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Mission【1】EXPLORER

《1》成功率0.0%から始まる宇宙旅行計画

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「デュオ、ラフトのいつもの飛行シミュレーションを目的地を変更してやってくれ」
 ※デュオ(DUO)はロビンが設計した音声認識AIソフト

『検証…………終了、ティエラへの往復航行検証の結果を示します』

 機械的な音声が今日もラボに響き渡る。

◇航路基礎情報
・目標の直近予想最接近経路における設定ポイントへの最大船速の確保【105%】
・最適航路での無補給エネルギーの確保【602%】
・最適航路での無補給食料の確保【153%】
・最適航路でのスイングバイ及び恒星風(太陽風と同義で使用)等の有効使用補助航路の可能性【0.1%】
・最適航路でのデブリ衝突の危険性【0.38%】
・最適航路での宙族やそれに準じる勢力との遭遇【2.6%】

◇サンプルリターンの基礎情報
・正常着陸率【不明:組成情報が未確認のため測定不能】
・正常着陸時:組成観測に必要な量のサンプル採取【10~30%】
・正常着陸時:離脱成功率【78%】

『総合評価、現時点での『ティエラ』地表組成サンプルリターンの成功率は凡そ【13%】、『名称未定機(仮名『RAFT』)』を使用したフライトは非推奨です』

「――っかー! やっぱり無理だよな、そもそも銀河間航海をしようとして設計機体でそのまま航路だけ変更してもうまくいかないよな」
「そりゃそうだよフェル、近くなったんだからだいぶ小型化できるはずだよ、それでピケはお願いしてたティエラの軌道パターンの解析はそろそろ出来そうかな?」
「むぐぐぅ……まだなんだよ、でもでも! だいぶいいかんじになったかも?!」
「うん、目標に対していろいろ最適化すればなんとかなりそうな確率になってきたよね」
「そうだなぁ……今までのは目標が高かったからなぁ……」

 以前までの検証結果だとこの通りだ。

  ◇ ◇

『検証…………終了、銀河間空域への到達および帰還検証の結果を示します』

◇航路基礎情報
・目標の設定ポイントへの最大船速の確保【12%】
・最適航路での速度から計算される無補給エネルギーの確保【17%】
・最適航路での速度から計算される無補給食料の確保【測定不能】
・最適航路でのスイングバイ及び恒星風(太陽風と同義で使用)等の有効使用補助航路の可能性【0.2%】
・最適解航路でのデブリ衝突の危険性【0.0001%】

『総合評価、現時点での到達、帰還の成功率は凡そ【0.0%、測定不能】、『名称未定機(仮名『RAFT』)』を使用したフライトは現実的ではありません』

  ◇ ◇

「前までに比べたら全然光が見えてきた気がするね」
「たしかにー!」
「っていうかそろそろ船の名前なんだが仮名の『RAFT』じゃなくてちゃんと決めないか? 最初の目的地がハッキリ決まっただろ? いつまでもいかだのままだとしまらねぇよ」

 RAFTとは僕たちがいつか宇宙に飛び出す宇宙船を作ると決めた時に、例えつぎはぎだらけになっても飛び続けるといった意味を込めて筏から付けた名前だ。

「確かになぁ」
「フェルフェルにしてはめずらしくいいことを……」
「じゃあ案出し開始!」
「かいし!」

 その日はお腹が減るまでいろんな意見が出た、ここ数か月で一番の盛り上がりだっただろう……。

 そんな長い時間がかかった結果としては、実にシンプルな内容に収まったのが『エクスプローラーEXPLORER』……それは冒険者や探検家を意味する。

 * 用語説明 *

 ◆ロビン
 冒険小説ロビンソー・クルーソーから採用
 本編の主人公であり、キャプテン兼メカニック

 ◆フェル
 探検家フェルディナンド・マゼランから採用
 航海士

 ◆ピケット(略称ピケ)
 潜水艦任務のレーダーピケットから採用
 年1程度の頻度で行われる詳細な身体検査の際、こっそりと抜け毛を採取されているのは秘密
 レーダー官、通訳

 ◆デュオ(DUO)
 ロビンが設計した音声認識AIソフトであり、サーバーアプリとクライアントアプリから成る
 サーバーはロビンが所持しているマシンにあり、クライアントはアームデバイス(要は時計)にインストールしている
 所持しているマシンでは性能が貧弱なのでクラウド上の端末の処理能力を間借りしている
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