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第三章 《始まりの魔法》
3-1. 課外授業
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《北の大地》に密集する森林は、魔導の森と呼ばれている。
学園に隣接する森は、学園を挟んで東の森と西の森に分かれており、その奥地へ進むほど魔力の影響は強くなり、危険生物も多くなる。
その代わりに、学園近くでは、森の魔力のおかげで、ここでしか見られない珍しい性質の動植物が観測され、採集や研究に用いることが出来た。
学園の授業の一環で、この森で課外授業をすることも珍しくない。
「今日は、魔導森ブドウを探して採集、その成分の分析を各自のレベルで行ってもらう。このブドウは、危険地域近辺にしか生息していないため、一歩間違えば、魔物や魔植物の群生地に足を踏み入れかねない。皆、私や助手達から離れすぎないように」
植物学の教師が説明を終えると、本日の助手であるヨルンとユージンが二手に分かれて生徒を誘導し始めた。
学園近くの森とはまた違った風景に、ユウリはきょろきょろと辺りを見回す。今日は、彼女にとって初めての課外授業だ。
「初めてこんな奥まで来た」
「あら、そうなの?」
「うん、オットー先生のとこ行ったとき、ちらっと東の森の入り口に寄り道するくらいしかしたことない」
「まあ確かに、こんな奥まで来るのは、私も課外授業の時だけだわ」
ナディアと雑談しながら、教科書に図解されているブドウを探す。魔導森ブドウは、そのまま食べると苦く、主に薬の原料や料理のスパイスとして使われ、熟成させると極上のワインになるらしい。
「あ、あれじゃない?」
「まあ、さすがユウリ!」
相変らず大げさにユウリを褒めて、ナディアはいつも通り正確に浮遊魔法を放つ。ふわりとブドウが二房、彼女の手の中に転がった。
まだ樹木の上の方に鈴なりになっているのを、お酒好きのオットーに少し持って帰ってやろうかと相談していると、数名の生徒達がこちらに来るのが見える。少し強張ったユウリの瞳に気付き、ナディアはその方向を確認してから彼女に微笑んだ。
「上級クラスの子達だわ。ちょっと行ってくるわね」
「うん、ごめんね」
「そこは、いってらっしゃいでしょ、ユウリ」
鼻をぎゅっと摘まれる。
へへ、と照れたように笑って、ユウリはナディアを見送った。そして、随分と綺麗になった自分の手の甲を見つめる。
(ナディアは優しいな)
彼女の働きかけか、完全には無くなっていないものの、嫌がらせは随分と減った。
二人で行動することが当たり前になると、遠巻きにしていた他の生徒達も少しずつ話しかけてくるようになったし、壁はあるものの、クラスメイトとして過剰に避けられることはあまりなくなったと思う。
一部の生徒はそれでもやっぱり、攻撃的ではあるのだけれど。
また、実技の時間の失敗が減って、教師達からの評価も少しずつ回復してきた。
いまだに底辺ギリギリを彷徨ってはいるが、完全に落第という事態は免れたようだ。
(独りの時間も、もう怖くない)
ただそれだけのこと、と思われるかもしれないが、ユウリにとってはこの上ない喜びだった。
ナディアがいなければ、もう挫けてしまっていてかもしれないとも思う。
一人で闘うよりも、誰かが側にいてくれることがこんなに心強いなんて、昔のユウリは知らなかった。
そんなことを思いながら、しばらくブドウの成分を書き出していたユウリが顔を上げると、あたりの生徒は疎らになっている。
ナディアはまだ帰ってきてないが、戻れば合流できるだろう。
「ちょっと、そっちは危険地域よ」
「え?」
呼び止められて振り返ると、以前ナディアといる時に言葉を交わした上級クラスの生徒達が居た。
「私達が来た方から帰った方が、ナディアさんともすぐ合流できると思うわ」
「でも」
「ああ、そっか、お一人ですもんね」
やはりまだ警戒しそうになるユウリの手を握って、彼女達は優しく微笑んだ。
「ここをずっと真っ直ぐ進めば、大きな樫の木があるの。そこを右に行けば、最初の広場に出るわ。大丈夫、私達もあと少し書き終えたら、追いかけてあげる。不安なら、その木のところで待っていて」
「あ、ありがとうございます」
丁寧な説明にほっとして、ユウリは頭を下げて示された道を歩いていく。
その背中に投げかけられる視線が鋭く冷たいことに、彼女は気づいていなかった。
学園に隣接する森は、学園を挟んで東の森と西の森に分かれており、その奥地へ進むほど魔力の影響は強くなり、危険生物も多くなる。
その代わりに、学園近くでは、森の魔力のおかげで、ここでしか見られない珍しい性質の動植物が観測され、採集や研究に用いることが出来た。
学園の授業の一環で、この森で課外授業をすることも珍しくない。
「今日は、魔導森ブドウを探して採集、その成分の分析を各自のレベルで行ってもらう。このブドウは、危険地域近辺にしか生息していないため、一歩間違えば、魔物や魔植物の群生地に足を踏み入れかねない。皆、私や助手達から離れすぎないように」
植物学の教師が説明を終えると、本日の助手であるヨルンとユージンが二手に分かれて生徒を誘導し始めた。
学園近くの森とはまた違った風景に、ユウリはきょろきょろと辺りを見回す。今日は、彼女にとって初めての課外授業だ。
「初めてこんな奥まで来た」
「あら、そうなの?」
「うん、オットー先生のとこ行ったとき、ちらっと東の森の入り口に寄り道するくらいしかしたことない」
「まあ確かに、こんな奥まで来るのは、私も課外授業の時だけだわ」
ナディアと雑談しながら、教科書に図解されているブドウを探す。魔導森ブドウは、そのまま食べると苦く、主に薬の原料や料理のスパイスとして使われ、熟成させると極上のワインになるらしい。
「あ、あれじゃない?」
「まあ、さすがユウリ!」
相変らず大げさにユウリを褒めて、ナディアはいつも通り正確に浮遊魔法を放つ。ふわりとブドウが二房、彼女の手の中に転がった。
まだ樹木の上の方に鈴なりになっているのを、お酒好きのオットーに少し持って帰ってやろうかと相談していると、数名の生徒達がこちらに来るのが見える。少し強張ったユウリの瞳に気付き、ナディアはその方向を確認してから彼女に微笑んだ。
「上級クラスの子達だわ。ちょっと行ってくるわね」
「うん、ごめんね」
「そこは、いってらっしゃいでしょ、ユウリ」
鼻をぎゅっと摘まれる。
へへ、と照れたように笑って、ユウリはナディアを見送った。そして、随分と綺麗になった自分の手の甲を見つめる。
(ナディアは優しいな)
彼女の働きかけか、完全には無くなっていないものの、嫌がらせは随分と減った。
二人で行動することが当たり前になると、遠巻きにしていた他の生徒達も少しずつ話しかけてくるようになったし、壁はあるものの、クラスメイトとして過剰に避けられることはあまりなくなったと思う。
一部の生徒はそれでもやっぱり、攻撃的ではあるのだけれど。
また、実技の時間の失敗が減って、教師達からの評価も少しずつ回復してきた。
いまだに底辺ギリギリを彷徨ってはいるが、完全に落第という事態は免れたようだ。
(独りの時間も、もう怖くない)
ただそれだけのこと、と思われるかもしれないが、ユウリにとってはこの上ない喜びだった。
ナディアがいなければ、もう挫けてしまっていてかもしれないとも思う。
一人で闘うよりも、誰かが側にいてくれることがこんなに心強いなんて、昔のユウリは知らなかった。
そんなことを思いながら、しばらくブドウの成分を書き出していたユウリが顔を上げると、あたりの生徒は疎らになっている。
ナディアはまだ帰ってきてないが、戻れば合流できるだろう。
「ちょっと、そっちは危険地域よ」
「え?」
呼び止められて振り返ると、以前ナディアといる時に言葉を交わした上級クラスの生徒達が居た。
「私達が来た方から帰った方が、ナディアさんともすぐ合流できると思うわ」
「でも」
「ああ、そっか、お一人ですもんね」
やはりまだ警戒しそうになるユウリの手を握って、彼女達は優しく微笑んだ。
「ここをずっと真っ直ぐ進めば、大きな樫の木があるの。そこを右に行けば、最初の広場に出るわ。大丈夫、私達もあと少し書き終えたら、追いかけてあげる。不安なら、その木のところで待っていて」
「あ、ありがとうございます」
丁寧な説明にほっとして、ユウリは頭を下げて示された道を歩いていく。
その背中に投げかけられる視線が鋭く冷たいことに、彼女は気づいていなかった。
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