スコア稼ぎ短編小説集

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 ぼこっ、ぼこぼこっ。
 墓場の一角。木の根が地上に出るように、ソレは起き上がった。
 腐り爛れた肌、窪んだ瞳、削げ落ちた鼻、白髪。

 ゾンビ、と呼ばれる存在である。

 ソレはすぐには動けないらしく、立ち上がってから数秒間、よたよたとバランスを崩しながらも賢明に倒れないように踏ん張っていた。
 しかし、もとより筋肉の少ない足には無理があった。ドサリと崩れ落ちる。

 座ったままのソレが、クルリとこちらを振り返った。
 私とソレの目が合う。

 私は一目散に逃げ出した。
 きっと、おそらく、いや確実に、私に気付いただろう。
 いくらソレが立ち上がるのが困難だとして、私を追う方法は他にいくらでもあるだろう。

 無我夢中で走った私は煉瓦造りの民家の並ぶ街角で足を止めた。
 途端、聞こえてくる足音。

 ひた、ひた。

 リズムはかなりゆっくりで当分追い付かなさそうかと思い安堵したが、いや待て、と考え直す。
 私の耳に足音が聞こえる、ということは、私は走ったのにソレは歩いて私に追い付いてきた──のか?

 ひたひた。

 足音の速度が上がった。
 まずい、このまま逃げていても追い付かれる────

『まっデ、ョ』

 耳元で、ソレが言葉を発した。

「ひいぃっ」

 必死で距離をとろうとする私。後退りの末、尻餅をついてしまった。
 もう逃げられない、死ぬのはいやだ──

『わダじ、人げン、ごロサなi』

 ソレががらがら声で、二言目を話す。
 ──なんだって? 人間を殺さない?
 ゾンビの言葉なんか信じるか。私は騙されないぞ。
 私は、立ち上がろうとした。が、腰が抜けてしまったのか、力が入らない。

「あれ、あれっ?」

 私はここにいてはいけないのだ。
 これから町人を集めてコイツを──

 ソレが、私に向かって手を差し出していた。

 既に肉はなく、皮膚がぶら下がっている手だったが、ソレが、私に、差し出したのだ。
 あり得ない、と思うだろう。しかし私はそれから数年間、ソレと付き合った。

 ある日、いつもの時間、いつもの場所──墓場に来ると、ソレはもういなくなっていた。
 一体何処に行ってしまったのか。探したが、見つけることはなかった。

 あの、名もない友人に、再び逢えることを願って────

                               19xx年10月19日
                             『しがない物書きの手記』より
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