぐちゃにするものだった。
「こわっ! 何が大丈夫なん……」
 この図を精神鑑定に出したい。
「ああ、これはルーナが『自分が追いついて止めるから大丈夫』て言ってやがんだよ」
 ティアさん解説できるんか! 頭脳派ティアさん大学の心理学科卒業説浮上。
「なっならいけそうか。じゃあ三つの事だけ覚えてやって貰います。一つ、『上げろ!』って言われたら三人がラインを揃えて上げる。二つ、ボールが蹴られたら『オフサイド!』て叫んで片腕を挙げながら下がる。三つ、オフサイドが取れて間接FKでの再開になったら、カイヤさんを探して渡す」
「ようやく私の出番ですね~」
 俺の言葉にカイヤさんというエルフが手を挙げて前に出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

魔王城のグルメハンター

しゃむしぇる
ファンタジー
 20XX年 正体不明のウイルスによって世界は恐慌状態に陥った。政府の打ち出した感染対策である大規模なロックダウンや人流制限により、職を失い世にあぶれる人々が溢れた。  主人公の瑞野 カオルもその一人だ。今まで働いていた飲食店が閉店し、職を探していた彼のもとに、強盗に遭いそうになっている老人と鉢合わせる。  その老人を助けたカオルは徐々に数奇な運命に巻き込まれていく。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

文太と真堂丸

だかずお
歴史・時代
これは、とある時代を生きた、信念を貫いた人間達の物語である。 その時代、国、人々は冷酷無比、恐ろしい怪物達を率いる大帝国と言う軍勢に支配されつつあった。 逆らう者など皆無、人々の心は絶望と言う名の闇に侵食されつつあった。 そんな時代に奇妙な縁の中、出会い、繋がっていく者達 お互いを大切な生命と認識する彼らは、絶望と言う名の巨大な闇に立ち向かう。 そこで待ち受けるのは、想像を絶するほどの恐怖、裏切り、愛する仲間の死、人間と言う心の闇 彼らは魂から抉り出される闇と立ち向かっていく。 これは人間と言う、己の心、精神、信念に向き合い、自らの魂である刀と共に、友情と愛に生きた人間達の、心震わす魂の物語である。 (現在こちらの作品の続きはAmazonでの販売、もしくは、Amazonの読み放題で読めるようになっています、Kindleアンリミテッド登録中の方は無料で読めるようになっているので是非見て下さい。Amazonのサイトにて、こちらのタイトルを検索して頂けると読める様になっています)

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

処理中です...