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家族の絆
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マイを食べるのに餅を知らなかったリーンウン国は、『モチ』という食べ物を知り大騒ぎとなった。そして私が作った餡子餅やきな粉餅、ゴマ餅はリーンウン国民に衝撃を与え、主にクジャが毎日食べたいと騒ぐ程だった。
もちろん赤飯もまた衝撃を与えたようで、真の赤飯とモチを知ることが出来た『祝い事』として皆が作ろうとしたため、急激なマイとアーズの減少に王家がストップをかけた程だ。
クジャのわがままに対し、娘に甘いハヤブサさんは城用にマイとアーズをこっそりと取り寄せた。リーンウン国の農家やトビ爺さんは臨時収入で相当儲けたらしい。
そして毎回モチを作るのは大変なので、ぼたもちやおはぎと呼ばれるあの甘味を教えた。ぼたもちもおはぎも同じものだが、作る季節によって名前が変わるので、この国で作ったおはぎにはまだ名前がない。けれど、マイを少し潰して多少粒の残っているおはぎは、これはこれで大変人気があった。
そしてあのモチつき大会の日、王家の全員が最後までモチつきの観賞をして楽しんでいた。クジャは食べるのに必死ではあったが。
王家と一般国民の間には柵があり、当然近付くことは出来なかった。けれどトビ爺さんの村の御一行は柵の前を陣取り、久しぶりに見ることが出来たオオルリさんに大喜びだった。
『おぉい! オオルリ! 元気かぁ!?』
王妃に向かって叫ぶ、怖いもの知らずのトビ爺さんは兵たちからも黙認されていた。けれど、他の村というよりは城下町の人たちにあれこれ言われたらしい。しかしあの口の悪いトビ爺さんは、その文句を言った人に食って掛かり、あわや一触即発の状態だったと聞いている。
そんないざこざが聞こえない王家の席からは、オオルリさんが久しぶりに見る故郷の人たちに手を振り、それは楽しそうにしていた。
モチつき大会が終わり、また寝室へと戻ったオオルリさんは本気で努力をした。
私たちとの約束を果たしたい、故郷へと遊びに行きたい、何よりもあの場に来られなかった両親に会いたいと、あまり思ったことを口に出す人ではないのに、はっきりと言い切った。
私はお父様とじいやに頼み、杖や松葉杖、小さな荷車の車輪をもらい歩行器も作ってもらった。お父様たちが作業をしている間は兵たちが自主訓練となるため、兵たちのためにも毎日一つずつ丁寧に作ってもらった。
そして最終的には城中に手すりの設置を頼み、寝室には歩行訓練用の平行棒も設置してもらった。これらの道具はオオルリさんだけではなく、スワンさんの筋力強化とリハビリにもなり、仲の良い嫁と姑は励まし合いながら歩く練習をしていた。
クジャやハヤブサさん、チュウヒさんも頻繁に寝室を訪れ、お二人のリハビリを応援し手伝ってくれた。
そのおかげで家族の絆はより深まり、私がこの国に来た時のような、遠慮し合う家族関係ではなくなっていた。
────
「もう大丈夫です。行きます」
「しかしオオルリ、まだ完全に歩けるわけではないだろう?」
モチつき大会から数日、日々の訓練のおかげでオオルリさんの筋力は戻りつつあった。それはスワンさんもである。けれどまだ完全に歩けるわけではない。
しかしオオルリさんはどうしても里帰りをしたく、そしてオオルリさんの体調を気遣うハヤブサさんは心配からなかなか了承しない。言い争いではないが、この押し問答がずっと続いていた。家臣や女中は口が出せず、困り果てていた。
「ハヤブサさん、良いかしら?」
声をかけると一斉に注目を浴びる。全員が『終止符を打ってくれ』というような表情をしている。
「気分転換はとても大事なことよ。ただオオルリさんは少ししか歩けないわ」
全員が口を閉ざし静かに聞いている。
「村に向かうのに馬車を貸していただけないかしら? それと村に着いてから移動しやすいように、荷車を改造すればオオルリさんは歩かなくても済むわ。私のお父様とじいやがいれば、大抵の安全は確保出来るわよ」
そう言うとハヤブサさんはしばし考え始めた。
「……ならば女だけではなく、私もチュウヒも行こうではないか。私もしばらくオオルリの両親には会っていない。皆で、家族でオオゾラ村へと行こうではないか」
その言葉を聞いたオオルリさんは嬉しさから涙を流した。スワンさんはニコニコと二人を見ている。そして私を見てスワンさんは口を開いた。
「うふふ。オオルリさん、良かったわね。ところでカレンさん、その荷車の改造にはどれくらいの時間がかかるのかしら?」
「今から私も参加すれば、今日中に完成します」
そう言うと、スワンさんはさらにニッコリと笑った。
「ではカレンさんはその作業に、メジロとスズメは普段カレンさんがやっていることを代わりにやりましょう。ハヤブサ、あなたはオオゾラ村に遣いを出して。明日何も言わずに行くわけにはいかないでしょう。兵たちにもしっかり説明をしてちょうだい」
テキパキと指示を出すスワンさんに驚いた。何事もないようにスワンさんは微笑んでいる。そして一気に人が動き始めたその瞬間、スワンさんは驚きの言葉を口にした。
「待ってハヤブサ。オオゾラ村に、可能ならマイとアーズを多めに用意して欲しいと伝えてちょうだい」
そう言ってスワンさんは私を見て可愛らしく微笑んだ。どうやらスワンさんは相当赤飯やモチを気に入ったようである。私は笑顔で頷き返した。
もちろん赤飯もまた衝撃を与えたようで、真の赤飯とモチを知ることが出来た『祝い事』として皆が作ろうとしたため、急激なマイとアーズの減少に王家がストップをかけた程だ。
クジャのわがままに対し、娘に甘いハヤブサさんは城用にマイとアーズをこっそりと取り寄せた。リーンウン国の農家やトビ爺さんは臨時収入で相当儲けたらしい。
そして毎回モチを作るのは大変なので、ぼたもちやおはぎと呼ばれるあの甘味を教えた。ぼたもちもおはぎも同じものだが、作る季節によって名前が変わるので、この国で作ったおはぎにはまだ名前がない。けれど、マイを少し潰して多少粒の残っているおはぎは、これはこれで大変人気があった。
そしてあのモチつき大会の日、王家の全員が最後までモチつきの観賞をして楽しんでいた。クジャは食べるのに必死ではあったが。
王家と一般国民の間には柵があり、当然近付くことは出来なかった。けれどトビ爺さんの村の御一行は柵の前を陣取り、久しぶりに見ることが出来たオオルリさんに大喜びだった。
『おぉい! オオルリ! 元気かぁ!?』
王妃に向かって叫ぶ、怖いもの知らずのトビ爺さんは兵たちからも黙認されていた。けれど、他の村というよりは城下町の人たちにあれこれ言われたらしい。しかしあの口の悪いトビ爺さんは、その文句を言った人に食って掛かり、あわや一触即発の状態だったと聞いている。
そんないざこざが聞こえない王家の席からは、オオルリさんが久しぶりに見る故郷の人たちに手を振り、それは楽しそうにしていた。
モチつき大会が終わり、また寝室へと戻ったオオルリさんは本気で努力をした。
私たちとの約束を果たしたい、故郷へと遊びに行きたい、何よりもあの場に来られなかった両親に会いたいと、あまり思ったことを口に出す人ではないのに、はっきりと言い切った。
私はお父様とじいやに頼み、杖や松葉杖、小さな荷車の車輪をもらい歩行器も作ってもらった。お父様たちが作業をしている間は兵たちが自主訓練となるため、兵たちのためにも毎日一つずつ丁寧に作ってもらった。
そして最終的には城中に手すりの設置を頼み、寝室には歩行訓練用の平行棒も設置してもらった。これらの道具はオオルリさんだけではなく、スワンさんの筋力強化とリハビリにもなり、仲の良い嫁と姑は励まし合いながら歩く練習をしていた。
クジャやハヤブサさん、チュウヒさんも頻繁に寝室を訪れ、お二人のリハビリを応援し手伝ってくれた。
そのおかげで家族の絆はより深まり、私がこの国に来た時のような、遠慮し合う家族関係ではなくなっていた。
────
「もう大丈夫です。行きます」
「しかしオオルリ、まだ完全に歩けるわけではないだろう?」
モチつき大会から数日、日々の訓練のおかげでオオルリさんの筋力は戻りつつあった。それはスワンさんもである。けれどまだ完全に歩けるわけではない。
しかしオオルリさんはどうしても里帰りをしたく、そしてオオルリさんの体調を気遣うハヤブサさんは心配からなかなか了承しない。言い争いではないが、この押し問答がずっと続いていた。家臣や女中は口が出せず、困り果てていた。
「ハヤブサさん、良いかしら?」
声をかけると一斉に注目を浴びる。全員が『終止符を打ってくれ』というような表情をしている。
「気分転換はとても大事なことよ。ただオオルリさんは少ししか歩けないわ」
全員が口を閉ざし静かに聞いている。
「村に向かうのに馬車を貸していただけないかしら? それと村に着いてから移動しやすいように、荷車を改造すればオオルリさんは歩かなくても済むわ。私のお父様とじいやがいれば、大抵の安全は確保出来るわよ」
そう言うとハヤブサさんはしばし考え始めた。
「……ならば女だけではなく、私もチュウヒも行こうではないか。私もしばらくオオルリの両親には会っていない。皆で、家族でオオゾラ村へと行こうではないか」
その言葉を聞いたオオルリさんは嬉しさから涙を流した。スワンさんはニコニコと二人を見ている。そして私を見てスワンさんは口を開いた。
「うふふ。オオルリさん、良かったわね。ところでカレンさん、その荷車の改造にはどれくらいの時間がかかるのかしら?」
「今から私も参加すれば、今日中に完成します」
そう言うと、スワンさんはさらにニッコリと笑った。
「ではカレンさんはその作業に、メジロとスズメは普段カレンさんがやっていることを代わりにやりましょう。ハヤブサ、あなたはオオゾラ村に遣いを出して。明日何も言わずに行くわけにはいかないでしょう。兵たちにもしっかり説明をしてちょうだい」
テキパキと指示を出すスワンさんに驚いた。何事もないようにスワンさんは微笑んでいる。そして一気に人が動き始めたその瞬間、スワンさんは驚きの言葉を口にした。
「待ってハヤブサ。オオゾラ村に、可能ならマイとアーズを多めに用意して欲しいと伝えてちょうだい」
そう言ってスワンさんは私を見て可愛らしく微笑んだ。どうやらスワンさんは相当赤飯やモチを気に入ったようである。私は笑顔で頷き返した。
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