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カレンの簡単クッキング

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 竹馬で遊ぶのを後回しにし、早めに仕事が終わって戻って来たブルーノさんのお弟子さんも巻き込んでひたすら竹馬の製作に取り掛かっていた。高さのあるものから小さな子ども向けの低いものまで作り続けてどれくらい経ったのか分からないが、イチビたちが戻って来た。

「戻りました」

 じいやに気を使い一言だけ言って工房へと入って来る。ハマスゲは服を着ていたが、ほんの少しだけしっとりと濡れているようだったので服に付いたスネックの血を洗って来たのだろう。私たちが必死で作っているものに興味を示したようだが、それを横目にシャガはこっそりと私だけに手招きする。声をかけないということは何かあると思い、あえて私も何も言わずにシャガに付いて行き、逆にイチビたちは工房内へと入る。

「どうしたの?」

 工房から少し離れた場所でシャガに切り出すと、シャガは小さな革袋を差し出した。

「町の皆さんが感謝のお礼に姫様にと。ベンジャミン様の前では出し辛く……スネックの塩焼きです。この町の名物というか一般的な料理だそうです」

 驚きつつも革袋の中を見ると、小さくぶつ切りにされたスネックが香ばしく焼き上がっている。さすがの美樹ですらヘビは食べたことがなく、でも厚意と興味から一つだけ取り出し恐る恐る口に入れてみる。元の姿は知っているが、原型を留めていないのでハードルは低い。口に入れても全く生臭さは感じず、思いきって噛んでみると骨はあるが鶏のささみのような食感であった。

「……意外だわ……美味しい……」

 革袋の中を見つめたままそう言うとシャガに笑われてしまった。

「こんなにたくさんあるし、ブルーノさんとお弟子さんにも食べてもらいましょう」

「それは良い考えですね」

 シャガはそう言い微笑む。

「ところで他のスネックはどうしたの?町の人に配ったのかしら?」

「あぁ、ほとんどを食堂の方が持って行きましたよ。料理としてお出しすると言っていました」

 それを聞いて閃いてしまった。臭みがほぼ無いのでこれはもう少し手を加えたいと思ってしまったのだ。

「シャガ、私ちょっとだけ食堂に行ってくるわ。その間にブルーノさんたちにこれを分けて」

 革袋をそのままシャガに手渡すと驚かれたが、その脇を走り抜け食堂へと向かった。

────

「こんにちは!」

 元気よく食堂に入ると客はまばらで店主に驚かれた。

「一人かい?お付きの人たちはどうしたんだい?」

「あのね、スネックがとても美味しかったの。他の調理法を知りたくて」

 私が思いついたシンプルな料理があるのかまずは確認する。

「他の?……塩加減が知りたいってことなのかな?」

 店主は顎に手を当て首を傾げている。私も会話が成り立っていないので小首を傾げると、厨房に入って良いと言われお邪魔することにした。作業台の周りには調味料入れが置かれていて、中身を聞くとなんと塩とペパーと砂糖だけだと言う。作業を見ていても長いままのスネックをジグザグに串に刺したり、先ほど食べたようにぶつ切りにしたりするが、どちらもただ塩を振るだけだった。

「私もお料理をしてもいいかしら?えぇと……」

「あぁまだ名前を言っていなかったね。アンソニーだよ。どうぞ好きに使って」

 アンソニーさんは作業台のスペースを空けてくれそこにスネックの肉を置いたが、元を知っているだけに少し戸惑う。自分にこれはウナギやヤツメと自己暗示をかけ、骨が多いが取り切れないので諦め私もぶつ切りにしていく。

「アンソニーさん、お酒ってあるかしら?」

 そう聞けば驚きの答えが返ってきた。

「あるにはあるが異国の残り物だ。この辺では酒の作り方がよく分からなくてあまり出回っていないんだよ」

 なんとお酒の作り方を知らないと言う。博打もしなければ酒もほとんど飲まないなんて、良いことではあるけれど本当に娯楽のない町だったのね。
 アンソニーさんは棚から一本の透明な瓶を取り出したが、中には琥珀色をした液体が入っている。「まさか料理に使うのかい?」と聞かれ頷くが、中身を少しだけ出して匂いと味を確認するとどうやら白ワインのようだった。だが半分ほど飲んで放置していたのか色も変わり酸味も強くなってきている。

「アンソニーさん、これは間もなく飲めなくなるわ。全部使っても良いかしら?」

 驚くアンソニーさんに少し飲ませてみると「この前よりも酸っぱい」と言っている。使っても良いと言うので全部使うことにした。美樹の家でもワンコイン程の安い白ワインを料理に使ったりしたが、酸化してきた時によく作っていた物を作る。同時進行でもう一品作りたく、香草と油とムギンの粉をいただく。油も別の街から購入するらしく、指先に付けて舐めてみた感じからするとオリーブ油っぽかった。

 ぶつ切りにしたスネックの肉を半分に分け、一つに塩とペパーと香草を細かくみじん切りにした物を入れよく混ぜる。下味を付ける為なので一旦このまま放置だ。この時点でアンソニーさんは手を止め、驚いた表情をしながら私の料理を作る過程を観察している。
 もう一つの肉にも塩とペパーを振り、フライパンを温める。この食堂ではレンガ式のかまどで、火加減が分からなかったがアンソニーさんが火を見てくれる。ご厚意に甘えフライパンにスネックを入れ、合間にキャベッチを一玉もらいざく切りにする。途中でスネックをひっくり返し、全部のキャベッチを切ったあとにワインのようなお酒を入れて煮詰める。
 煮詰めている間に下味を付けていたスネックにムギンの粉をまぶし、別のフライパンに油を注ぐ。フライにしたかったのだが、油もそれなりに高価だと聞き揚げ焼きにすることにした。肉が半分くらい浸れば良いので少量で済む。油が温まったらスネックを入れるが、一気に入れると温度が下がるので少しずつ入れる。焼き色が付くまでの間に煮詰めている方のフライパンを見ると良い塩梅にお酒が減っているので水を少々入れ、キャベッチと香草を入れて蓋をして蒸し焼きにする。
 揚げ焼きが全て完成したら金属製のザルで油を切って皿に盛り付け、蒸し焼きの蓋を開けて見るとこちらも美味しそうに出来上がっていた。

「ちょっと味見をしてみましょう」

 二人で試食をしてみると驚くほど美味しく出来上がっている。アンソニーさんは驚きすぎているほどだ。

「カレンちゃん……店の料理として出してもいいかい?」

 もちろんと答えると、料理の匂いにつられていつの間にか厨房付近に集まっていた人に少量ずつ振る舞う。

「そうだ、こっちはエルザさんが育てているリーモンをかけるともっと美味しいと思うわよ」

 揚げ焼きを指さすと、それを聞いた一人がエルザさんのところまで走って行ってしまった。その間にイチビたちやブルーノさんたちの分を少しだけ分けてもらい、私はルンルンとブルーノさんの家へと戻ったのだった。
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