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文字書きワードパレット 14.マタル「滴る」「曇天」「水溜まり」
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パシャリ。
足元を見れば、小さな水溜まりが靴を濡らしていた。
陸上向けの運動靴は、じわじわと泥水を吸っていく。
靴下に、足に。じわじわと。
水が浸み込んでいく感覚に、私は気持ち悪さを覚えた。
気分を転換しようと天を仰げば、曇天は一変し、コバルトブルーの空と綿菓子のような雲が広がっていた。もう雨雲は完全に通り過ぎたようだ。
天気予報は的中したが、私の心は一向に晴れない。それどころか、天候が良くなれば良くなるほど曇っていく。心にかかった薄い靄が、晴れそうで晴れない、複雑な気持ち。
外を出歩いているだけじゃ、ダメだ。一旦家に帰ろうか。
さて家路につくためには──そんなことを考えていたとき。
「てるてる坊主……」
ふと目に入った民家の窓の上。
垣根の隙間から見えたそれは、まるで私に見てほしいと言わんばかりに、見せつけるように、吊り下がっていた。ただ、このてるてる坊主、顔がない。いや、もしかしたらあったのかも知れないが、窓の外というだけあって雨風に曝される。体(と表現すればいいのか)から滴る雨水から察するに、水性ペンで描いた顔はすぐに溶け落ちてしまったのだろう。
冷たい風に吹かれくるくると向きを変える様は、とても面白い。まるでてるてる坊主がワルツを踊っているかのよう。
思わずふ、と笑いを零したとき、
「あの」
声がかかった。
いけない、不審者と間違われたか。だって見知らぬ民家の前で立ち止まって一人で笑う人間など、不気味としか表現しようがない。
「えっと、ごめんなさ」
「てるてる坊主、ですよね」
私の弁解前の謝罪を遮り、ニコリと笑いかける青年。高校生だろうか。少し大人びた風貌の持ち主だが、身に纏う服はブレザー。艶やかな黒髪は、撫でまわしたくなる衝動に駆られる。抑えろ自分。
「かわいいですよね、それ」
彼が指差した先には、先程まで私が見ていたてるてる坊主。
アイツは今もくるくると回っている。
「あのてるてる坊主、うちの弟が作ったんですよ」
「え?」
もしかして、ここの家の住人?
なら、尚更謝る必要がある。
「あの、ごめんなさい」
「? 何がですか?」
「……てるてる坊主、勝手にじろじろ見ちゃって」
あぁなんだそんなこと、と言いたげな彼の顔は、すぐさま明るいものへと変わった。
「いえ、俺としても自慢の弟の作品はたくさんの人に見てもらいたいですよ。なんなら、世界中の人に、『見ろー! これが弟作のてるてる坊主だー!』って」
「ふふ」
自然と口から笑い声が飛び出した。
だって、彼の声真似がどこか面白かったから。
「かわいいですね、弟さんのてるてる坊主」
時間差だったが、彼の言葉に同意する。
「てるてる坊主だけじゃなくて弟も可愛いですから」
真顔で弟自慢を仕掛ける彼は、重度のブラコンだと思う。
こんなにかっこいいのにな、と思うと、残念なイケメンという響きにまた笑った。
「じゃあ今度紹介してもらおうかな」
「いいですよ」
冗談で言ったつもりだったのだが、今後また会う約束をしてしまった。
無防備というか、警戒心はないのだろうか。もしかしたら私は空き巣で、この家の下見に来ていたとか。もちろんそんなつもりはないし、そんな予定もない。だが、やはり一度会っただけの人間にここまでフレンドリーなのはどうかと思う。
正直に言おう、もうここには来ないと──
「あの、私やっぱり──」
「一目惚れですよ」
またしても遮られた。もう。
じゃなくって。
「何がですか?」
聞き間違いだ、きっと。
それか、私の単なる勘違い。
「俺、あなたのこと好きになりました」
いくら何でも率直すぎる告白に、私の頭はフリーズした。
泥だらけの足で舞踏会に行くシンデレラ。魔法使いの魔法がかかっていない私でも、あなたは私を好きになってくれるの?
突然の出会いに、もやもやも吹っ飛んで。
王子の魔法にかかった私は、何度でもあなたに会いに行くわ。
‐ - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ふぅやっと終わった。こちらは私の別アカのフォロワー様がリクエストしてくださったものです。
ただいまの時刻は23時23分! 予約公開を設定しているので、事前にいくつか書き溜めているのです。眠い。けどまだ学校の宿題を何一つ終わらせていないという衝撃の事実。でもせっかく三日坊主の私がここまで続けられてるんだからこんなところで更新を途切れさせてたまるかっ! ……って心意気で書いております。
腐っている(意味深)私でも普通の恋愛小説の序章みたいなの書けた! と喜んでいる深夜テンションの私は放っておいて。
……リクエスト、残すところあと一つとなりました。欲を出せば、もっともっとリクエスト貰って書きたいです。いっぱいいっぱい書きたいです。
おっといつの間にか1000字超えどころか2000字が迫っているぞ……(汗)
お願い、心優しいそこのあなた! リクエスト! 待ってます!
足元を見れば、小さな水溜まりが靴を濡らしていた。
陸上向けの運動靴は、じわじわと泥水を吸っていく。
靴下に、足に。じわじわと。
水が浸み込んでいく感覚に、私は気持ち悪さを覚えた。
気分を転換しようと天を仰げば、曇天は一変し、コバルトブルーの空と綿菓子のような雲が広がっていた。もう雨雲は完全に通り過ぎたようだ。
天気予報は的中したが、私の心は一向に晴れない。それどころか、天候が良くなれば良くなるほど曇っていく。心にかかった薄い靄が、晴れそうで晴れない、複雑な気持ち。
外を出歩いているだけじゃ、ダメだ。一旦家に帰ろうか。
さて家路につくためには──そんなことを考えていたとき。
「てるてる坊主……」
ふと目に入った民家の窓の上。
垣根の隙間から見えたそれは、まるで私に見てほしいと言わんばかりに、見せつけるように、吊り下がっていた。ただ、このてるてる坊主、顔がない。いや、もしかしたらあったのかも知れないが、窓の外というだけあって雨風に曝される。体(と表現すればいいのか)から滴る雨水から察するに、水性ペンで描いた顔はすぐに溶け落ちてしまったのだろう。
冷たい風に吹かれくるくると向きを変える様は、とても面白い。まるでてるてる坊主がワルツを踊っているかのよう。
思わずふ、と笑いを零したとき、
「あの」
声がかかった。
いけない、不審者と間違われたか。だって見知らぬ民家の前で立ち止まって一人で笑う人間など、不気味としか表現しようがない。
「えっと、ごめんなさ」
「てるてる坊主、ですよね」
私の弁解前の謝罪を遮り、ニコリと笑いかける青年。高校生だろうか。少し大人びた風貌の持ち主だが、身に纏う服はブレザー。艶やかな黒髪は、撫でまわしたくなる衝動に駆られる。抑えろ自分。
「かわいいですよね、それ」
彼が指差した先には、先程まで私が見ていたてるてる坊主。
アイツは今もくるくると回っている。
「あのてるてる坊主、うちの弟が作ったんですよ」
「え?」
もしかして、ここの家の住人?
なら、尚更謝る必要がある。
「あの、ごめんなさい」
「? 何がですか?」
「……てるてる坊主、勝手にじろじろ見ちゃって」
あぁなんだそんなこと、と言いたげな彼の顔は、すぐさま明るいものへと変わった。
「いえ、俺としても自慢の弟の作品はたくさんの人に見てもらいたいですよ。なんなら、世界中の人に、『見ろー! これが弟作のてるてる坊主だー!』って」
「ふふ」
自然と口から笑い声が飛び出した。
だって、彼の声真似がどこか面白かったから。
「かわいいですね、弟さんのてるてる坊主」
時間差だったが、彼の言葉に同意する。
「てるてる坊主だけじゃなくて弟も可愛いですから」
真顔で弟自慢を仕掛ける彼は、重度のブラコンだと思う。
こんなにかっこいいのにな、と思うと、残念なイケメンという響きにまた笑った。
「じゃあ今度紹介してもらおうかな」
「いいですよ」
冗談で言ったつもりだったのだが、今後また会う約束をしてしまった。
無防備というか、警戒心はないのだろうか。もしかしたら私は空き巣で、この家の下見に来ていたとか。もちろんそんなつもりはないし、そんな予定もない。だが、やはり一度会っただけの人間にここまでフレンドリーなのはどうかと思う。
正直に言おう、もうここには来ないと──
「あの、私やっぱり──」
「一目惚れですよ」
またしても遮られた。もう。
じゃなくって。
「何がですか?」
聞き間違いだ、きっと。
それか、私の単なる勘違い。
「俺、あなたのこと好きになりました」
いくら何でも率直すぎる告白に、私の頭はフリーズした。
泥だらけの足で舞踏会に行くシンデレラ。魔法使いの魔法がかかっていない私でも、あなたは私を好きになってくれるの?
突然の出会いに、もやもやも吹っ飛んで。
王子の魔法にかかった私は、何度でもあなたに会いに行くわ。
‐ - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ふぅやっと終わった。こちらは私の別アカのフォロワー様がリクエストしてくださったものです。
ただいまの時刻は23時23分! 予約公開を設定しているので、事前にいくつか書き溜めているのです。眠い。けどまだ学校の宿題を何一つ終わらせていないという衝撃の事実。でもせっかく三日坊主の私がここまで続けられてるんだからこんなところで更新を途切れさせてたまるかっ! ……って心意気で書いております。
腐っている(意味深)私でも普通の恋愛小説の序章みたいなの書けた! と喜んでいる深夜テンションの私は放っておいて。
……リクエスト、残すところあと一つとなりました。欲を出せば、もっともっとリクエスト貰って書きたいです。いっぱいいっぱい書きたいです。
おっといつの間にか1000字超えどころか2000字が迫っているぞ……(汗)
お願い、心優しいそこのあなた! リクエスト! 待ってます!
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