上 下
152 / 366

タッケの伐採

しおりを挟む
 前回と同様に一つ目の中洲までは難なく歩いて行く。二つ目の中洲まではふくらはぎほどの水深があるが、泳ぐほどではないので足を踏ん張りながらゆっくり慎重に進む。全員が中洲に到着したのを確認し口を開く。

「ここが難所よ。あの三つ目の中洲まではとても川が深いの。だから少し上流に進んでから三つ目に向かうわ。みんな水の流れに足を取られないようにね」

 そうして水の流れに逆らいながら上流側へ進む。感覚的にこの位置からであれば簡単に泳ぎ着けそうな場所から身体の下に板を入れて泳いだ。元々泳げる私は問題なく三つ目の中洲に到着し、立ち上がって大声を出す。

「みんなー! 気を付けてねー!」

 すると私の声がちゃんと届かなかったのか、それとも何かを勘違いしたのか全員が一斉に泳ぎ出してしまったのだ。その行為自体には問題はないのだが、今立っている場所から泳いでしまった為に私が泳ぎ始めた位置よりも少し下流なのだ。イチビとシャガはまずここに到達するだろうが、ハマスゲとじいやは大丈夫だろうか?
 ハラハラしながら見守っているとイチビとシャガは余裕の笑顔で中洲へと上がって来る。ハマスゲは泳ぎ始めた場所が悪いせいで若干不安要素があったがなんとか中洲へと到達した。だが問題はじいやだった。初めての川、そして初めての水泳、さらに泳ぎだす場所が悪かったのもあり、タイミングを逃してからバタ足を始めたので下流に向かって泳ぐ形となった。そのせいでスピードは増し流されてしまっている。あっという間に中洲よりも下流に向かってしまった。

「じいやー!」

 私が叫ぶとじいやは驚異的な身体能力で流されながらも身体をこちらに向けた。

「ぬおぉぉぉぉ!」

 川の中からじいやの雄叫びが聞こえ、じいやは川の流れに逆らっている。私たち中洲にいる者はどうしようかと頭を抱えたが、本能的に泳ぎ方を編み出したのかただの偶然なのかは分からないが、じいやはバタ足だけだったのを手も使いクロールのように泳ぎだした。

「……え?」

 流されて行っていたはずのじいやがこちらに進んで来る。コツも掴み始めたのかそのスピードが上がる。ロープを投げて助けなければと思うのだが、じいやの気迫にたじろぎ身体が動かない。そしてパニックに陥った私たちはなぜかじいやを応援し始めてしまった。

「頑張ってじいや!」

「ベンジャミン様! こちらです!」

 応援が聞こえたらしいじいやのスピードがさらに上がり、ついにじいやは川の流れに打ち勝ったのだ。中洲へと上がって来たじいやは軽く息を切らしている程度で済んでいる。本当にじいやの身体能力は常軌を逸していると改めて思った。

 この中洲から向こう岸までは浅瀬が続いているので滑らないように注意をしながら進み、私たちは無事に到着した。地面に板子を置きわらじを履き、私たちはタッケを植えた場所を目指す。前回同様に緩い斜面をロッククライミングの要領で登るとあの赤い砂が広がる地面は見事なまでの竹林となっていた。

「いやぁ本当にあちら側に植えなくて正解でしたな」

 タッケのあまりの成長と繁殖ぶりにじいやが苦笑いでそう呟く。

「本当にそうよね。……じゃあ切っていきましょうか。斜面ならやりやすいのだけれど、ここは平坦だから少し骨が折れるかもしれないわね」

 今回私が欲しいのは太いタッケだが、数種類が生えているこの場所で特定のタッケだけを切ると他が繁殖し過ぎてしまいそうなので太いタッケを中心に全種類を切ることとなった。
 一人がタッケを支え、もう一人が根元をノコギリで切る。みんなが力持ちなので作業は捗ることだろう。倒す方向は同じ方向にして向きを揃え、私は離れた場所から指示を出す。一旦切るだけ切ってから長すぎるものは適度な長さに切り揃えた。もちろんこの間に枝も切り落とす。

「ふぅ。こんなものですかね? では下へ運びましょうか」

 額の汗を拭いながらそう提案してくれたシャガを止める。

「待って。私の好物の食べ物を採ってからよ」

 その言葉にみんなが「え!?」と聞き返す。鍬があれば良いのだが、川を渡るのに邪魔になるので小さな道具しか持って来ていない。けれどここには力技でどうにかしてくれる人ばかりが揃っているのでそこは気にしない。まだ地面は土ではなく砂なので足で砂を払うとタケノコの先端が見える。小さなシャベルを持ちそのタケノコを露出させ、じいやたちに鎌でもノコギリでもいいのでこれを採ってほしいと伝え、いくつかのタケノコたちを私は探し続けた。

「これは食べられるのですか?」

 森の民がいた場所にはタッケがなかったようなので馴染みがないのだろう。シャガの質問に答える。

「絶対に癖になるから騙されたと思って食べてみて。私たちはタケノコと呼んでいたけれど、この世界でいうなら『タッケノコ』かしら」

 笑いながらそう言うとみんなもやる気に満ち溢れ必死にタケノコを採取する。知らないものは口にしないという森の民だったが、私が紹介するものにハズレがなかったからか民たちも新たな食べ物に対して貪欲になってくれている。果たしてこのタケノコも気に入ってくれるだろうか? 夕食が楽しみである。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...