206 / 366
巡回
しおりを挟む
お母様たちは作業に夢中になってしまったので、そっとその作業場を離れる。すると、ちょうど木の伐採を終えた者たちが丸太を担いで戻って来た。
「ちょっと良いかしら? ハゼの木と言う木を探しているのだけれど、似たような名前の木はあるかしら? 樹液に触るとかぶれるのだけれど……」
聞けば『ハンゼ』と言う木があると言う。
「弓に使われたりするのですが……」
「あぁ! それよ! 小さくても良いから弓が欲しいのよ」
私の発言に「狩りをするのですか?」と問われたが、狩りをするわけではない。私とのやり取りを聞いていた者が「余っている弓がある」と、わざわざ家まで取りに行ってくれた。
手渡された弓をまじまじと見つめるが、実は弓を持ったのは初めてなのである。
「あの……狩りをするのではないのだけれど、お母様たちに必要だから使っても良い?」
「もちろん、お好きにお使いください」
弓をくれた者はそう言うが、どう使うのか興味を持ったようで一緒にお母様たちのところへ向かう。
「みんな! 少し場所を開けてちょうだい」
弓を持って現れた私にお母様たちは驚いている。
「さっきはすごく簡単に作業してしまったのだけれど、コートンはこれを使うとふわふわになるのよ」
実際にやったことはないが、昔の綿打ち作業には弓が使われていたのである。本で読んだ知識を思い起こし、コートンを一掴みほど取り出して床に置く。その上に弦が来るようにして弓を寝かし、軽く弦を弾いていくと、本で読んだ通りにボール状だったコートンがほぐれふわふわの綿になっていく。
「この通り、風があると飛んで行ってしまうから室内でやるのが良いのだけれど」
作業をしていた子どもたちは、飛んでしまったコートンを捕まえるために走り出す。それを見ていた弓をくれた者が「私が壁を作ります」と、名乗りを上げてくれた。そして綿打ち作業は子どもたちがやることに決まったようだ。
今度こそ本当に作業場を離れ歩き出す。向かう先は住宅予定地だ。
────
「ずいぶん作業が進んだのね!」
声をかけると最初に反応したのはブルーノさんだった。
「カレンちゃん! こんな感じで良いのかな?」
現場監督として立っていたブルーノさんは地面を指さす。その先では食べ物の貯蔵庫として使えるように、地下室となる場所を掘っているのだ。穴の中からヒイラギ、イチビ、シャガ、そしてジェイソンさんが顔を出す。
「姫!」
穴の中からヒイラギが飛び出し、皆に「休憩にしよう」と声をかけると、全員が穴から出て来た。
「ごめんなさいね。お父様がじいやもタデも連れて行ってしまったし、オヒシバたちに買い物を頼んだり……人が少なくて大変でしょう……?」
謝りながらも、気になっていたことを聞いてみる。
「私は作業がゆっくりになった分、リトールの町に帰らなくて良いから毎日が楽しいよ」
すっかりこの国を気に入ってくれたブルーノさんはそう言って笑うが、リトールの町がかわいそうで苦笑いしてしまう。
「私たちも、これ位の人数のほうが動きやすいよね?」
ヒイラギがそう言うと、イチビたちも頷いている。もちろんその中にジェイソンさんも含まれているのだが。
「……ジェイソンさん、いえ、ブルーノさんもだけれど、お客様なのに働かせてしまって……何と言ったら良いのかしら」
苦笑いで話すとジェイソンさんが反応する。
「いや、私は体を動かしているのが好きなんだ。そして先生のお側に居られる。こんなに幸せな日々は何年ぶりだろうか。毎日楽しくやっているから大丈夫だ!」
ジェイソンさんはにこやかに話し、「逆に毎日たくさん食べてしまって申し訳ない」と、大食いを自覚しての謝罪をしてくれた。料理のレパートリーは少ないが、何を食べても美味いとジェイソンさんは食事に対して不満を思っていないらしい。
ブルーノさんも好きな仕事をし、この国に来て悠々自適な生活をしていて、不満どころか満足すぎると言ってくれた。
「何かあったら言ってちょうだい。出来る限り対処するから。……少しお父様たちの様子も見てくるわ」
そのまま私は水路の脇を歩きながらオアシスを目指す。時おり立ち止まりヤンナギの様子を見るが、しっかりと根が張り成長に問題はないようだ。
────
「……」
オアシスに着いた私は呆然としている。人も道具も少ないので一気に作業が進むわけではないが、目の前には畑で見かけるような、害獣防止柵のようなものをオアシスの周囲に設置し始めていた。
お父様が丸太を砂地に打ち込み、じいやとタデが編んだ鉄線を、害獣が掘り返すことが出来ないよう深く砂地に埋め込んでいる。
そしてじいやとタデがその編んだ鉄線を支え、お父様が半端な鉄線で固定している。
まだ害獣のいないこの地で、本気で害獣対策をし始めたお父様にどう声をかけたら良いのか分からなく、私はしばらく棒立ちでその様子を眺めていたのだった。
「ちょっと良いかしら? ハゼの木と言う木を探しているのだけれど、似たような名前の木はあるかしら? 樹液に触るとかぶれるのだけれど……」
聞けば『ハンゼ』と言う木があると言う。
「弓に使われたりするのですが……」
「あぁ! それよ! 小さくても良いから弓が欲しいのよ」
私の発言に「狩りをするのですか?」と問われたが、狩りをするわけではない。私とのやり取りを聞いていた者が「余っている弓がある」と、わざわざ家まで取りに行ってくれた。
手渡された弓をまじまじと見つめるが、実は弓を持ったのは初めてなのである。
「あの……狩りをするのではないのだけれど、お母様たちに必要だから使っても良い?」
「もちろん、お好きにお使いください」
弓をくれた者はそう言うが、どう使うのか興味を持ったようで一緒にお母様たちのところへ向かう。
「みんな! 少し場所を開けてちょうだい」
弓を持って現れた私にお母様たちは驚いている。
「さっきはすごく簡単に作業してしまったのだけれど、コートンはこれを使うとふわふわになるのよ」
実際にやったことはないが、昔の綿打ち作業には弓が使われていたのである。本で読んだ知識を思い起こし、コートンを一掴みほど取り出して床に置く。その上に弦が来るようにして弓を寝かし、軽く弦を弾いていくと、本で読んだ通りにボール状だったコートンがほぐれふわふわの綿になっていく。
「この通り、風があると飛んで行ってしまうから室内でやるのが良いのだけれど」
作業をしていた子どもたちは、飛んでしまったコートンを捕まえるために走り出す。それを見ていた弓をくれた者が「私が壁を作ります」と、名乗りを上げてくれた。そして綿打ち作業は子どもたちがやることに決まったようだ。
今度こそ本当に作業場を離れ歩き出す。向かう先は住宅予定地だ。
────
「ずいぶん作業が進んだのね!」
声をかけると最初に反応したのはブルーノさんだった。
「カレンちゃん! こんな感じで良いのかな?」
現場監督として立っていたブルーノさんは地面を指さす。その先では食べ物の貯蔵庫として使えるように、地下室となる場所を掘っているのだ。穴の中からヒイラギ、イチビ、シャガ、そしてジェイソンさんが顔を出す。
「姫!」
穴の中からヒイラギが飛び出し、皆に「休憩にしよう」と声をかけると、全員が穴から出て来た。
「ごめんなさいね。お父様がじいやもタデも連れて行ってしまったし、オヒシバたちに買い物を頼んだり……人が少なくて大変でしょう……?」
謝りながらも、気になっていたことを聞いてみる。
「私は作業がゆっくりになった分、リトールの町に帰らなくて良いから毎日が楽しいよ」
すっかりこの国を気に入ってくれたブルーノさんはそう言って笑うが、リトールの町がかわいそうで苦笑いしてしまう。
「私たちも、これ位の人数のほうが動きやすいよね?」
ヒイラギがそう言うと、イチビたちも頷いている。もちろんその中にジェイソンさんも含まれているのだが。
「……ジェイソンさん、いえ、ブルーノさんもだけれど、お客様なのに働かせてしまって……何と言ったら良いのかしら」
苦笑いで話すとジェイソンさんが反応する。
「いや、私は体を動かしているのが好きなんだ。そして先生のお側に居られる。こんなに幸せな日々は何年ぶりだろうか。毎日楽しくやっているから大丈夫だ!」
ジェイソンさんはにこやかに話し、「逆に毎日たくさん食べてしまって申し訳ない」と、大食いを自覚しての謝罪をしてくれた。料理のレパートリーは少ないが、何を食べても美味いとジェイソンさんは食事に対して不満を思っていないらしい。
ブルーノさんも好きな仕事をし、この国に来て悠々自適な生活をしていて、不満どころか満足すぎると言ってくれた。
「何かあったら言ってちょうだい。出来る限り対処するから。……少しお父様たちの様子も見てくるわ」
そのまま私は水路の脇を歩きながらオアシスを目指す。時おり立ち止まりヤンナギの様子を見るが、しっかりと根が張り成長に問題はないようだ。
────
「……」
オアシスに着いた私は呆然としている。人も道具も少ないので一気に作業が進むわけではないが、目の前には畑で見かけるような、害獣防止柵のようなものをオアシスの周囲に設置し始めていた。
お父様が丸太を砂地に打ち込み、じいやとタデが編んだ鉄線を、害獣が掘り返すことが出来ないよう深く砂地に埋め込んでいる。
そしてじいやとタデがその編んだ鉄線を支え、お父様が半端な鉄線で固定している。
まだ害獣のいないこの地で、本気で害獣対策をし始めたお父様にどう声をかけたら良いのか分からなく、私はしばらく棒立ちでその様子を眺めていたのだった。
23
お気に入りに追加
1,995
あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。


魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる