貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi

文字の大きさ
上 下
61 / 366

挿し木

しおりを挟む
 戻る道すがらたくさんのことを考えた。前世はただの小娘だった自分には出来ないことが多すぎて、そのせいで上手く国が発展しないのかと落ち込んでみたり、少しずつ水路建設が進んでいるのを嬉しく思ったり。一人百面相をしているうちに広場へ着いた。

 森は相変わらずの成長を見せ、朝よりも木々は伸びている。徐々に範囲も広がり、私とスイレンが初めて外に出た時の光景と様変わりしている。開花している木もあれば葉が落ちる木もあり、落ちた葉は腐葉土の材料となり新たな土になる。力のある民は間伐をし、ハコベさんを中心とした女性たちは挿し木で増える木々の植林をしているようだ。
 挿し木の文字が頭に浮かぶと同時に畑を任せているエビネたちに呼ばれた。

「姫様、先日植えた新しい野菜が芽を出しましたよ」

 嬉しそうに目を輝かせ、私にとっても嬉しい報告をしてくれた。

「本当?見せて」

 私は水路建設メンバーに休むよう声をかけ畑へと向かう。
 オックラー、パンキプン、キャベッチの種はほとんど発芽し土からひょっこりと双葉を出している。発芽さえしてしまえば、この土地の力でぐんぐんと成長するだろう。オーニーオーン、キャロッチ、グリーンペパーは苗を植えたが、こちらも成長点から新たな枝や葉を出していた。

 そういえばテックノン王国のニコライさんに頼んだ物を木製で作ってもらう予定だったが、木材はまず家の建築に回してもらおう。納品されるまでは我慢しようと思いながら果樹の確認にも向かう。
 果樹たちも順調に成育しているようで安心する。ラズベーリに黒ベーリ、オーレンジンにグレップ二品種、チェーリにアポーにリーモン。食べることは出来ないコートンの木に、早く育ってもらいたいペパーの木。全部を細かくチェックしたが病気の問題もなさそうだ。ならば、と私は思い立つ。

 森の近くに出来た材木置き場へと向かい、明らかに家の建築には使えない短い板はないかとあさっているとヒイラギがやって来た。

「何かお探しですか?」

「あ、ヒイラギ。板材を探しているのだけど、大きな物はみんなの家の建築に使ってほしいから使い道のなさそうな物を集めたくて」

「相当数必要なのですか?」

「いいえ、そんなに数はいらないわ」

 そう言うとヒイラギは吹き出す。

「間伐した木が毎日増えていますから、そんなに気にせず使って良いのですよ?何に使うんですか?」

「本当に良いの?……ええとプランターという大きな鉢が欲しくて」

 私の言葉が分からないのかヒイラギは首を傾げる。よくよく聞いてみると『鉢』という概念がないようだった。

「そっか……私のいた世界では植物を容器に植えて育てたりするの。その容器を『鉢』というの。素材は様々ね。森はあるけど森の中で生活をするわけではないから、花が綺麗だったり自分が好きな植物を家の中で育てて楽しむの。葉を見て楽しむものは『観葉植物』と呼ばれていたわ」

「その『鉢』というのが欲しいのですね?」

「そうね。正確に言えば鉢よりも細長い『プランター』と呼ばれていたものね」

 ヒイラギは興味を持ったようで「早く作りましょう」とはしゃいでいる。板材を組み合わせ、ヒイラギが得意とする釘を使わずに板を組み合わせる技を披露してくれた。底面に排水用の穴を開けてもらい、よく見かける横長のプランターをいくつか作ってもらう。ついでに、と図々しいお願いもし、もっと底の深い物も作ってもらう。途中から人が集まり始め興味深く見ているので『鉢』の説明をしたところ、やはりみんなは驚きと興味で騒いでいた。

 まずは底面にその辺にある小石を敷き詰める。軽石がないので小石で代用だ。みんなにも水はけをよくするのと空気を入れる為に必要だと説明しながら小石を詰める。そして森の土を恵んでもらい小石の上に被せていく。そしてハコベさんを呼び、カゴを持って一緒に果樹園に向かった。
 向かう途中で、畑の土がまだ不完全なので直接畑へ植える前に発根させたいと伝えると「なるほど!」とハコベさんは感心してくれた。思わず笑みがこぼれる。

「ハコベさん、挿し木に適した枝を見繕ってもらっても良い?」

「任せて!」

 ハコベさんはテキパキと作業をしてくれ、果樹の種類ごとにカゴに入れていく。コートンは挿し木には向かないようで種から育てることにし、ペパーはツルをいくつか採取した。どの植物もあんまり採取するといけないとある程度にし、プランターの場所に戻った。
 この世界でも挿し木のやり方は一緒で、採取した枝を土に挿して水を与える。プランター毎に同じ種類の枝を挿し、余ったプランターには昨日洗ったデーツの種を植えた。種を水に浸そうかとも思ったが、この世界のものであれば上手く発芽するだろう。

 一通り作業を終え、切れ味の良い刃物を借りてデーツの木の根元に行き子株を切り離す。そしてそれは深めのプランターに植え付けた。ちゃんと雄と雌を分け、プランターに分かるように印も刻んでもらった。

「さぁこれで挿し木と株分けは終了よ。あまり日の光に当てすぎてもいけないから、少し移動させましょう」

 額の汗を拭いながらそう言えば、みんな手分けして土の入った重いプランターを持ってくれた。置き場所は悩んだが、管理と観察がしやすいように私たちの家の壁際に置いてもらった。
 大規模果樹園に向けての一歩を踏み出せたわ。どんどんと増やしていくわよ!
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」

なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。 授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生 そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』 仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。 魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。 常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。 ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。 カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中 タイトルを 「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」 から変更しました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...