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「実は俺、ずっと書けないときがあって」
いきなり始まった昔話に驚く私に、まぁ所謂スランプですね、と肇さんは笑って続ける。
「そのときに文芸界から降りなかったのが、今に繋がっているんだと思います。そうじゃなかったら俺、みゃーこと出会いませんでした」
みゃーこというのは、肇さんが家で飼っている猫の名前だ。そして、例の作品を世に売り出すきっかけとなった、あの。
「あっ、つい長々と話してしまってすみません。山田さん、今日は何の用事で?」
傍に控えていた、私が来るまで彼と話していた女性が、そっと静止をかけたところで、肇さんは話すのを止めた。担当さんだろうか。スーツ姿の彼女は、肇さんと並ぶと美男美女どお似合いのカップルにも見えなくはない。
「えっと」
私は咄嗟に腕に抱えていた白紙の原稿用紙を背中に隠した。茶色い封筒に入れていたので中身は分からない、はず。
「なんでも、ないです」
私は、自分の行動を改めてみることにした。何と言うことだ、いくら才能アリの大手作家とはいえ年下に諭されるなんて。肇さんにもスランプがあったなら、私のそういう時期は今だ。ここで諦めたらダメなのだ。
行きよりも短い時間で家に辿り着いた私は、すぐさま書斎へと駆け込み、ペンを取った。
正直なところ納得する作品を作れるとは思えない。だが、駄作だっていいから、何かを書くのだ。
それが、己の今すべきことだろうと思い、私はペンを動かしたのだった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
今回は『上』『下』となっております。なんか良い話(?)が書けたなと思ったら1000字をゆうに超えていましたので。
肇さんは『晴』で登場した人、山田さんは『白』で登場した人です。たまたま設定が作家同士だったので話をリンクさせようかと。もうこうなったら人称代名詞とかどうでもいいです。名前も(私が)覚えられる範囲内でバンバン出していこうと思います。
いきなり始まった昔話に驚く私に、まぁ所謂スランプですね、と肇さんは笑って続ける。
「そのときに文芸界から降りなかったのが、今に繋がっているんだと思います。そうじゃなかったら俺、みゃーこと出会いませんでした」
みゃーこというのは、肇さんが家で飼っている猫の名前だ。そして、例の作品を世に売り出すきっかけとなった、あの。
「あっ、つい長々と話してしまってすみません。山田さん、今日は何の用事で?」
傍に控えていた、私が来るまで彼と話していた女性が、そっと静止をかけたところで、肇さんは話すのを止めた。担当さんだろうか。スーツ姿の彼女は、肇さんと並ぶと美男美女どお似合いのカップルにも見えなくはない。
「えっと」
私は咄嗟に腕に抱えていた白紙の原稿用紙を背中に隠した。茶色い封筒に入れていたので中身は分からない、はず。
「なんでも、ないです」
私は、自分の行動を改めてみることにした。何と言うことだ、いくら才能アリの大手作家とはいえ年下に諭されるなんて。肇さんにもスランプがあったなら、私のそういう時期は今だ。ここで諦めたらダメなのだ。
行きよりも短い時間で家に辿り着いた私は、すぐさま書斎へと駆け込み、ペンを取った。
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