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森の手直し

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  広場から充分離れた場所に森を作ったつもりでいたけれど、実際に森になっていく様を見ていると意外と距離が近かったことに気付く。どうしたものかと悩んでいるとじいやに声をかけられた。

「どうされました?何か不具合でも?」

「うん……広場から距離をとったつもりだったけど、近いなぁって思って。私ね、こんな風に想像してたの」

  じいやの他にも民が周りに集う。小石を拾い地面に『回』の字を書き外側の『ロ』と内側の『ロ』の部分に木を植え、外側と内側の間を道路として使用したら良いと思っていたと伝える。けれどこれを書いて説明しているうちにまた違う思いが沸き起こる。いつかジェイソンさんやリトールの町の人、そして国境が完成したらテックノン王国のニコライさんたちを招待したい。そんな思いに駆られる。
  だけどこの土地の不思議な力をおいそれと言うわけには行かない。なので森と共に外壁も建て、街に入るとヒーズル王国民以外は畑の方に行けないように出来ないかと呟く。

「ふむ……要塞のようにしたいのですかな?」

「うん……万が一シャイアーク国に何かされたら……って不安もあって……」

「要塞であれば、私がシャイアーク国の城にて指導していた頃の記憶がありますぞ。森の民とは全く違う建築に興味を示しまして、よく観察をしておりました」

「……それに森の回廊を組み合わせたらどうかしら?あの山からこの付近までは真っすぐの道だけど、要塞が近くなったら森の中を曲がりくねるとか……」

  山から今いる場所まで指で示す。そしてジグザグに指を動かした。

「ふーむ……そうなると私たちの移動も困難になりますぞ?まずは森を増やしてみてはいかがでしょう?森の中に道を作るのは私たちにとっては難しくありませんし」

  それもそうかと頷く。まずは森を広げるべきか。今出来ている小さな森をどうするか悩んだけれど、もし要塞を作るなら壁の中に緑が無いのは寂しいとの意見をもらい、これはこのまま残してさらに北側に新たな森を作ることに決定した。

  広場から結構離れた場所に何人も集結し作業を開始する。前回一緒に森作りをしたヒイラギと私とでチームを分けた。それぞれが少し離れた場所で作業開始だ。参加してくれた民たちは久しぶりの新鮮な土の感触や香りを喜び、汚れるのも構わず楽しそうに作業をしてくれる。
  今回は前回よりもかなりの土と苗木を採取してきたおかげで、森のベッドがたくさん出来た。苗木の中に日本で言う『ヤマイモ』とか『自然薯』と呼ばれる、森の民たちには『モリノイモ』と呼ばれるツル性のイモもあり、それも丁寧に植え付けていく。私は完成した森のベッドに、拾ってきたたくさんのドングーリを埋める。これも芽が出たら新たな森の一部になるだろう。

「あれ?そうだ。ナズナさーん!」

  当然ヒイラギチームに入っているヒイラギの奥さんのナズナさんを呼びながら近くに走り寄る。

「どうしたの?」

「あのね、香草を採取したんでしょ?」

「あ、忘れてた!」

  ナズナさんは作業に夢中ですっかり忘れていたようで目を丸くしている。

「やっぱり!それでね、この小さな森は成長するのに数日かかるから、もう出来ている森に植えたらどうかしら?お料理に使ったりするなら近いほうがいいわよね?」

「そうね。じゃあ私たちは香草を植えましょうか」

  まだ続く森作りを男性陣に任せ、私とナズナさん、他の女性陣は最初に作った森へと移動する。荷車から麻袋を降ろし中を見て驚く。確かに香草だらけだけど、圧倒的に日本のあちこちで見ることができるフキの数が多い。さらに別の麻袋を開けて度肝を抜かれた。無理やりギュウギュウに押し込まれたそれはフキの中でも大型の『秋田フキ』や『ラワンフキ』と呼ばれるあれが一株だけ、よく茎が折れなかったなと思うほど見事に押し込まれていた。

「フキばっかり!」

  驚いて声を上げる私にナズナさんは涼しい顔をして言う。

「私たちは『フゥキ』って呼んでたのよ」

「いや、美味しいけどもみんなこれが好きなの?」

  山に行けば小さなフキは取り放題だったので美樹の家では定番の山菜だった。あの独特の風味は油炒めや煮物にしても美味しい。だけどナズナさんは予想の斜め上を行く答えをくれた。

「うん。食べるのも好きだけど、葉っぱでお尻を拭くのよ。もう固いトウモロコーンの葉っぱはイヤなの!」

  女性陣を見ると全員が真顔で頷いている。確かに『フキ』の語源の一つに尻拭きから転じたと言われるものもあるけれど。さすがの美樹ですら葉っぱでお尻を拭いたことはないので、実は今私も使い心地について興味津々だ。
  フキことフゥキは地下茎を伸ばして繁殖するので、麻袋の中に根っこと地下茎を上手く丸めて入れていた。それを取り出し植えていく。そして香草も少しずつまとめて植えていく。前回の土の中に種があったのか、自然と生えている香草もあってそれを見つけると嬉しさがこみ上げる。

「……香草が上手く増えたら畑に植えられないかしら?」

「それはいい考えだわ!」

  私の提案にお料理好きの女性陣は嬉しそうにはしゃいだ。

  その後作業を続けていた私たちのところに様子を見に来たじいやはフゥキを見て「尻が!尻拭きが!」と誰よりも泣いて喜んでいた。もしかして痔なのかしら……と失礼なことを考えた私だった。
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