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第5章の9・次は誰ですか?…の ぷち話し
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鏡は荒銀と羽田を倒す際、腕を使わなかった。それは利也を油断させ、一撃で倒す為の作戦。
「…腕、もうまともに動かねぇようだな。」
利也の言葉を聞き、少しホッとする鏡。
実際、大きなダメージを負っている今の状態で、利也と戦うのは危険だった。
負ける事は無いだろうが、竜沢の元へ駆けつける事が出来なくなる可能性は高い…鏡はそう考えていた。
しかし、利也は鏡の両腕がもう動かせないと思い込んだのだ。
〝竜沢くんに怒られ…いえ、竜沢くんを悲しませないで済みそうです〟
鏡は、竜沢と出会って間もない頃を思い出していた。
…竜沢と鏡、二人は四国で出会い、数日後には関西へ引っ越す状況下で、バッティングセンターやゲームセンター、飲食店等が並ぶ複合施設に遊びに来ていた。
「お前、何でも出来るなー!」
バッティングセンターでホームラン級の当たりを連発させる鏡に、驚く竜沢。
「まぁこれくらいなら。…そんな事よりあなたの方がビックリですよ。」
竜沢は、つい数分前にジャストミートし損ねたボールを額に受けてコブが出来たところであったが、すでに治っていた。
「まぁこれくらいなら。」
「真似しないで下さい。」
「…」
竜沢は、鏡が敬語を使うのはクセであり個性であると理解したので、そこは構わないのだが…どうしてもまだ少しぎこちないと感じていた。
「よーし、次はゲーセンに行こう!」
「行った事ないんですが。」
「良いね!お前の初ゲーセンは俺がもらった!」
若干意味不明な竜沢の言葉に、何故か嬉しくなる鏡。
格闘ゲームやレースゲームで遊んだ後、定食屋で昼飯、本屋で立ち読み、カラオケボックスで熱唱(竜沢が)…一日中遊びまくる竜沢と鏡。鏡のぎこちなさが無くなるのに、一日も必要なかった。
「いやー、遊んだなー。」
「ははっ、本当に。」
良い笑顔を見せる鏡に、満足気な表情の竜沢。
「ん?何ですか?」
そんな竜沢に不思議顔の鏡。
「いや、何でもない。さて…そろそろ帰るか。…ん?」
竜沢がそう言って前を向くと、中学生三人組が通り道をふさぐように立っていた。
「おーい、僕達ぃ?」
「……ふっ。」
その中学生の『いかにも』的な顔付きと話し方に、思わず鼻で笑う鏡。
「俺ら遊ぶ金が無くなったんだよー。だから…貸してくれないかー?」
凄んでいるつもりの中学生達に対し、ふき出すのを堪える鏡と、ぼけーっとしてる竜沢。
「な、何だ、こいつら。」
「はっ。お前、舐められてんだよ。」
三人の内、最も背の高い男(中学生Aとしよう)が前に出てきた。
「素直に金…貸してくれればいいんだ。怪我したくないだろ?」
鏡の肩に手を置き、徐々につかんでいる指に力を入れてくる中学生A。
「なぁ?」
顔を近付けてきたので若干イラっとした鏡だったが、直ぐにこの男が雰囲気を和らげる。
「ポーランドゴ、ボクタチソレシカワカリマセーン。」
「今まさに日本語しゃべってるだろうが!」
竜沢の『おふざけ』で和んだのは鏡だけで、中学生達は頭に血が昇った様だ。
「この…!」
拳を振り上げる中学生Aに対し、素早いバックステップで距離を取る鏡。
「え?!」
そのあまりの早さに驚く中学生達。
「兄ちゃん達、金無いならもう帰った方が良くない?」
しっかりした日本語で提案する竜沢は『しまった』という表情をした後、直ぐに切り替えた。
「ノーマネー?アー、イコール…アー……ハウス?」
完全に馬鹿にしている。そしてもちろんポーランド語ではない。
「この野郎!」
三人揃って竜沢の方に殴りかかって行ったので、鏡は素早く移動し、一人、また一人とボディブローを叩き込んでいく。そして三人目の中学生Aの方を向く鏡。
「え、あ…」
「…この後どうなるか、分かります?」
中学生Aに拳を見せて質問する鏡だったが、もう中学生Aは何も答えず、ただ背を向けて逃げ去った。
「友達置いて行きやがったよ。」
倒れている二人を見ながら、呆れている竜沢。
「本当の友達じゃないんでしょう。」
そう言った時、一瞬竜沢と出会う前の自分の事が頭をよぎった。その瞬間!
「鏡!」
竜沢は叫ぶと同時に、鏡の身体を包むように覆いかぶさった。
「…え?」
逃げたと思った中学生Aは、フードコートにあったパイプ椅子を、鏡に向かって思い切り投げたのだ。
そのパイプ椅子から鏡を守った竜沢。
「りゅ…竜沢くん?!」
肩を抑えながら膝をつく竜沢。額からは出血もしていた。
「ひ、ひぃ!」
竜沢の血を見て自分がやった事が恐くなったのか、中学生Aは逃げて行った。
「だ、大丈夫か、鏡。」
血を流しながらも鏡を気遣う竜沢。
「ぼ、僕は何とも。そんな…そんな事よりあなたが…!」
「お前が大丈夫なら良かった。」
立ち上り、微笑む竜沢。
「こんな怪我どうって事ない。それよりも、もしお前が怪我でもしたら…その方が俺は悲しいんだ。」
「竜沢くん…」
ニカっと笑う竜沢に、泣きそうなのをこらえて笑顔を返す鏡。
「お、良い顔だな。よっし!今度こそ帰るかっ。」
「はい。」
…最後の攻撃を仕掛けてきた利也を、両腕を使って仕留める鏡。
〝ふぅ…何とか竜沢くんの所へ行けそうですね。まぁ、ボロボロですけど〟
これなら竜沢を悲しませる事はない…ふら付きながらも、そう考えながらゆっくりと階段を上がって行く鏡。
〝この傷…怒られるかなぁ。いや、きっと竜沢くんの方がボロボロですよね。あの人の場合は直ぐに治りますが。まぁでも…タマには怒られるのも面白いですかね〟
傷の痛みも忘れ、ついつい微笑んでしまう鏡であった。
「…腕、もうまともに動かねぇようだな。」
利也の言葉を聞き、少しホッとする鏡。
実際、大きなダメージを負っている今の状態で、利也と戦うのは危険だった。
負ける事は無いだろうが、竜沢の元へ駆けつける事が出来なくなる可能性は高い…鏡はそう考えていた。
しかし、利也は鏡の両腕がもう動かせないと思い込んだのだ。
〝竜沢くんに怒られ…いえ、竜沢くんを悲しませないで済みそうです〟
鏡は、竜沢と出会って間もない頃を思い出していた。
…竜沢と鏡、二人は四国で出会い、数日後には関西へ引っ越す状況下で、バッティングセンターやゲームセンター、飲食店等が並ぶ複合施設に遊びに来ていた。
「お前、何でも出来るなー!」
バッティングセンターでホームラン級の当たりを連発させる鏡に、驚く竜沢。
「まぁこれくらいなら。…そんな事よりあなたの方がビックリですよ。」
竜沢は、つい数分前にジャストミートし損ねたボールを額に受けてコブが出来たところであったが、すでに治っていた。
「まぁこれくらいなら。」
「真似しないで下さい。」
「…」
竜沢は、鏡が敬語を使うのはクセであり個性であると理解したので、そこは構わないのだが…どうしてもまだ少しぎこちないと感じていた。
「よーし、次はゲーセンに行こう!」
「行った事ないんですが。」
「良いね!お前の初ゲーセンは俺がもらった!」
若干意味不明な竜沢の言葉に、何故か嬉しくなる鏡。
格闘ゲームやレースゲームで遊んだ後、定食屋で昼飯、本屋で立ち読み、カラオケボックスで熱唱(竜沢が)…一日中遊びまくる竜沢と鏡。鏡のぎこちなさが無くなるのに、一日も必要なかった。
「いやー、遊んだなー。」
「ははっ、本当に。」
良い笑顔を見せる鏡に、満足気な表情の竜沢。
「ん?何ですか?」
そんな竜沢に不思議顔の鏡。
「いや、何でもない。さて…そろそろ帰るか。…ん?」
竜沢がそう言って前を向くと、中学生三人組が通り道をふさぐように立っていた。
「おーい、僕達ぃ?」
「……ふっ。」
その中学生の『いかにも』的な顔付きと話し方に、思わず鼻で笑う鏡。
「俺ら遊ぶ金が無くなったんだよー。だから…貸してくれないかー?」
凄んでいるつもりの中学生達に対し、ふき出すのを堪える鏡と、ぼけーっとしてる竜沢。
「な、何だ、こいつら。」
「はっ。お前、舐められてんだよ。」
三人の内、最も背の高い男(中学生Aとしよう)が前に出てきた。
「素直に金…貸してくれればいいんだ。怪我したくないだろ?」
鏡の肩に手を置き、徐々につかんでいる指に力を入れてくる中学生A。
「なぁ?」
顔を近付けてきたので若干イラっとした鏡だったが、直ぐにこの男が雰囲気を和らげる。
「ポーランドゴ、ボクタチソレシカワカリマセーン。」
「今まさに日本語しゃべってるだろうが!」
竜沢の『おふざけ』で和んだのは鏡だけで、中学生達は頭に血が昇った様だ。
「この…!」
拳を振り上げる中学生Aに対し、素早いバックステップで距離を取る鏡。
「え?!」
そのあまりの早さに驚く中学生達。
「兄ちゃん達、金無いならもう帰った方が良くない?」
しっかりした日本語で提案する竜沢は『しまった』という表情をした後、直ぐに切り替えた。
「ノーマネー?アー、イコール…アー……ハウス?」
完全に馬鹿にしている。そしてもちろんポーランド語ではない。
「この野郎!」
三人揃って竜沢の方に殴りかかって行ったので、鏡は素早く移動し、一人、また一人とボディブローを叩き込んでいく。そして三人目の中学生Aの方を向く鏡。
「え、あ…」
「…この後どうなるか、分かります?」
中学生Aに拳を見せて質問する鏡だったが、もう中学生Aは何も答えず、ただ背を向けて逃げ去った。
「友達置いて行きやがったよ。」
倒れている二人を見ながら、呆れている竜沢。
「本当の友達じゃないんでしょう。」
そう言った時、一瞬竜沢と出会う前の自分の事が頭をよぎった。その瞬間!
「鏡!」
竜沢は叫ぶと同時に、鏡の身体を包むように覆いかぶさった。
「…え?」
逃げたと思った中学生Aは、フードコートにあったパイプ椅子を、鏡に向かって思い切り投げたのだ。
そのパイプ椅子から鏡を守った竜沢。
「りゅ…竜沢くん?!」
肩を抑えながら膝をつく竜沢。額からは出血もしていた。
「ひ、ひぃ!」
竜沢の血を見て自分がやった事が恐くなったのか、中学生Aは逃げて行った。
「だ、大丈夫か、鏡。」
血を流しながらも鏡を気遣う竜沢。
「ぼ、僕は何とも。そんな…そんな事よりあなたが…!」
「お前が大丈夫なら良かった。」
立ち上り、微笑む竜沢。
「こんな怪我どうって事ない。それよりも、もしお前が怪我でもしたら…その方が俺は悲しいんだ。」
「竜沢くん…」
ニカっと笑う竜沢に、泣きそうなのをこらえて笑顔を返す鏡。
「お、良い顔だな。よっし!今度こそ帰るかっ。」
「はい。」
…最後の攻撃を仕掛けてきた利也を、両腕を使って仕留める鏡。
〝ふぅ…何とか竜沢くんの所へ行けそうですね。まぁ、ボロボロですけど〟
これなら竜沢を悲しませる事はない…ふら付きながらも、そう考えながらゆっくりと階段を上がって行く鏡。
〝この傷…怒られるかなぁ。いや、きっと竜沢くんの方がボロボロですよね。あの人の場合は直ぐに治りますが。まぁでも…タマには怒られるのも面白いですかね〟
傷の痛みも忘れ、ついつい微笑んでしまう鏡であった。
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