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第四章 壊れる日常
4-10. 覚醒
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ユウリは力尽きたようにガクンと膝をついた。
五人が駆け寄ると、座り込んでしまった彼女は顔を両手で覆って震えている。
「みなさん、無事ですか!」
上空からラヴレの声がして、彼はユウリの側に降り立った。その手に、楔のようなものが握られている。
「すみません。これに時間を取られました」
バラバラと地面に落とされたそれを一瞥して、ヨルンが険しい表情で、ラヴレに向き直った。
「結界用の魔導具……何でこんなものが」
「何者かが確実にあなた方を狙った、ということでしょうね。私を、足止めまでして」
まるで何と聞かれるかわかっていたかのように即答するラヴレに、苦虫を噛み潰したような顔をして、ヨルンが震えるユウリを外套ごと抱きしめる。あなた方、と言いながら、ラヴレの視線はユウリだけを見ていた。
——何者かが、《始まりの魔女》を、ユウリを、狙っている
「その何者かは、禁術に精通しているようだ」
どういうことだ、と問うラヴレに、ロッシは自らが受けた矢とその傷口に現れた紋様を告げた。
「反魔法、ですか。まさかそんな禁術を」
そんな厄介な魔法まで絡んできているとは予想しなかったのか、ラヴレが苦々しく呟いた。
禁術は、読んで字の如く禁止された魔術である。
誰とて如何なる場合でも使用してはならない魔法や魔導具を示し、その禁止理由は様々だった。
反魔法はその中でも比較的よく知られた禁術で、術者の魔力を全て使用して、相手の魔力や魔法を完全に封じる、いわば準封印魔法に位置付けられる。
これは、対象者の血を媒介に発動し、また、それを術者側から解除する術がない、という点で禁止されていた。それに加えて、明文化されていないものの、術の戻りが大きすぎて、対象者がそれを破った場合、術者は漏れなく再起不能になるという、ほぼ捨て身の魔術という危険極まりないものだった。
先程ユウリの《始まりの魔法》が反魔法を浄化した時、それがどの範囲にまで及んだのかはわからないが、森から矢を放った者達は無事ではないだろう。
さらに問題なのは、召喚魔法を使ってオーガと成った男以外の誰かが、森にいたこと——即ち、敵は組織的に動いているということだ。
だが、ラヴレには、誰が、何の目的で、という予測はついていた。
——極一部の教会関係者である幹部会のみ知る事実
彼の一存だけで、それを共有してもよいものかと考える。
例え、その助言が彼らの命を救うとしても、教会幹部である以上、慎重にならざるを得ない。
「学園長、ご指示を」
「……ああ、そうですね」
ユージンに促されて、ラヴレは思考の淵から戻ってくる。
何にしても、今日のことも教会に報告する必要があるのは必至だ。
「皆さん、お怪我はもう大丈夫なのですか」
「はい、ユウリの魔法が爆発的に発動して、全部を元通りにしてしまいました」
「では、お疲れのところ悪いのですが、休憩をしたら、学園長室までお願いします」
「ユウリは、置いていってもいいですか。あんな状態じゃ、まともに報告できるとも思いません」
ユージンの言葉に、ヨルンに抱きしめられたままのユウリの頭を、ラヴレは優しく撫でた。
俯いたその表情はわからないが、いまだに震えている肩から、彼女が嗚咽しているのだとわかる。
「そうですね。ユウリさんは、今は落ち着いて休養するべきです」
「じゃあ、とりあえず、医務塔で休ませてきます。幸いここから近いし、ユウリの消耗も激しいし」
「違うんです!」
立ち上がらせようとしたヨルンを振り払って突然大声をあげたユウリに、皆が驚いて注目する。
ぼろぼろと瞳から溢れるものを袖口で乱暴に拭い去って、彼女は顔を上げて、真っ直ぐと前を見た。
「私、思い出したんです。《始まりの魔女》としてこの世に戻ってきたときのこと」
——そして
「そんな私を育ててくれた、二人の神官のことも」
五人が駆け寄ると、座り込んでしまった彼女は顔を両手で覆って震えている。
「みなさん、無事ですか!」
上空からラヴレの声がして、彼はユウリの側に降り立った。その手に、楔のようなものが握られている。
「すみません。これに時間を取られました」
バラバラと地面に落とされたそれを一瞥して、ヨルンが険しい表情で、ラヴレに向き直った。
「結界用の魔導具……何でこんなものが」
「何者かが確実にあなた方を狙った、ということでしょうね。私を、足止めまでして」
まるで何と聞かれるかわかっていたかのように即答するラヴレに、苦虫を噛み潰したような顔をして、ヨルンが震えるユウリを外套ごと抱きしめる。あなた方、と言いながら、ラヴレの視線はユウリだけを見ていた。
——何者かが、《始まりの魔女》を、ユウリを、狙っている
「その何者かは、禁術に精通しているようだ」
どういうことだ、と問うラヴレに、ロッシは自らが受けた矢とその傷口に現れた紋様を告げた。
「反魔法、ですか。まさかそんな禁術を」
そんな厄介な魔法まで絡んできているとは予想しなかったのか、ラヴレが苦々しく呟いた。
禁術は、読んで字の如く禁止された魔術である。
誰とて如何なる場合でも使用してはならない魔法や魔導具を示し、その禁止理由は様々だった。
反魔法はその中でも比較的よく知られた禁術で、術者の魔力を全て使用して、相手の魔力や魔法を完全に封じる、いわば準封印魔法に位置付けられる。
これは、対象者の血を媒介に発動し、また、それを術者側から解除する術がない、という点で禁止されていた。それに加えて、明文化されていないものの、術の戻りが大きすぎて、対象者がそれを破った場合、術者は漏れなく再起不能になるという、ほぼ捨て身の魔術という危険極まりないものだった。
先程ユウリの《始まりの魔法》が反魔法を浄化した時、それがどの範囲にまで及んだのかはわからないが、森から矢を放った者達は無事ではないだろう。
さらに問題なのは、召喚魔法を使ってオーガと成った男以外の誰かが、森にいたこと——即ち、敵は組織的に動いているということだ。
だが、ラヴレには、誰が、何の目的で、という予測はついていた。
——極一部の教会関係者である幹部会のみ知る事実
彼の一存だけで、それを共有してもよいものかと考える。
例え、その助言が彼らの命を救うとしても、教会幹部である以上、慎重にならざるを得ない。
「学園長、ご指示を」
「……ああ、そうですね」
ユージンに促されて、ラヴレは思考の淵から戻ってくる。
何にしても、今日のことも教会に報告する必要があるのは必至だ。
「皆さん、お怪我はもう大丈夫なのですか」
「はい、ユウリの魔法が爆発的に発動して、全部を元通りにしてしまいました」
「では、お疲れのところ悪いのですが、休憩をしたら、学園長室までお願いします」
「ユウリは、置いていってもいいですか。あんな状態じゃ、まともに報告できるとも思いません」
ユージンの言葉に、ヨルンに抱きしめられたままのユウリの頭を、ラヴレは優しく撫でた。
俯いたその表情はわからないが、いまだに震えている肩から、彼女が嗚咽しているのだとわかる。
「そうですね。ユウリさんは、今は落ち着いて休養するべきです」
「じゃあ、とりあえず、医務塔で休ませてきます。幸いここから近いし、ユウリの消耗も激しいし」
「違うんです!」
立ち上がらせようとしたヨルンを振り払って突然大声をあげたユウリに、皆が驚いて注目する。
ぼろぼろと瞳から溢れるものを袖口で乱暴に拭い去って、彼女は顔を上げて、真っ直ぐと前を見た。
「私、思い出したんです。《始まりの魔女》としてこの世に戻ってきたときのこと」
——そして
「そんな私を育ててくれた、二人の神官のことも」
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