75 / 366
カレン履物屋
しおりを挟む
昼食時にそれまで何をしていたのか聞かれたが、チョーマを編んでいたと答えた。間違いではない。子どもたちが萎縮しないようにしたとも言ったが、内心はいろいろ作った履き物を後で全部見せたいからだ。
素知らぬ顔をして昼食後に元の場所に戻る。次に作るのはぞうりだ。これも基本的にわらじと同じような作り方なので、わらじと同じか少し早いくらいで作ることが出来る。
このカレンの足では鼻緒を体験したことがないので、きっとすぐに鼻緒擦れができるだろうなと思いながら鼻緒を取り付ける。つま先から編み鼻緒の端を底面に取り付けながら編み上げる。
出来上がったぞうりを履くとやはり鼻緒の部分が痛いが、この痛さも懐かしいと感じる。
そしてふと思った。畑仕事をし、モルタルを練り上げ左官工事までし、わらじやぞうりを作っている姫などこの宇宙中にいるだろうかと。いるのかもしれないが、さすがにどの姫も左官工事はしないだろう。全てが楽しいので不満はないが、みんなが想像する一般的な姫のようにもっと優雅で名前のように可憐なこともするべきではないのかと……。
しばし呆然と考えていた私は閃いた。善は急げである。
材木置き場の焚き木用の枝の中から、堅くて丈夫で持ちやすい物を選んで持って来た。それを小刀で削る。鉛筆も小刀で削っていたし、図工は得意だったので造作も無い。先を丸く加工し一部に溝を彫り、急ごしらえのかぎ針を作った。
編み物は棒針編みという二本の棒を使う編み方と、かぎ針編みという一本の棒を使うものとがある。どちらも得意だが、細かい物を作る時は好んでかぎ針編みをしていた。
美樹の家は冬の暖房代節約の為に、家の中でも暖かい服装をしなければならなかった。特に冬場は足が冷え、その対策に百均やアウトレットで激安の毛糸を買ってきてルームシューズを編んでいた。それを思い出したのだ。
悲しい過去だが、編み物なんて優雅で姫らしいじゃないと自分に言い聞かせる。
編み方は様々な種類があるが、今回はシンプルな物を作ろうと思う。模様を入れたりすると時間がかかるので、同じ編み方だけを繰り返して時間短縮を図る。
一度縄をほぐして半分ほどの太さの糸にし、作り目をして長編みと鎖編みを繰り返し、つま先側から編んでいく。編まれた物が筒状になるように編み、足にあてがい足の甲の半分くらいまで編んだのを確認したら底面部分だけを編んでいく。ある程度編んだら底面側を地面に置き、サイズを確認したらかかとを縫い合わせる。素材のせいかルームシューズというよりはフットカバーのようだが出来はいい。そして同じ物を編み上げ、これで一足が完成した。
休憩時に呼ばれた時にお母様に針のしまっている場所を聞くと、寝室の道具箱の中に入っているから好きに使って良いと言われ針も手に入れた。
次に作るのはオシャレなルームシューズだ。かぎ針で細長く編んだ物の真ん中部分に糸を足し、足した部分を編んでいく。これも自分の編みやすい編み方で編み、出来上がりをT字の編み物にする。Tの字の縦の部分を底面にし、横の部分をかかと側からつま先に持っていき着物の襟のように重ねて底面と一緒にぐるっと一周を糸で綴じる。
「かわいい!」
思わず声が出てしまう出来だ。そしてまた同じ物を作り、先程とは逆に重ねて糸を綴じる。個人的にこれが一番気に入り、まだ余っている糸で花のモチーフを作り足首に取り付けた。
ちょうど夕方が近くなり、民たちは作業を終え広場に戻って来ている。見てもらいたくてウズウズした私は作った物を全部持って広場へと向かった。足元は最後に作った物を履いている。
「みんな!見て!」
片足を上げてアピールすると民たち、特に女性陣が集まって来た。
「すごいわ!」
「どうやって作ったの!?」
質問攻めに合いながらも他の作品も見せると、さらにざわめきだす。一つ一つを説明しながら、植物繊維を使っているので耐久性は低いと伝えるが、やはり初めて見る代物に興味津々のようだ。お母様たちはパッチワークのような布を切ったり縫ったりする裁縫はするが、編み物のようなことはしたことがないらしい。
「今度ゆっくり教えるわね」
そう苦笑いで言っていると、普段農作業をしている民に声をかけられた。
「あの……それ、畑で作業をするときに使いたいです」
その民が指をさすのはわらじだ。普段の靴だと中に土が入ってどんどんと土汚れが付いてしまっているらしい。このわらじであれば脱いだ後に足を拭けば良いと思ったようだ。作るのに時間がかかると言うと合間に自分たちで作るという。
その場で翌日にわらじ作りの講習会が決定した。
素知らぬ顔をして昼食後に元の場所に戻る。次に作るのはぞうりだ。これも基本的にわらじと同じような作り方なので、わらじと同じか少し早いくらいで作ることが出来る。
このカレンの足では鼻緒を体験したことがないので、きっとすぐに鼻緒擦れができるだろうなと思いながら鼻緒を取り付ける。つま先から編み鼻緒の端を底面に取り付けながら編み上げる。
出来上がったぞうりを履くとやはり鼻緒の部分が痛いが、この痛さも懐かしいと感じる。
そしてふと思った。畑仕事をし、モルタルを練り上げ左官工事までし、わらじやぞうりを作っている姫などこの宇宙中にいるだろうかと。いるのかもしれないが、さすがにどの姫も左官工事はしないだろう。全てが楽しいので不満はないが、みんなが想像する一般的な姫のようにもっと優雅で名前のように可憐なこともするべきではないのかと……。
しばし呆然と考えていた私は閃いた。善は急げである。
材木置き場の焚き木用の枝の中から、堅くて丈夫で持ちやすい物を選んで持って来た。それを小刀で削る。鉛筆も小刀で削っていたし、図工は得意だったので造作も無い。先を丸く加工し一部に溝を彫り、急ごしらえのかぎ針を作った。
編み物は棒針編みという二本の棒を使う編み方と、かぎ針編みという一本の棒を使うものとがある。どちらも得意だが、細かい物を作る時は好んでかぎ針編みをしていた。
美樹の家は冬の暖房代節約の為に、家の中でも暖かい服装をしなければならなかった。特に冬場は足が冷え、その対策に百均やアウトレットで激安の毛糸を買ってきてルームシューズを編んでいた。それを思い出したのだ。
悲しい過去だが、編み物なんて優雅で姫らしいじゃないと自分に言い聞かせる。
編み方は様々な種類があるが、今回はシンプルな物を作ろうと思う。模様を入れたりすると時間がかかるので、同じ編み方だけを繰り返して時間短縮を図る。
一度縄をほぐして半分ほどの太さの糸にし、作り目をして長編みと鎖編みを繰り返し、つま先側から編んでいく。編まれた物が筒状になるように編み、足にあてがい足の甲の半分くらいまで編んだのを確認したら底面部分だけを編んでいく。ある程度編んだら底面側を地面に置き、サイズを確認したらかかとを縫い合わせる。素材のせいかルームシューズというよりはフットカバーのようだが出来はいい。そして同じ物を編み上げ、これで一足が完成した。
休憩時に呼ばれた時にお母様に針のしまっている場所を聞くと、寝室の道具箱の中に入っているから好きに使って良いと言われ針も手に入れた。
次に作るのはオシャレなルームシューズだ。かぎ針で細長く編んだ物の真ん中部分に糸を足し、足した部分を編んでいく。これも自分の編みやすい編み方で編み、出来上がりをT字の編み物にする。Tの字の縦の部分を底面にし、横の部分をかかと側からつま先に持っていき着物の襟のように重ねて底面と一緒にぐるっと一周を糸で綴じる。
「かわいい!」
思わず声が出てしまう出来だ。そしてまた同じ物を作り、先程とは逆に重ねて糸を綴じる。個人的にこれが一番気に入り、まだ余っている糸で花のモチーフを作り足首に取り付けた。
ちょうど夕方が近くなり、民たちは作業を終え広場に戻って来ている。見てもらいたくてウズウズした私は作った物を全部持って広場へと向かった。足元は最後に作った物を履いている。
「みんな!見て!」
片足を上げてアピールすると民たち、特に女性陣が集まって来た。
「すごいわ!」
「どうやって作ったの!?」
質問攻めに合いながらも他の作品も見せると、さらにざわめきだす。一つ一つを説明しながら、植物繊維を使っているので耐久性は低いと伝えるが、やはり初めて見る代物に興味津々のようだ。お母様たちはパッチワークのような布を切ったり縫ったりする裁縫はするが、編み物のようなことはしたことがないらしい。
「今度ゆっくり教えるわね」
そう苦笑いで言っていると、普段農作業をしている民に声をかけられた。
「あの……それ、畑で作業をするときに使いたいです」
その民が指をさすのはわらじだ。普段の靴だと中に土が入ってどんどんと土汚れが付いてしまっているらしい。このわらじであれば脱いだ後に足を拭けば良いと思ったようだ。作るのに時間がかかると言うと合間に自分たちで作るという。
その場で翌日にわらじ作りの講習会が決定した。
12
お気に入りに追加
1,959
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
土岡太郎
ファンタジー
自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。
死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。
*10/17 第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。
*R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。
あと少しパロディもあります。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。
良ければ、視聴してみてください。
【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)
https://youtu.be/cWCv2HSzbgU
それに伴って、プロローグから修正をはじめました。
ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる