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正君

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avid

02.CHAIN

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 少女は泣いた。自らの喉から得体の知れない者の声がしたからだ。
 劇団の人間に囲まれ、先程の歌声について何度も問われ、少女はまた泣いた。
 許嫁は、それを静かに、何かを言わせないように、何かを確かめているかのように見守っていた。
 少女はそんな許嫁を見、一度だけ軽く頷いてから、大人達を掻き分け自室に閉じ籠った。

 少女が手首を布で擦る音が聞こえた。それは少女が劇場に入った頃からの癖だった。
 少女は布で体を擦ると安心するらしい。
 手首を擦る音が強くなり、それがいつからか彼女の笑い声に変化した。
 甲高く、そして奇妙で、劇場の人間全員に聞こえる程大きな声。

 許嫁は息を呑み、部屋の扉を叩こうとしてやめた。
 それをずっと見ていた存在。少女の許嫁の兄である僕は、劇場の人間達を見た。
 彼らは皆、怯えているような、何かに納得したような顔をしていた。

 その中の一人。大柄の男がこう言った。
「悪魔に乗っ取られた」
 それを聞いた許嫁は少女のいる部屋の扉を叩いた。
「話したいことがあるんだ、出てきてくれないか」
 しかし何も反応は無く、困惑する人間達と、とてつもなく不安そうな弟。
 弟のそんな姿を見てられず、僕が扉を蹴破ると、そこに少女の姿は無かった。
 窓の無い部屋で、扉も一つしかない部屋から、人間が消えたのだ。

「悪魔に乗っ取られた」
 大柄の男が発したあの言葉が、僕達の頭に強く残った。

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