龍青学園GCSA

楓和

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第4章の15「それだけなんだ」

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 ゴンザ軍団を退けたGCSA達は白仮面とブラックマスクの戦いの後、鏡と隆正を手当てする為保健室へ向かった。保険医の仁二子先生の見立てでは鏡の左腕は亀裂骨折の可能性があり、病院で治療を受ける必要があるとの事だった。
隆正の方は右足の捻挫が思った以上に酷く、皮下出血して色が変わってきており、この後更に腫れてくるという事でやはり病院での治療を受けるよう言われる。
学美は空手の試合後に一度診察を受けていたのだが、背中の打撲部分の痛みが強くなっていた為七月が付き添い、鏡と隆正と共に病院へ向かった。
ちなみに沈黙したゴンザ達は、龍青生徒達からの情報により、竜沢達がバーヤーダーに行ってる間に数名の黒点塾塾生らに運ばれて行った事が分かっている。

 竜沢と流香、それに傷の浅い甲はつくしを連れて生徒指導室に集まっていた。

 「これで間違いない?」
 「はい、完璧です。」

流香の問いに答えるつくし。つくし監修の元、流香が黒点塾の地図を作製した。
黒点塾は教室やホールがある三階建ての建物と、それに隣接したドーム(屋根付き運動場)とで形成されている。ドーム内には塾生が使用する寮(隆正と甲が居た)もあり、そこから直接運動場に出れる形となっている。
寮から教室に行くには一度外部に出てから屋根付きの廊下を通って行かねばならない。そこから教室の建物に入る大きな扉はいわば裏口であり、表口は塾の正門側となる。
表口の方から見ると、正門から敷地に入ってすぐ大きなガラス扉が有り、そこを抜けると広いホールに出る。
一階の大部分を占めるホールには卓球やバスケ、バレーが出来る設備がある。強化プラスチックで囲まれた一角にはピッチングマシンが設置されており、ネットも張られていてバッティングが出来る様になっている。
二階に上がるには手前のA階段か一番奥のC階段を利用しなければならない。中間にあるB階段は二階と三階をつないでいるだけだ。塾長室は三階になっており、最短で行くならA階段を三階まで上がればいい形だ。

 「それでつくしちゃん、突入するならどっちの扉が良いと思う?」
 「どっちにしても待ち構えてると思うけど…特にドーム側の扉はダメっ。」
 「ドーム側の扉…つまり裏口から入れば一目で見渡せる広い運動場に出てしまって、いきなり囲まれてしまう可能性が高い訳ね。」

流香の推測にうなずくつくし。

 「こっちは少数だからな。いきなり囲まれるのは避けたい。となると…やっぱこっちだよな。」

竜沢は地図上の正門部分を指差した。

 「正面突破。」

甲が呟く。

 「正門からガラス扉、ホールに入ってA階段を上り、建物の三階へ向かう…この三階は大半がブラックマスクのトレーニングルームで、端の一角が事務室兼塾長室になってるのね。」

流香が地図上の各箇所を順番になぞっていくと、つくしは塾長室の外部にある階段を指差した。

 「この螺旋階段なら塾長室に直結してるんですけど…確実に内側から施錠されてるからダメっ。A階段も多分防火シャッターを降ろされてると思います。」
 「ふぅ~、そうね。ブラックマスクの事だから最も距離が長くなるように仕組んでると考えるのが妥当ね。」

つくしに聞いているブラックマスクのイメージから考えて、塾長室へは一本道しか用意していないという流香の予想。

 「ホールを抜けて一番奥のC階段で二階へ上がる事になるか。けど多分そこから素直に三階には上がらせてはくれないかな。だからこの二階を横切って…と。……竜沢くん、どんなパターンでも塾長室にたどり着けるように順路をしっかり覚えて。」
 「え?…あ、ああ。」

甲も居るのに自分だけに言う流香に対して違和感を抱く竜沢だったが…それよりも、竜沢には言うべき事があった。

 「…つくしちゃん、それに流香。」

改まる竜沢に、首をかしげる流香。

 「明日は俺と甲で行く。二人は…遠慮してくれ。」
 「そ、それはダメっ!無茶です!」

焦って反対するつくし。

 「ダメっ…は駄目だ、つくしちゃん。」

少し微笑んだ竜沢は、次に流香の方を見る。

 「流香も…頼む。」
 「ふぅ~…ま、竜沢くんはそう言うと思ってた。だからしっかり順路を覚えてね。」

初めから分かった上で説明していた流香。それに対し、つくしは動揺を隠せない。

 「そんな…。た、確かに先輩達は強いです。でも黒点塾には何十人も塾生が居ます!斎藤さん達以外にも手練れが大勢居るんです!二人だけで乗り込むなんて無茶過ぎ!絶対ダメっ!」

本気で竜沢達を心配しているつくし。

 「嬉しいなーそんなに心配してくれるとは。けどまだ、つくしちゃんは知らないんだなー、俺と甲がどんだけ強いかを。」

いつもの様にニカっと笑う竜沢。

 「そうだろ、甲。」
 「…ああ。」

甲は竜沢と目を合わした後、うなずいた。

 「ふぅ~。鶴野さん、何言っても無駄よ。こう見えて竜沢くんは頑固でね。一度決めたら簡単には覆さない。私達に出来るのは…応援だけね。」

流香の言葉に、何も言えなくなるつくし。

 「悪いな二人とも。…俺は何も、黒点塾を壊滅させようとか、そんな事は微塵も考えてない。つくしちゃんもそうだったように、黒点塾に救われた奴もいるはずだしな。」
 「確かに…私も救われました。あのまま前の学校に居たらどうなってたか…。今でもまだブラックマスクに対して複雑な気持ちです。でも今回みたいなやり方はダメっ!」

涙ぐむつくし。

 「川波先輩にどんな恨みがあるか知らない。けど、色んな人を巻き込んで、色んな人を傷付けて…こんなの許されない!私だって…隆正さんにまだちゃんと謝れてないんです…」
 「つくしちゃん…」

うつむくつくしに、優しく声を掛ける竜沢。

 「その気持ちをそのまま隆正に伝えてやったら……あいつ絶対泣くなっ。ぷぷっ。」

打って変わって、隆正の情けない泣き顔を想像してふき出す竜沢。

 「あ、あのね…」

呆れる流香。

 「まー何だ…俺はただ単に俺達の事を思ってブラックマスクを止めようとしてくれた深雪先生を救いたいだけ…それだけなんだ。」

その時、竜沢の表情が変わった。そして、まるで自分に話してるように語り出す。

 「ブラックマスクを倒したい訳でもない。黒点塾を潰したい訳でもない。ただ…火の粉が降りかかるなら振り払う。闇が迫って来るなら打ち払う。それだけなんだ。」

竜沢の表情を見てつくしも流香も、そして甲も感じ取った。竜沢に通った一つの芯を。

 〝竜沢…親父が言っていた強い者とは、こういう男の事…なのか〟

甲は父親・魁の言葉を思い出した。そして鏡と戦う為だけに行った数々の事を恥じた。自分はまだ、鏡や竜沢には勝てないのだと…そう感じていた。

だが…この後帰宅した竜沢は、七月と電話中に迷い道妖怪と対峙し敗北する。
つまり甲よ……買い被り過ぎだ。
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