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 ヒーズル王国へと帰ってきた私たちは、ひとまずゆっくりしましょうと言うお母様の一言により広場に座ってくつろいでいる。くつろいではいるつもりなのだが、視界の端に見える燃え尽き完全に消し炭のようになっているお父様とタデが気になって落ち着かない。スイレンも同じような居心地の悪さを感じているらしく「僕、水路を見て来ようかな」なんて作り笑いで言う。

「そ、そうねスイレン。一緒に行きましょうか」

 なんとかこの場を離れようとスイレンと一緒に立ち上がると、お母様が天然なのか嫌味なのか分からない発言をした。

「じゃあ私も行こうかしら。二人だけで行って直接私に何も言えないモクレンに何かされたら許せないもの」

 お父様たちのいる方向を見ることもなく笑顔で言い放つお母様だが、私とスイレンはお父様を見ることが出来ない。きっとこの発言で地に埋まっているのではないかと思う。

 居心地の悪くなったヒイラギもまた一緒に行くと言い出し、必死にお父様たちを見ないように購入してきた物を降ろし鉄線だけをポニーとロバに運んでもらう。ちなみにハコベさんとナズナさんは何を、とは言わないが見張りをするとその場に残った。

 私とスイレン、ヒイラギは変な緊張感から口数が少なくなるが、お母様は「ブルーノさんのお宅は素敵だったわね」とウキウキとした様子である。水路に向かう途中の家の建築予定地では足を止め、「ジェイソンさんの家も作らないとね」と終始楽しそうに話しているのがまた怖い。

 水路に到着するとほんの数日で立派に護岸整備がされていて、スイレンと共に感嘆の声を漏らした。きっちりと真っ直ぐに並べられた蛇籠は圧巻であった。

「姫様! スイレン様!」

 私たちに気付いた者が声を上げるとみんながこちらを振り向く。そしてじいややイチビたちがこちらへ走って来る。

「お帰りになられたのですね。……モクレン様はどうなされました?」

 じいやは辺りを見回しながらそう聞くが、どう答えたら良いのか分からない私とスイレンとヒイラギは苦笑いをするしかない。するとお母様はニッコリと微笑んで口を開いた。

「とても楽しい旅だったのよ。なのにモクレンとタデったらスイレンを泣かせたんですもの。もう知らないわ」

 頬を膨らませるお母様の仕草は可愛らしいものであるが、その言葉を聞いた者は全員が何かを察した表情をした。おそらく森に住んでいた頃からこのようなことが多々あったのだろう。一番このような事態に慣れているであろうヒイラギは、努めて明るく声を上げた。

「鉄線を購入してきたよ。早く水を引けるようにみんなで頑張ろう」

 ヒイラギの張り付けたような笑顔でさらに何かを察したみんなは「そ……そうだな」と顔を見合わせている。そして同じくこのようなことに慣れているであろうじいやはお母様に声をかけた。

「お疲れでなければ、作りかけのオアシスを見てみませんか?」

「えぇ、ぜひ」

 ヒイラギはこのまま蛇籠作りと設置をすると言うので一度ここで別れる。じいやに案内され川底に向かって小さな蛇籠を組み合わせた階段を降りると、お母様は階段の高さなどについて作業をしている者から質問攻めにあう。水路の建設はほとんど男性が作業しており、女性が降りやすい高さか確認をしたいようだ。もちろん器用な者たちの作った階段なので確認せずとも全く問題はないのだが、お母様の機嫌を治す為の行動でもあるのだろう。
 じいやを先頭に私たち親子は手を繋いで水路の底を歩く。蛇籠を置くために一時は拡張をしたが、設置が終わった水路は水を汲む為のものなので幅は狭い。それでも三人が横並びになれるので幅は二メートル程であろうか?

「着きましたぞ」

 振り向きそう言うじいやだが、お母様がいない為にお父様は無になり一心不乱にオアシスを作ったのだろう。まだ水が入っていないが大きく円形に作られた人工オアシスの周囲には一部を残して蛇籠が設置されている。

「……じいや、ここまで進めているとは思わなかったわ」

 お母様とスイレンが「すごい!」と走り回っているうちにそっとじいやに話しかける。

「それはもう力を惜しみなく出し、休憩も取らずにモクレン様がやっておられましたからな……」

 やはりお父様はストレスの全てをこの建設にぶつけていたようだ。それでも手を抜かずここまで作り上げたのはじいやとハマナスがいたからだろう。

「……姫様、レンゲ様は怒ると機嫌がなかなか治らないのです。笑ってはいますがまだ怒っている筈ですので、モクレン様の為にも機嫌を治していただけるようにじいは一肌脱ぎますぞ」

「……ぜひお願いするわ」

 コソコソと二人で話し合い、やはりお母様は怒っているのだと再認識した。じいやは気をつかっている様子もなく、それは手なれた様子でお母様に話しかけたのだった。じいや、夫婦喧嘩の仲裁までしてくれて本当にありがとう。そしてごめんなさいね。
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