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第1章・第1話「私はイオン!」
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…彼が村に来たのは、ずっと雨が降らなくて少し困っている時でした。
ジンセン村。周囲を砂に囲まれている小さな村。私はここで育った。
「イオン、ちょっと。イオンっ。」
「何?サマおばさん。」
私は『イオン』。十六歳。
今日はパンが食べたかったから、村の端にあるパン屋さん『うまいパン』の朝一限定『超うまいパン』を手に入れる為に短パンを履いてるんだけど…あ、シャレじゃなくて。えっと、何が言いたいかってと言うと、つまり短パンは走る為に履いてるって事で、普段は女の子らしくスカートを履いてるってこと。
あと、背は低いってよく言われるけど、全然普通よ。まぁ、多分…だけど。え?どうして多分なのかって?だってこの村に居る若い女の子って…私だけなんだもん。
「うちの扉が閉まらなくなっちまってね。何とか出来ないかい?」
「分かった、見てみる。でもちょっと待ってて。」
「あー、またお祈りかい?じゃあ期待せずに待ってるよ。気を付けて行っといで。」
「そんな事言わないでよ、サマおばさん。直ぐ戻って来るから。」
サマおばさん家の扉を修理するなら…ちょっと走ろうかな。だってお祈りには少し時間掛かるもんね。
都合の良い事にこの格好だし。いつもの巫女装束じゃなくてもミズリ様なら怒らないから。
そんな事より…
「今日こそ起きて下さいよ、ミズリ様。」
ミズリ様…それは村の西側にそびえるミズリ山の麓にある洞窟内に棲む水の獣様。
その姿は私と同じ位の大きさで、胴が短い竜って感じかな。でも角も無いし髭も無い。身体は鱗で覆われてるけど硬くないの。爪はあるけど手足も短くて、ちょっと可愛い。尾の先に青く光る水晶玉が付いてて、それを触ると喜ぶ。
そんなミズリ様が眠りについてからもう十六日目。その間、雨が全く降らない。いつもは長くても五日だった。
どうしてこんなに眠ってるのか…もしこのまま起きてくれなかったら…
「うううん、そんな事ない。きっと大丈夫。」
祈り続ければきっと起きてくれる。私はそう信じてる。
ミズリ山の麓に着いた。急いだからまだ明るい。余裕。
「さてと…」
洞窟に入って真っ直ぐ進めば、外の光がまだ届いている辺りにミズリ様は居る。だから松明とかいらないんで、手ぶらで来れるのが良いところ。
「ミズリ様、どうか目を覚まして下さい。」
私はサマおばさんの事が頭にあるもんだから、早々に目を閉じて祈りに入った。
「…」
声に出すのは最初の一回だけ。あとは心の中で語り続ける。
「…」
どれくらい経ったかな?ふと、背後に気配を感じた。あれ?って思った。だってこの場所は私しか入っちゃいけないから。正面からの気配ならミズリ様って分かるけど…どうして後ろ?私は少し怖くなって、祈りを止めた。
「…」
無言で…恐々目を開いたわ。そしたら…
「え?!」
ミズリ様が目を開いていた。
「ミズリ様!」
《イオン、後ろを向くなよ》
ミズリ様が起きてくれた!頭の中にミズリ様の声が聞こえて来て凄く嬉しかった。
だけど…同時にとても怖かったわ。だからミズリ様の言う通り、振り向かないようにした。
そしたら…
「お前が水の精獣ミズリだな。お前の力を…貸せ。」
男の人の声だった。低い…っていうか、重く響く…そんな感じの声で、ミズリ様に力を貸せって…。
《リクウに接触した男だな》
「…お前らはそういうのも分かるのか。」
《そのせいで私は暫く眠り、力を溜める事になった》
え?という事は、雨が降らなくなったのはこの人のせい?
「ちょっとあなた!どういうつもり?!」
《イオン、後ろを向くなと…ん?》
「はい!向きません!」
私はミズリ様の言い付け通り、後ろを向かないようにしてます。
ただ、文句だけは言いました。だって腹が立つじゃないですか。この人のせいでみんな困ってたなんて。まぁ貯水池があるからまだ大丈夫なんですけど…。
でも私は毎日祈りに来てたんですよ?だから文句の一つぐらい言ってもいいじゃない。
《う、む…さすがイオンだな》
あれ?ミズリ様、ちょっと呆れてます?
「…お前には関係ない。黙ってろ。」
あ。何かムカつく。
「はぁ?何、その言いぐさ!関係なくなんか無い!何か分かんないけど、あんたのせいで村に雨が降らなくなったみたいだし、しかもミズリ様に力を貸せだなんて、どういう事よ!」
思い切り言ってやった。
「…こいつはお前の何だ?」
《私に会いに来てくれる、この村の巫女だ》
「なるほど。つまり俺と同じ、か。」
「え?同じって…」
《イオン、この男はジンセン村から遠く離れたシンゲン島から来た。そしてシンゲン島に棲む火の獣・カウムの神子。そして後ろを向くなと言ったのは、この男が今カウムと混ざっているからだ》
「………?」
全く訳が分かりません。
「こいつ今、絶対頭真っ白だぞ。」
《そのようだな。とにかく話しを聞かせろ。獣甲(じゅうこう)を解け》
「…獣甲を解けば襲い掛かる…なんて事は無さそうだな。」
後ろを見ていないのに、その男の雰囲気が変わった事が分かった。
「ミズリ様…」
《イオン、もう後ろを見てもいいぞ》
ミズリ様に言われて、私はゆっくりと振り向いたんだけど…そこには私とあんまり変わらない身長の、銀髪の男の子が立っていたものだから…
「…へ?」
変な声出ちゃった。
だってさっきの声の主がこの小さな男の子って…おかしくないですか?それに何て綺麗な目…エメラルドグリーンの目ですよ。
「…お前、今ちっせぇって思ったな。」
どういう訳か声が変わってる。普通に男の子の声だ。
「お、思ってな…くもないかな。」
「てめぇ…」
あ、怒ってる。でもさっきみたいに恐い感じがしない。
《イオン、ちょっとその男と話しをさせてくれ》
「あ、はい。ごめんなさい。」
ミズリ様、さっき色んな事言ってたっけ。えーと…シンゲン島から来た?とか火の獣とか…何だっけ?
「カ…カムン?」
《何を噛む気だ。カムンではなく、カウムだ》
ミズリ様にさされてしまった。
「精獣にさされるとは…お前ただの馬鹿じゃないな。」
ムカっ。
《イオン、いちいち反応するな。安心しろ、そいつも馬鹿だ》
「な…!」
ぷぷっ、笑っちゃいます。
「ちっ…もういいだろ。とにかくお前の力を貸せ。」
《待て、まだ話しを聞いていない。…何故リクウの力…あと、リョクヒも居るな。何故そいつらまで取り込んだ》
「必要だからだ。」
《何の為に?カウムの力が有れば大抵の事は叶う。カウムの力が有ればリョクヒやリクウの力はいらん》
「…いや、駄目だ。奴を葬るには全ての精獣が必要だとカウムが言っていた。」
《な…何だと?》
ミズリ様が目をむいた。ミズリ様のこんな顔、初めて見たかも…。
「ちょ、ちょっと、いったい何の事を話してるの?」
「黙ってろ。」
やっぱりムカつく。嫌な奴。
「あんたねぇ!さっきからちょっと失礼過ぎない?!だいたい何歳よ!私より年下なんじゃないの?!」
「ったく、ぎゃんぎゃんと…」
聞こえない様に小さい声で言ったんだろうけど…聞こえてるわよ。頭に来るなー。
「私はイオン!十六歳よ!あなたは?!」
「…俺はジュウビ。十……五歳だ。」
ほら年下だ。ふーん。
ジュウビと出会ったこの日、もう私の運命は決まっていたのかもしれません。
ジンセン村。周囲を砂に囲まれている小さな村。私はここで育った。
「イオン、ちょっと。イオンっ。」
「何?サマおばさん。」
私は『イオン』。十六歳。
今日はパンが食べたかったから、村の端にあるパン屋さん『うまいパン』の朝一限定『超うまいパン』を手に入れる為に短パンを履いてるんだけど…あ、シャレじゃなくて。えっと、何が言いたいかってと言うと、つまり短パンは走る為に履いてるって事で、普段は女の子らしくスカートを履いてるってこと。
あと、背は低いってよく言われるけど、全然普通よ。まぁ、多分…だけど。え?どうして多分なのかって?だってこの村に居る若い女の子って…私だけなんだもん。
「うちの扉が閉まらなくなっちまってね。何とか出来ないかい?」
「分かった、見てみる。でもちょっと待ってて。」
「あー、またお祈りかい?じゃあ期待せずに待ってるよ。気を付けて行っといで。」
「そんな事言わないでよ、サマおばさん。直ぐ戻って来るから。」
サマおばさん家の扉を修理するなら…ちょっと走ろうかな。だってお祈りには少し時間掛かるもんね。
都合の良い事にこの格好だし。いつもの巫女装束じゃなくてもミズリ様なら怒らないから。
そんな事より…
「今日こそ起きて下さいよ、ミズリ様。」
ミズリ様…それは村の西側にそびえるミズリ山の麓にある洞窟内に棲む水の獣様。
その姿は私と同じ位の大きさで、胴が短い竜って感じかな。でも角も無いし髭も無い。身体は鱗で覆われてるけど硬くないの。爪はあるけど手足も短くて、ちょっと可愛い。尾の先に青く光る水晶玉が付いてて、それを触ると喜ぶ。
そんなミズリ様が眠りについてからもう十六日目。その間、雨が全く降らない。いつもは長くても五日だった。
どうしてこんなに眠ってるのか…もしこのまま起きてくれなかったら…
「うううん、そんな事ない。きっと大丈夫。」
祈り続ければきっと起きてくれる。私はそう信じてる。
ミズリ山の麓に着いた。急いだからまだ明るい。余裕。
「さてと…」
洞窟に入って真っ直ぐ進めば、外の光がまだ届いている辺りにミズリ様は居る。だから松明とかいらないんで、手ぶらで来れるのが良いところ。
「ミズリ様、どうか目を覚まして下さい。」
私はサマおばさんの事が頭にあるもんだから、早々に目を閉じて祈りに入った。
「…」
声に出すのは最初の一回だけ。あとは心の中で語り続ける。
「…」
どれくらい経ったかな?ふと、背後に気配を感じた。あれ?って思った。だってこの場所は私しか入っちゃいけないから。正面からの気配ならミズリ様って分かるけど…どうして後ろ?私は少し怖くなって、祈りを止めた。
「…」
無言で…恐々目を開いたわ。そしたら…
「え?!」
ミズリ様が目を開いていた。
「ミズリ様!」
《イオン、後ろを向くなよ》
ミズリ様が起きてくれた!頭の中にミズリ様の声が聞こえて来て凄く嬉しかった。
だけど…同時にとても怖かったわ。だからミズリ様の言う通り、振り向かないようにした。
そしたら…
「お前が水の精獣ミズリだな。お前の力を…貸せ。」
男の人の声だった。低い…っていうか、重く響く…そんな感じの声で、ミズリ様に力を貸せって…。
《リクウに接触した男だな》
「…お前らはそういうのも分かるのか。」
《そのせいで私は暫く眠り、力を溜める事になった》
え?という事は、雨が降らなくなったのはこの人のせい?
「ちょっとあなた!どういうつもり?!」
《イオン、後ろを向くなと…ん?》
「はい!向きません!」
私はミズリ様の言い付け通り、後ろを向かないようにしてます。
ただ、文句だけは言いました。だって腹が立つじゃないですか。この人のせいでみんな困ってたなんて。まぁ貯水池があるからまだ大丈夫なんですけど…。
でも私は毎日祈りに来てたんですよ?だから文句の一つぐらい言ってもいいじゃない。
《う、む…さすがイオンだな》
あれ?ミズリ様、ちょっと呆れてます?
「…お前には関係ない。黙ってろ。」
あ。何かムカつく。
「はぁ?何、その言いぐさ!関係なくなんか無い!何か分かんないけど、あんたのせいで村に雨が降らなくなったみたいだし、しかもミズリ様に力を貸せだなんて、どういう事よ!」
思い切り言ってやった。
「…こいつはお前の何だ?」
《私に会いに来てくれる、この村の巫女だ》
「なるほど。つまり俺と同じ、か。」
「え?同じって…」
《イオン、この男はジンセン村から遠く離れたシンゲン島から来た。そしてシンゲン島に棲む火の獣・カウムの神子。そして後ろを向くなと言ったのは、この男が今カウムと混ざっているからだ》
「………?」
全く訳が分かりません。
「こいつ今、絶対頭真っ白だぞ。」
《そのようだな。とにかく話しを聞かせろ。獣甲(じゅうこう)を解け》
「…獣甲を解けば襲い掛かる…なんて事は無さそうだな。」
後ろを見ていないのに、その男の雰囲気が変わった事が分かった。
「ミズリ様…」
《イオン、もう後ろを見てもいいぞ》
ミズリ様に言われて、私はゆっくりと振り向いたんだけど…そこには私とあんまり変わらない身長の、銀髪の男の子が立っていたものだから…
「…へ?」
変な声出ちゃった。
だってさっきの声の主がこの小さな男の子って…おかしくないですか?それに何て綺麗な目…エメラルドグリーンの目ですよ。
「…お前、今ちっせぇって思ったな。」
どういう訳か声が変わってる。普通に男の子の声だ。
「お、思ってな…くもないかな。」
「てめぇ…」
あ、怒ってる。でもさっきみたいに恐い感じがしない。
《イオン、ちょっとその男と話しをさせてくれ》
「あ、はい。ごめんなさい。」
ミズリ様、さっき色んな事言ってたっけ。えーと…シンゲン島から来た?とか火の獣とか…何だっけ?
「カ…カムン?」
《何を噛む気だ。カムンではなく、カウムだ》
ミズリ様にさされてしまった。
「精獣にさされるとは…お前ただの馬鹿じゃないな。」
ムカっ。
《イオン、いちいち反応するな。安心しろ、そいつも馬鹿だ》
「な…!」
ぷぷっ、笑っちゃいます。
「ちっ…もういいだろ。とにかくお前の力を貸せ。」
《待て、まだ話しを聞いていない。…何故リクウの力…あと、リョクヒも居るな。何故そいつらまで取り込んだ》
「必要だからだ。」
《何の為に?カウムの力が有れば大抵の事は叶う。カウムの力が有ればリョクヒやリクウの力はいらん》
「…いや、駄目だ。奴を葬るには全ての精獣が必要だとカウムが言っていた。」
《な…何だと?》
ミズリ様が目をむいた。ミズリ様のこんな顔、初めて見たかも…。
「ちょ、ちょっと、いったい何の事を話してるの?」
「黙ってろ。」
やっぱりムカつく。嫌な奴。
「あんたねぇ!さっきからちょっと失礼過ぎない?!だいたい何歳よ!私より年下なんじゃないの?!」
「ったく、ぎゃんぎゃんと…」
聞こえない様に小さい声で言ったんだろうけど…聞こえてるわよ。頭に来るなー。
「私はイオン!十六歳よ!あなたは?!」
「…俺はジュウビ。十……五歳だ。」
ほら年下だ。ふーん。
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