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第四章 壊れる日常

4-4. 魔力制御訓練

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 午後一番にラヴレから呼び出され、ユウリとカウンシル役員達は、医務塔からさらに学園の端へ行った、東の森の入り口付近の広場に集まっていた。

「急にお呼びたてしてすみません。今日しか時間が取れなくて」

 ラヴレは申し訳そうにそう言うと、両手を大きく広げて詠唱を始めた。
 うわんと空気が唸って金属音がするが、それ以上は何も起こらない。

「今のは……」
「この辺り一帯に、結界を張りました。この中で放出した魔力は、決して外には漏れません」

 ユウリは何となく、ラヴレがしようとしていることがわかった。それは多分カウンシルの皆も同じだろう。

「危険は、ないんですね?」
「ええ、結界外の誰にも感じることはできません。 幸いこの辺りは、人気もありませんし。ただし、ユウリさんの魔力が私の結界を上回った場合、即中止します」

 ラヴレとユージンの会話に、ユウリはぎゅっとスカートを握る。
 ユウリが学園に来た一番の目的。
 機械時計なしでの魔力のコントロールを、今日まさに訓練しようとしていると気付いて、ユウリは止め処ない不安に襲われる。
 それに気づいてか、ヨルンが側に寄ってきて、彼女の頭をポンポンと撫でた。

「大丈夫。もうずいぶん《始まりの魔法》も安定したし、普通魔法への魔力の流し方も良くなってきてる。ユウリなら出来るよ」
「気負わずに、徐々にやりましょう。今日はせめて、私の結界を破らない程度に抑えることができれば上出来です」
「はい、学園長……」
「カウンシルの皆さんは、個々の障壁と、あとは一応あたりが壊滅しないよう四点障壁の準備を。ヨルン君だけは、万が一の時私と一緒にユウリさんの周りに多重結界を張って魔力を抑えることを想定していてください」
「はい」

 ユウリは深呼吸をする。
 もう、何も知らなかった子供じゃない。使える魔法も、随分と増えた。
 それに。
 ユウリはヨルンに撫でられた自分の頭に手をやる。一人ではない、と言うことが、こんなにも心強い。

「準備はいいですか、ユウリさん」
「はい。いきます!」

 力強く頷いて頸の金具を外すと、パチパチと爆ぜる音の後、ユウリの魔力が爆発する。その質量が増すにつれ、空気が揺れ、辺りの木々が暴れ狂った。

「くっ……! 相変わらずだな」

 ロッシが眉を顰めながら詠唱し、それに倣って、ユウリを囲む四角の頂点に立った他の三人も詠唱を開始する。

「ユウリさん! 集中して!」

 暴れる魔力を抑えようと思わず両肩を抱いていたユウリは、ラヴレの声に突き動かされるように、瞑ってしまっていた瞳を開いた。
 轟々と渦巻く空気の中、ラヴレの白銅色の髪が光を反射する。

 途端に、ユウリの中に響くよく知った声。

 ——ゆっくりと、呼吸をするように
 ——貴女の思いのままに

 あれは、誰の言葉だっただろうか。

 ふう、と息を吐くと、それまで外へと広がり続けていた魔力の増加が止まった。
 ユウリが大きく深呼吸する。
 ざわざわと木々が蠢き、暴れていた空気が渦を成して上空へと立ち昇るのに比例して、ユウリの周りに魔力の揺らめきが収束していく。

「まずまずの成果ですね」

 にこりと微笑んだラヴレを合図に、皆の緊迫していた雰囲気が和らいだ。
 いまだにユウリの周りには膨大な魔力が渦巻いているが、とりあえず際限なく膨張するのを防ぐことが出来たようだ。
 初めて魔力の手綱を握れたユウリは、練習を続ければ機械時計なしで魔力の制御も可能だと分かって、安堵の表情を浮かべる。

 その表情が、一瞬で強張った。
 パキリ、と割れる音。
 驚愕に見開かれる、スミレ色の瞳。

「ナディア……」
「ユウリ、これは、一体」
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