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四章
34話「시작」
しおりを挟む「松田龍馬。」
学校が終わり、これから帰ろうと鞄を肩に掛けた時、入り口の方から低い女の子の声が聞こえた。
「…?」
僕彩さん達以外で女の子の知り合いいたかな…?なんて思いながら入り口へ視線を移動させると、そこには転校生のしじゃくさんが居た。
…って、何でしじゃくさんが僕の名前を…!?
それより何で僕を呼んだの…?もしかして僕に用事?
困ったな…今からアルバイトなのに…。
でも断ったら断ったで失礼だし…早めに切り上げられるように頼もうかな…。
「えっと…し…じゃくさ…僕。」
「松田今日バイトよな。」
「え?あ、うん…バイト…だね…。」
「送ってく、話はそこで。」
「あ、分かっ…た…?」
「行くぞ。」
……なんか、よく分かんないけど…悩み事解決したっぽい…。
「なぁ、松田ってよく小説とか読むタイプの人類だったりする?」
「へ?」
廊下を歩きながら『何を話せばいいのかな』と悩んでいると、シジャクさんが突然こう質問してきた。
小説とか読むタイプの人類…?質問結構独特だな…。
「あ…ま、まぁ人並み…には…?し、シジャクさんは…?」
「詩寂。」
「え?」
「シジャクじゃなくて詩寂。」
「な…何が違うの?」
「…まだか。」
「は…?い、いや…何の話…?「まだか」って何…?」
「私は好きだよ小説、そんなに沢山読むほうじゃないけどさ。」
「あ…そ…そうなんだ…。」
…話についていけない…。
シジャクさん…分かっていたけど…本当、変わった人だな…。
シジャクさんを横目でチラチラ見ながら、なんとか話についていこうと一つ一つ頭の中でまとめていると、そんな僕を見兼ねてか、シジャクさんが少しだけ優しい口調でこんなことを話し始めた。
「…あの、カフェを題材とした小説ってあるじゃん。」
「え…あ、あるね…。」
「主人公が適当に立ち寄ったカフェでコーヒーを頼んだら…カフェにいた誰かが知ったかぶりをして、主人公を含めた店の中にいる全員から冷たい目で見られるシーンあるじゃん。」
「え…っと…?た、例えば「インスタントコーヒーと豆を挽いたコーヒーの違いが分からない」とかかな?」
「あぁ、そう、そうだ、そんな感じ。」
「じゃあ…?それがどうしたの…?」
「…主人公が頭の中で冷やかすんだ「そのコーヒーはブルーマウンテンだよ」とな…それに少し違和感があるんだ。」
「え?」
「仮に主人公の名前をAとする。Aちゃんが普通の平凡な高校生として生きていて、コーヒーに関する知識についての描写が何も無かったとしたら?「ブルーマウンテン」や「キリマンジャロ」、炒った豆の事やコーヒーの挽き方、煎れ方とかを知っていると思うか?」
「…え?」
「その子が一回もコーヒーに触れてこなかったのならどこをどう見ればいいかなんてわからないだろ、豆の名前がどこに書いてあるかなんて分からないし……それ以前に、コーヒーについて詳しくないのなら、そういう雰囲気のあるカフェにも立ち寄らないんじゃないのか?私なら立ち寄らない、適当なファストフード店で済ませるよ。」
「それの何が…?」
「そういうのを味わった事があるんじゃないか?自分の知らなかった知識が勝手に頭に流れてくるような、そんな経験を。」
「え?……え??」
自分の知らなかった知識…。
シジャクさんのその言葉を聞いた途端、怪物と会う夢の事を思い出した。
頭の中に響く重低音と威圧感。
それを、僕はどうして、ベースの弦を弾いた音だと例えられたんだろう。
「だからさ、Aちゃんがもし普通に生きていたら…アメリカンとアメリカーノの違いを分かる日なんて無いんだよ。」
普通に…生きる。
Aちゃんが普通に生きていたら…。
…僕は、今まで普通に生きれていたのかな。
今までは普通だったかもしれないけど能力を持ってしまった以上今までとは違う生き方をしなきゃいけないわけで。
智明の暴力事件の事とか、晶さんに銃を向けられた時とか、小さい子の風船を取ってあげたり、明人君に押し倒されたり、朱里さんが愚痴を言われてたり、そんな事件とか事故とか、ハプニングが日常になってしまったら。
「分かっているだろうけど…私はついさっきまでアメリカンとアメリカーノの違いなんて知らなかった。」
ずしりと重くなったような気がした。
何がかは分からないけど、胸の奥に仕舞い込んでいた何かがずしりと僕を押さえつけているような気がした。
「…ごめん、僕、今日、バイト早いんだった。」
シジャクさんから逃げなきゃ、って本能で思った。
まるで縋り付くかのように、みんなに内緒でこっそり買った青い兎を、力一杯握りしめて。
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