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危険察知

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 あんなに楽しみにしていたテックノン王国旅行だが、たった一日で私は何回傷ついたのだろう。傷心極まりない私は、ただバ車の窓から流れる風景を見ていた。
 民家街に入ると人の往来も増え、バ車の邪魔にならないように道を開けてくれる。ニコライさんが乗っていることに気付いた人は、「ニコライ坊っちゃん!」などと手を振っている。街の人たちに好かれているようだ。

 ニコライさんのバ車ガイドにも反応を示さないでいるが、しっかりと耳は聞こえている。
 この城下町は扇状になっており、下流に行くに従って街が広くなっているそうだ。

 城下町は大きく三つのブロックに分けられ、どこに住む住民も買い物がしやすいように、どのブロックにも市場や店があるそうだ。
 下流に行くほど新しい街らしく、そこは市場というよりも小さな商店が点在しているとのことだ。
 お母様の要望に従い、ニコライさんは一番歴史あるという真ん中のブロックの大きな市場に向かっているらしい。

「ここにバ車を置いて歩きましょうか」

 バ車は一軒の建物の敷地内へと進んでいく。巨大というわけではないが、明らかに周囲の建物よりも大きく高さもあり、しっかりとした石造りの建物はまるで小さな教会のようだ。
 中から兵士らしき人が飛び出して来た。

「ニコライ様! おかえりなさいませ!」

「ジェフリー! お疲れ様です」

 ニコライさんに促されバ車から降りると、ジェフリーさんという人の紹介をしてくれた。宮殿ではなく、街の警備や犯罪行為の監視が主な仕事だそうだ。

「ここも私の自宅なんですが、広いですし立地が良いので兵士たちの詰め所としても使ってもらっています。単独の詰め所も街のいたる所にあるんですよ」

「ニコライ様は本当に私たちのことまで考えていただいて……素晴らしいお人柄です!」

 私たちの知るニコライさんではなく、セレブのニコライさんは人望があるらしい。

「こちらはヒ……リーンウン国からいらした方々です。今から市場に見学に行くんです」

 一瞬『ヒーズル王国』と言いそうになっていたが、ちゃんと『リーンウン国』と言い直していることから、本当に宮殿内の人たち以外に私たちの存在を知らせていないようだ。

「かしこまりました! バ車はお預かりしますね!」

 そう言ったジェフリーさんは、テキパキとバ車を誘導している。出来る男である。

────

「レンゲ様! ここが中央市場です!」

「まぁぁぁ!!」

 たくさんの人たちに声をかけられながら少し歩くと、バ車が余裕ですれ違えるほどの大きな通りに出たのだが、その両脇はお店がひしめき合っていた。
 食料や日用品、衣類に雑貨まで、ここで手に入らないものはないだろうというくらいの規模だ。

 お母様は「これは何かしら? あれは何かしら?」と、花に集まる蝶のようにヒラリヒラリとお店を移動しては物色している。
 もちろんそんなお母様をお父様が放っておくはずもなく、ヒーズル王国最強の迷子と天然コンビにハラハラとしてしまう。

 危険信号を感じ他のメンバーの確認をすると、タデはハコベさんへのお土産探しに必死であり、ペーターさんは一人で市場を突き進む。
 オヒシバは肉屋にいるがなぜか肉の話ではなく、ムキムキの店主と筋肉談議に夢中である。
 スイレンだけは物怖じしてしまい私の横にいるが、これは緊急事態である。

「兵士さん!」

 宮殿から一緒に来てくれている兵士たちを集め、お父様の迷子がいかに酷いか、お母様の天然と色気がいかに危険か、タデは集中しすぎるとどれ程の時間でもああやっていること、ペーターさんが自由すぎること、オヒシバはいろんな意味でちょっとアレなことを説明すると、分かりやすいくらいに引いている。

「分かりました! 私たちが一人ずつ追います!」

 話の分かる兵士たちは危険を感知し、見失わないうちにと追って行った。
 残ったのは私とスイレン、ニコライさんにマークさんである。不安もあるが、マークさんがいるなら大丈夫だろう。

「ではカレン嬢、スイレン坊っちゃん、参りましょう」

 ニコライさんが先頭で私たちはその後ろを歩くが、とにかくニコライさんは街の人たちに話しかけられるのだ。

「ニコライ坊っちゃん! お客さんかい? ほら、これ食べな。今日のは特に美味いんだ」

 と、無料で食べ物が集まってくる。その反面、マークさんは「ご苦労様です」や「いつも大変ですね」と労いの言葉がかけられるのだが、その言葉と共に「これを食べて元気出して」とまたもや食べ物を渡されるのだ。
 わらしべ長者どころの騒ぎではない。そしてマークさんはどれ程苦労しているのだろう?

 食べ歩きをしながら市場の中を見て回るが、活気があり街の人たちは笑顔が絶えない。移民の町はこのような交易所にしたいと強く思った。

 私は女の子らしく服屋や装飾品のお店を楽しみ、スイレンは文具や工事現場の道具屋に夢中である。もう少し年相応の楽しみをスイレンにはしてもらいたいものである。
 今日は見て回るだけの予定なので買い物はせず、気になったお店に片っ端から入って楽しんでいた。

 その時である。視線を感じて振り向くと、店と店の間に敷物を敷いて、その上に物を並べて売っている露店商がこちらを凝視していた。
 私も驚き凝視してしまう。これもまた運命の出会いだったのだろう。
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