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マーズニさんに会いに行こう
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誰にも会わないように気を付けながら部屋に戻ったけど、元物置だったこの部屋は日の当たらないお屋敷の一階の奥の方だったから、用事のある人はいないのか誰にも会わずに戻って来れた。部屋に入りポケットから魔石を取り出す。
「貰ったはいいけど、どうやって使うんだろ」
鍵の魔法を込めた魔石とは言われたけど、それを理解できない。あたし頭悪いからな、と一人で笑っていると頭の中に声が響いた。
『鍵となる言葉を思い浮かべてください』
何!? 誰!? どこ!? キョロキョロと部屋の中を見回しても誰もいない。そして同じ言葉が頭の中で響く。鍵!? 言葉!? パニックになったあたしはやらかした。
『鍵となる言葉を確認しました。『東京特許許可局許可長』です』
鍵となる言葉なんて聞いたこともないワードに戸惑い、なぜか早口言葉を唱えてしまった。でもこの世界では誰も知らない言葉だろうから、鍵としては優秀かもしれないパスワードだ。
そんな魔石はあたしの手の中で光を放ち、その光が部屋の扉の鍵穴に吸い込まれる。透明な黄色だった魔石はただの石になり、何か起こるのかと待っていても変化はなく扉を開けようとすると開かない。もしかしたらと思い、心の中で『東京特許許可局許可長』と唱えると扉は開いた。何コレすっご! 絶対に誰も開けないじゃん! 一回一回唱えるの面倒だけど。
シンディの部屋の中にある古びた時計を見るとちょうど昼時だ。きっと継母や義姉妹は優雅なランチタイムだろう。なら今のうちに出かけよう! 鍵の魔法の魔石を机にしまって部屋を出て、ここから出たら絶対にバレないなと思ったのはとある窓。この窓、とってもいい死角になってるんだよね。しかも木とか植物とかいっぱい生えてるし。ここから出て屈んで歩けばほぼほぼ見つかることはないだろう。善は急げだ、レッツゴー!
────
多分、誰にも見つからずに街に出られたあたしは体中に付いてる葉っぱや小枝を取りながら歩く。ヨーロッパのような見事な建物や街の作りを田舎者のようにキョロキョロと見回しながら歩く。クソゲーの割には意外と作り込まれているなぁと感心してしまう。街に人は溢れているけど何か違和感を感じ、なんだろうと思いながら歩いた。人とすれ違う時は気付かなかったけど、道端で会話をしている人の話が聞こえた時に違和感の正体に気付いた。
「今日もいい天気ね」
「どこへ買い物に行こうかしら」
ふと足を止めてそのご婦人たちを見る。向かい合って会話をしているようだけど、微妙に視線は合ってないし会話もまた微妙に合ってない。そして延々と同じことを話している。他の会話をしている人にも注目したけどやっぱりこちらも同じ感じだった。……ゲームの世界のモブキャラだから? シンディのお屋敷の人と会話が噛み合うのは、もしかして今はシンディを中心としてこのゲームの世界が成り立っているから? 考えても分からないことは考えないようにして先に進むことにしたけど、すれ違う人の目もまたどこか焦点が合っていなくて薄ら寒く感じて来た。みんな生きてる感じがしない。
人の会話を聞かないようにし、人の顔を見ないように歩いているとどうやら街の外れに着いたようだ。ご丁寧なことに家は一軒しかなく、お屋敷よりもだいぶ小さな木造二階建てのこの家がマーズニさんの家だろう。
道路から玄関へと続く小道を歩くと、玄関前に一人のご老人の姿を確認出来た。
「やあこんにちは」
「今日も良い天気だ」
失礼だけど痴呆かな、と思うくらいにご老人は同じ言葉を繰り返している。ビクビクしながら近付くと、来る途中で見た街の人たちのようにどこか焦点が合わず人間味を感じない。それがそこはかとなく怖いと思ったけど、勇気を振り絞ってご老人の前に進んだ。
「……こんにちは。あの、マーズニさんはいますか? 私シンシアっていいます」
少なくともあたしの中では出来る限り丁寧な言葉で話しかけると、ご老人は一人で話すのを止めた。心配になって顔を覗き込んで目と目が合った瞬間。
……ブワッ!
世界に色が付いた。匂いを感じた。空気を感じた。いや、色も匂いも風の動きもずっと感じていたんだけど、それがよりクリアーになったとでも言えばいいのかな? あ、もっと簡単に言うとVRで見ているすっごくリアルな世界が現実になったって言うべき? とにかく何かが変わったのは全身で感じた。
「シンディお嬢様……? シンディお嬢様……! ご無事だったのですね……!」
どうやらこのご老人がマーズニさんだったようだ。あたしの両肩を掴みボロボロと涙を溢して泣いている。
「それにしても何ということだ……。リール家を解雇された時から今までの記憶はあるのですが……何と言いますか、人形にでもなっていた気分でございます……」
あれ? メイドたちも人形みたいになったって料理長が言ってたよね? もしかして、このマーズニさんも継母に変な魔法をかけられてたのかな? 詳しく話を聞きたいと思っていると、マーズニさんは中で話しましょうと家に招き入れてくれた。
「貰ったはいいけど、どうやって使うんだろ」
鍵の魔法を込めた魔石とは言われたけど、それを理解できない。あたし頭悪いからな、と一人で笑っていると頭の中に声が響いた。
『鍵となる言葉を思い浮かべてください』
何!? 誰!? どこ!? キョロキョロと部屋の中を見回しても誰もいない。そして同じ言葉が頭の中で響く。鍵!? 言葉!? パニックになったあたしはやらかした。
『鍵となる言葉を確認しました。『東京特許許可局許可長』です』
鍵となる言葉なんて聞いたこともないワードに戸惑い、なぜか早口言葉を唱えてしまった。でもこの世界では誰も知らない言葉だろうから、鍵としては優秀かもしれないパスワードだ。
そんな魔石はあたしの手の中で光を放ち、その光が部屋の扉の鍵穴に吸い込まれる。透明な黄色だった魔石はただの石になり、何か起こるのかと待っていても変化はなく扉を開けようとすると開かない。もしかしたらと思い、心の中で『東京特許許可局許可長』と唱えると扉は開いた。何コレすっご! 絶対に誰も開けないじゃん! 一回一回唱えるの面倒だけど。
シンディの部屋の中にある古びた時計を見るとちょうど昼時だ。きっと継母や義姉妹は優雅なランチタイムだろう。なら今のうちに出かけよう! 鍵の魔法の魔石を机にしまって部屋を出て、ここから出たら絶対にバレないなと思ったのはとある窓。この窓、とってもいい死角になってるんだよね。しかも木とか植物とかいっぱい生えてるし。ここから出て屈んで歩けばほぼほぼ見つかることはないだろう。善は急げだ、レッツゴー!
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多分、誰にも見つからずに街に出られたあたしは体中に付いてる葉っぱや小枝を取りながら歩く。ヨーロッパのような見事な建物や街の作りを田舎者のようにキョロキョロと見回しながら歩く。クソゲーの割には意外と作り込まれているなぁと感心してしまう。街に人は溢れているけど何か違和感を感じ、なんだろうと思いながら歩いた。人とすれ違う時は気付かなかったけど、道端で会話をしている人の話が聞こえた時に違和感の正体に気付いた。
「今日もいい天気ね」
「どこへ買い物に行こうかしら」
ふと足を止めてそのご婦人たちを見る。向かい合って会話をしているようだけど、微妙に視線は合ってないし会話もまた微妙に合ってない。そして延々と同じことを話している。他の会話をしている人にも注目したけどやっぱりこちらも同じ感じだった。……ゲームの世界のモブキャラだから? シンディのお屋敷の人と会話が噛み合うのは、もしかして今はシンディを中心としてこのゲームの世界が成り立っているから? 考えても分からないことは考えないようにして先に進むことにしたけど、すれ違う人の目もまたどこか焦点が合っていなくて薄ら寒く感じて来た。みんな生きてる感じがしない。
人の会話を聞かないようにし、人の顔を見ないように歩いているとどうやら街の外れに着いたようだ。ご丁寧なことに家は一軒しかなく、お屋敷よりもだいぶ小さな木造二階建てのこの家がマーズニさんの家だろう。
道路から玄関へと続く小道を歩くと、玄関前に一人のご老人の姿を確認出来た。
「やあこんにちは」
「今日も良い天気だ」
失礼だけど痴呆かな、と思うくらいにご老人は同じ言葉を繰り返している。ビクビクしながら近付くと、来る途中で見た街の人たちのようにどこか焦点が合わず人間味を感じない。それがそこはかとなく怖いと思ったけど、勇気を振り絞ってご老人の前に進んだ。
「……こんにちは。あの、マーズニさんはいますか? 私シンシアっていいます」
少なくともあたしの中では出来る限り丁寧な言葉で話しかけると、ご老人は一人で話すのを止めた。心配になって顔を覗き込んで目と目が合った瞬間。
……ブワッ!
世界に色が付いた。匂いを感じた。空気を感じた。いや、色も匂いも風の動きもずっと感じていたんだけど、それがよりクリアーになったとでも言えばいいのかな? あ、もっと簡単に言うとVRで見ているすっごくリアルな世界が現実になったって言うべき? とにかく何かが変わったのは全身で感じた。
「シンディお嬢様……? シンディお嬢様……! ご無事だったのですね……!」
どうやらこのご老人がマーズニさんだったようだ。あたしの両肩を掴みボロボロと涙を溢して泣いている。
「それにしても何ということだ……。リール家を解雇された時から今までの記憶はあるのですが……何と言いますか、人形にでもなっていた気分でございます……」
あれ? メイドたちも人形みたいになったって料理長が言ってたよね? もしかして、このマーズニさんも継母に変な魔法をかけられてたのかな? 詳しく話を聞きたいと思っていると、マーズニさんは中で話しましょうと家に招き入れてくれた。
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