龍青学園GCSA

楓和

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第4章の11「条件はたったひとつだ」

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 遂に始まった甲と鏡のボクシング対決。この対決の裏にはブラックマスクの企てがあったのだが、その陰謀は流香・七月・学美の三人の女神(?)により水泡に帰した。
リング上では、甲の攻撃をことごとくかわし確実に追い詰める鏡の強さが際立つ。しかし竜沢の言葉に奮起した甲の力技の前に鏡は苦戦する。
最後は両者渾身の一撃を放ち、互いの顔面にヒット…したかに見えたが、鏡は寸前で首を捻り、その威力を軽減していた。
結果、甲はスリーダウン。鏡の勝利となった。


 龍青学園校門前。

 「今ある自分は自分で決めた自分。…だったよね、谷角くん。」

深雪は鏡達の勝負後、吹っ切れた表情で龍青学園を去る。ブラックマスクの企てを阻止する為に。しかし…


 龍青学園保健室。
鏡は控室で体操服に着替えた後、竜沢から頬に傷があるから保健室へ行けと言われて来た。
そこには、七月から言われてここに来た流香が居た。

 「えーと…沁みるの苦手なんです。」
 「ぷっ…あははっ。」

いつもの鏡の姿に、思わず笑ってしまう流香。ちなみに鏡の右頬の傷は、甲の最後のストレートで出来たものだ。

 「行くよ?我慢してね。」
 「は、はい。」

真剣な流香を前に、おとなしく治療を受ける鏡。

 「……はいっ、終わり。」
 「どうもありがとうございます。」
 「あ、う、うん。」

微笑む鏡に、照れて目線を逸らす流香。

 「……流香さん。」
 「は、はいっ。」

鏡に名前を呼ばれて思わず返事し、正面から鏡を見る流香。

 「…僕は竜沢くん達と居て、色んな事して…凄く楽しいんです。」
 「…うん。」
 「だから…最近まで気付きませんでした。」
 「…何に?」
 「流香さんの事を誰よりも大事に想ってる事に…です。」
 「!」

流香は両手で自分の鼻と口を押さえた。鼻が真っ赤になっていると思ったからだ。

 「鏡くん…」

流香は、涙をこらえ切れなくなっていた。

 「わ、私もずっと…」

その時鏡は、最高の笑顔を見せた。流香は『嬉しすぎてもう死にそう』状態である。

 「…ふっ。」

その鼻で笑う声に、二人はビクッとした。
鏡達のいる横に、カーテンで仕切られたベッドがあるのだが、そこに甲が寝ていたのだ。鏡達が保健室に来る前に、運び込まれていたのである。

 「悪いな。聞く気はなかったんだが…誰にも言わんから安心しろ。」

ベッドの上に寝転がったまま、カーテンを開ける甲。顔に氷を当てている。

 「え、ふえぇえぇえ…」

更に顔が真っ赤になって、いつもの訳の分からん声が出る流香。

 「ははっ。じゃ、内緒で。」
 「ふっ…その代わり、条件がある。」
 「お昼ご飯ですか?チョココルネですか?」
 「い、いや…。」

真剣な表情の鏡に対し、ちょっと困る甲。

 「条件はたったひとつだ。…これからは俺を『甲』と呼べ。」
 「…はい、分かりました。」

鏡と甲は、顔を見合わせて笑った。

 「それで、体は大丈夫なんですか?」
 「どうという事はない。ただ顔が少し腫れるぐらいだ。」
 「すいません。ところで、何故ボクシングを選んだんです?」

確かにそうだ。ボクシングは鏡の得意なもの。隆正の様に自分の得意な種目で試合すれば有利になる。

 「俺もボクシングは得意だ。そんなことより…俺はこの後、第五試合に出るからな。」
 「?!」

驚く流香と鏡。

 「もちろん龍青側で、だ。」

ニヤリとする甲に、流香はホッとした。鏡はベッドの横に来て右手を出す。

 「よろしくお願いします、甲くん。」
 「ああ。」

甲も右手を出す。今、二人の右手はしっかりと握られた。
そこに保険医の名波(ななみ)仁二子(ににこ)が戻って来た。

 「頼まれ物だ。……おや?やはり戦ったら絆が深まるという事象は、実際にあるのだな。」

体操服の上下を持って来た仁二子は、甲と鏡の姿を見てそう言った。
そんな仁二子の言葉に、より一層硬く握り合う二人であった。


 龍青学園運動場。

 「おっ、やっと来たで!」

鏡、流香、そして龍青の体操服に着替えた甲が竜沢達の所に来た。それを見て、甲が龍青に帰って来た事を理解する竜沢達。
GCSAが揃った瞬間である。

 「鏡、隆正、甲、流香…グッと行くぞ!」
 「はい。」
 「おうよ!」
 「ふん。」
 「ふぅ~、はいはい。」

最後の試合、第五試合は六人対六人のドッヂボール対決である!

 「裏切り者達よ…お前等を潰す。」

腕を組んで現れたゴンザが言う。後ろには森林と黒房、そして猪野岡、馬場崎、鹿島田がいた。ちなみに猪野岡は黒房に担がれている。ぐったり状態。

 「あいつ等…ま、そりゃそうか。」

馬場崎と鹿嶋田に一瞬驚く竜沢だったが、猪野岡が居たんだから当然か…と思い直す。

 「さて、そっちはつくしを入れてもらおうか。」
 「いいのか?そっちは実質五人だろ?」

沈黙している猪野岡を指差す竜沢。

 「構わん。それほどの差がある、我々とお前らではな。」

腕を組んだまま、かなり上から目線の言葉を吐くゴンザ。

 「おー、さすが頭領。いよっ、ゴンザ!」

竜沢はゴンザをかなりなめている様子。

 「竜沢くん、ブロウさんを甘く見ちゃ駄目ですよ。」
 「鏡、『ブロウさん』は止めなさい。」

真顔で返す竜沢。

 「え?だって本名ですよね?」
 「ふぅ~…可愛いったらありゃしない。」

鏡の天然さに魅了されているかなり小声の流香。
そんなGCSAにゴンザは、眉をピクピクさせてイラついていた。

 「えぇい、もう名前などどうでも良いわ!さっさと鶴野つくしを出せぃ!」
 「何ぃ?!」

怒鳴るゴンザに対し、かまぼこ型の目を大きく見開いて更に真剣な顔になる竜沢。

 「てめぇ!名前は大事だろうが、ゴンザぁ!」
 「貴様にだけは言われたくないわーっ!」

竜沢の力技のボケに、マジ切れのゴンザ。

 「シャレの分かんねー奴だなー。ま、いずれにせよゴンザ君、うちの女達をなめてたら痛い目を見るのはお前らだぞ…と、言いたいところだが、こちらとしては流香とつくしちゃんをボールに触らせるつもりはない。」
 「何だと?」
 「シャレだけじゃなく日本語も分かんねーか?つまり、俺達男四人だけでお前らを倒す…って言ってんだよ!」

竜沢、鏡、隆正、甲が一歩前に出る。その後ろには流香…と、つくし。つくしは観客の中に潜んでいたのだが、ここで静かに現れた。

 「先輩に対して生意気だな、ガキども。そして…裏切り者の女(くのいち)が。」
 「確かに…年上に対して失礼でした。申し訳ありません。えーと…三十代後半?」
 「いっこ上なだけだろうがーっ!」

竜沢の冷静なボケに、再びマジ切れのゴンザ。

 「…斎藤さん、今までの戦いを見てて、何も思わなかったんですか?」

今まで黙っていたつくしが口を開いた。

 「ふん、雑魚はすぐ裏切る。愚か者が増えた…それだけだな。」
 「…所詮、あんた達はその程度だったのね。」

つくしは歯を食いしばった。

 「それはこちらの言葉だ。長々と馬鹿な話しに付き合わされたが…ここからはこちらの時間だ。地獄を見せてやろう。」
 「四国に店を出そう。」

竜沢がゴンザの声や仕草を真似しながらニュアンスの似た無意味な言葉を並べると、つくしは思わずふき出してしまった。つくしの気を紛らわす為の竜沢ナイスプレーである。

 「うぬ~、何度も何度も馬鹿にしおって…」

ゴンザは怒りに震えていた。
そしていよいよ最後の試合が始まる!
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