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1章:再会が喜ばしいこととは限らない

2話 俺の意思がなんでも通るとは限らない。

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  彼女は俺のことを覚えていなかった。知らなかった。記憶から排除されていた。
 覚えていて欲しかったその記憶は彼女、鈴音にとっては枝葉的な記憶だったのだ。それを認めたくなかった俺はひたすらに追求する。
  問いただし、追い、求める。つまりは追求。

しかし、じきに気付いてしまう。これはただの身勝手な、理不尽な追求だということを。
  そもそも追求ということ自体が他者に自分の考えを押し付ける最も最低な、嫌っていた行為なんだ。かなり度胸があるストーカーのような行為といえば分かりやすいだろうか。

  あの大切な記憶。そして俺がこうなった原因である鈴音との記憶。それを俺は無慈悲にも押し付けているんだ。もはや他人である彼女に。

「ほんと誰?普通に知らないんだけど。どこかであったっけ?」

  鈴音は強い口調で俺に言った。咎めるような厳しい目つきは彼女が本当に俺のことを忘れていることを物語らせた。

「沙柳宰、俺の名前だよ。本当に、忘れたのか?」

何故あんなにも覚えて欲しかったのか、ある意味責任を取って欲しかったのだろう。自分をこうさせた無責任の責任を。

「ごめん、本当に忘れちゃった。私たち仲良かったの?」
「いや、あぁ…うん。悪くはなかった」

  悪くはなかった。ただ、良くなかったわけでもない。それほどの影響力があった彼女を俺は…。

「へぇ~・・・」

  鈴音は、何か含んだかのような唸りを放浪させると何か発想の転換があったのか顔を赤らめ叫んだのだった。

「えっ!なに、新手のナンパ!?」

  それは、俺の腐ったような目を見た直後だった気がする。つまりは目があってから・・・。

「断じて違う。そんな度胸は純粋な心とともにどこかへ置いてきた」

  できれば童貞置いていきたかった。
そんな淡い気持ち・・・、いや淡くはない。高二男子として正常かつ不健全な気持ちだ。嘘、調子こきましたスミマセン。

「じゃなく、幼馴染にナンパとかおかしいだろ」
  首をブルブルと振り枝道に逸れた話題を本題へと戻そうとする。
「そう思っているのはあなただけ。私は覚えてないし」

  悪びれる気もなくいう鈴音の言葉が痛かった。そう、幼馴染と思っているのは俺だけで彼女にとって俺は初対面のナンパ野郎だ。

「あぁ、そうか。覚えてないか・・・」
「ごめんねー」
 
  別に鈴音が悪いわけではない。覚えてないことは罪じゃないし、どちらかといえば覚えている方が積みに転がるケースが多い。ならこれは、最善策なのだろうか。

「・・・」
「・・・」

沈黙。居心地が悪い。初対面に居心地の問題を求めるのは根本から間違っているのかもしれないがとにかく居心地が悪かった。

「じゃ、じゃあ。すいません…」
「いや、こちらこそ…」

  そして俺は逃げた。逃走した。現実から逃げた。忘れられたという現実からの逃避行、逃げることは悪いことじゃない。けど、この場合は違うだろ。

帰路へと向かう足を殴りつけ、遠くの街を眺めたのだった。





  "幼馴染"

  馴染み深い言葉である。馴染み深い友人。小さい頃からの友人。そこに果たして旧友という言葉は当てはまるかというとそうではなく世間は幼い頃からの友人を幼馴染とするのだ。

  しかしそれにどれほどの違いがあるのだろうか。友情と時間は比例しない。長い付き合いだろうとそれが決して最も仲が良いとは言えない。
  よく聞く言葉の数々である。鬱陶しいほどに綺麗で爽やかな言葉だ。実に好ましい。

  然し、ここに一つの矛盾が生まれる。もし友情に時間が関係ないのならば何故幼馴染なんて言葉が存在する?親友なんて存在する?
友情友情と口にする割には皆、その価値を図りその重さで扱いを変え、時をともにする。

  もっとも、おっさんは友情よりも遊女を優先するのだろう。つまり所詮はそんな扱いになるということだ。
だから友人の扱いが雑になり値なんてつけてそれをもとに己の価値すらも暫定してしまう。

  そんなことならば俺は友人はいらない。親友はいらない。幼馴染もいらない。

だから、ボッチこそジャスティスなのだ。
背おるものもなければ傷つくこともないし配慮する必要もない。気楽なんだ。

  しかしそれも青春の1ページなのだと語るのならばそれは集団催眠と同じような現象が起こっているだけなのだ。強がり、無理をしている。もし彼らがそれすらも青春というのであれば、そんなものは


青春とはいわない。






  今日はいつもに増して目覚めが悪かった。口の中の不快感も朝の邪魔臭い日差しも全てが不愉快だった。
  しばらくベッドに腰をかけ考え事をする。何故こんなにも気怠いのか。普段やれ面倒だのやれどうでも良いだの言っている俺だが、それは俺自身に起こった場合例外と化す。

  答えは、考えるまでもなく明白であった。立ち上がり旋毛をかいた。綺麗に整頓された室内を見渡し

「ハァーー」

  ため息をつく。その"異常"な室内を見渡して。

  部屋着から綺麗な床に無造作に置かれた制服へと着替えベッドの横に置いてあるカバンを引っ張り出し肩にかける。
「なんで、俺こんなことしてんだろ」
  そして俺は部屋を後にした。綺麗な部屋にはそぐわない散乱した部屋着を残し。

「誰にでも、闇はある…か」

今日も、俺の朝飯はなかった。
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