99 / 114
第九章 真実の歴史
9-11. 地下の奸計
しおりを挟む
薄暗い洞窟で、蝋燭の光がゆらゆらと揺れていた。
湿った匂いが立ち込める中、一塊りの黒い影が蠢いている。
「——やはり、運命からは逃れられぬか」
「はっ……」
その影の中心にいる男がフードの下で口元を歪めると、集まった男達が、半円を描くようにその前に膝づく。
くつくつと楽しそうに笑うフードの男に、恐る恐る苦言が呈された。
「しかしながら、奴らの警戒は今後、より深まるはず。そうなっては、我々の真の目的に気付かれる可能性も」
「また、歴史を繰り返さぬためにも、早急に、ご決断を……!」
「まあ、焦るな」
のんびりと応えた男に、何をおっしゃいますと言いかけた集団を、彼は片手を上げて制す。
不敵な笑みを湛えたまま、ぐるりと見回して、力強く告げた。
「準備は、すでに整っている」
男達が騒つく。過去に仕掛けた幾度もの計画は、全て失敗に終わっていた。
新たな事実が浮上した今、今後の計画を見直す必要があるために開かれた集会だ。
それなのに、話し合いもそこそこに、彼らの仕える主人は、自信たっぷりと鎮座して言い放った。
「四大王国各国の教会支部地下に、魔法陣を描いただろう」
「あれは……もう使えぬではないですか」
「ドラゴン召喚が失敗しては、もう《魔女》が触れることは……」
口々に言い募るのを、虫けらでも見るように眺めて、男は嘆息する。
「再利用、という言葉を知らないのか、お前達は」
「さ、再利用……?」
「《魔女》の魔力でなく、魔力自体に反応するように改良することは造作ない。あとは」
男は、一際邪悪な笑みを浮かべた。
滅び去った自国を取り戻すのに、その原因となった力を利用するのだ。
——屈辱の仕返しに、奴の授けた魔法とやらを使ってやろうではないか
「我ら帝国の切り札を、再編成し召喚しよう」
「ま、まさか、帝国古代兵器を……」
「なりません、我等も無事でいられるか……!」
大陸全土を焼き尽くすと恐れられ、だからこそ独裁の礎となった兵器は、《始まりの魔女》が現れるとともにその魔法によって解体された。
あれがあれば、よもやこんな身に貶める必要もなかったはずだ。
例え、再び止められたとしても、男には考えがあった。
「我が蒔いた種が、芽を出す頃だ」
この時を待ち望んでいたのだ。人ならざるものに堕ちたとしても。
《始まりの魔女》が転生し、再びこの世に現れたなら、必ずもう一度機会が訪れる。
何度も失敗した計画は、《魔女》の性質を図るには申し分なかった。
——人に成り下がった《魔女》など取るに足らん
男は、《始まりの魔女》が転生以前の記憶を有していないことに勝機を見たのだ。
以前の《魔女》であれば、心を痛めても、《始まりの魔法》を躊躇うことはなかった。
人間のように育てられた、今の《魔女》であれば、どうだろう。
男が語る計画に、不安げだった集団が、次第に歓喜の渦に包まれる。
洞窟の中に響く、称賛の声。
「クタトリア帝国再建を!」
「アトヴァル様! アトヴァル様!」
フードの下から、ちらりと金の双眸が光っていた。
湿った匂いが立ち込める中、一塊りの黒い影が蠢いている。
「——やはり、運命からは逃れられぬか」
「はっ……」
その影の中心にいる男がフードの下で口元を歪めると、集まった男達が、半円を描くようにその前に膝づく。
くつくつと楽しそうに笑うフードの男に、恐る恐る苦言が呈された。
「しかしながら、奴らの警戒は今後、より深まるはず。そうなっては、我々の真の目的に気付かれる可能性も」
「また、歴史を繰り返さぬためにも、早急に、ご決断を……!」
「まあ、焦るな」
のんびりと応えた男に、何をおっしゃいますと言いかけた集団を、彼は片手を上げて制す。
不敵な笑みを湛えたまま、ぐるりと見回して、力強く告げた。
「準備は、すでに整っている」
男達が騒つく。過去に仕掛けた幾度もの計画は、全て失敗に終わっていた。
新たな事実が浮上した今、今後の計画を見直す必要があるために開かれた集会だ。
それなのに、話し合いもそこそこに、彼らの仕える主人は、自信たっぷりと鎮座して言い放った。
「四大王国各国の教会支部地下に、魔法陣を描いただろう」
「あれは……もう使えぬではないですか」
「ドラゴン召喚が失敗しては、もう《魔女》が触れることは……」
口々に言い募るのを、虫けらでも見るように眺めて、男は嘆息する。
「再利用、という言葉を知らないのか、お前達は」
「さ、再利用……?」
「《魔女》の魔力でなく、魔力自体に反応するように改良することは造作ない。あとは」
男は、一際邪悪な笑みを浮かべた。
滅び去った自国を取り戻すのに、その原因となった力を利用するのだ。
——屈辱の仕返しに、奴の授けた魔法とやらを使ってやろうではないか
「我ら帝国の切り札を、再編成し召喚しよう」
「ま、まさか、帝国古代兵器を……」
「なりません、我等も無事でいられるか……!」
大陸全土を焼き尽くすと恐れられ、だからこそ独裁の礎となった兵器は、《始まりの魔女》が現れるとともにその魔法によって解体された。
あれがあれば、よもやこんな身に貶める必要もなかったはずだ。
例え、再び止められたとしても、男には考えがあった。
「我が蒔いた種が、芽を出す頃だ」
この時を待ち望んでいたのだ。人ならざるものに堕ちたとしても。
《始まりの魔女》が転生し、再びこの世に現れたなら、必ずもう一度機会が訪れる。
何度も失敗した計画は、《魔女》の性質を図るには申し分なかった。
——人に成り下がった《魔女》など取るに足らん
男は、《始まりの魔女》が転生以前の記憶を有していないことに勝機を見たのだ。
以前の《魔女》であれば、心を痛めても、《始まりの魔法》を躊躇うことはなかった。
人間のように育てられた、今の《魔女》であれば、どうだろう。
男が語る計画に、不安げだった集団が、次第に歓喜の渦に包まれる。
洞窟の中に響く、称賛の声。
「クタトリア帝国再建を!」
「アトヴァル様! アトヴァル様!」
フードの下から、ちらりと金の双眸が光っていた。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる