カルバート

角田智史

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 しずか 3

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 その頃また、僕はこれ以上ない程に女の子から誘われていた。もちろんMK内の人数が増えた事も大きいが、しずかとも定期的に飲みに出ていた。

 誰にも言えなかったさきとの事は、しずかには言いやすかった。そもそもの拠点が違う事もあり、現金な彼女は自分に不利益を被るような事は決してしない。ある意味、そういった部分では最も信頼している人間で、MKで起こっている事を彼女に話したとしても、彼女にとってそれを口外する事は僕とのタダ飯や同伴が無くなってしまうという可能性、デメリットしか残らず、そういった意味で、僕はMK内部のドラマを安心して話す事ができた。

 山之内の事はもちろん、正造と何が起こったのか、真理恵への僕の想いもほぼ知っていて、さきにも会った事もあり、僕の夜の世界では一番の理解者と言っても過言ではないかもしれない。
 少し距離がある事もあり、なかなかこちらから飲みに行くのも、しずかがこちらへ来るのも億劫でもあり、よほど何かない限りは飲みにいかないが、しずかの誘いを蹴るといつも〔くそ〕と返信が返ってくるのだった。

 彼女的存在ができた事を伝え、しずかの誘いを蹴ると、
 〔え、彼女ができたら飲みいけんと?〕
 と試すように言ってきたが、
 〔金と時間は彼女優先にする〕
 そう伝え、
 〔くそ〕
 〔嫁優先にしろよ〕
 と言ってきたので、
 〔さーせん〕
 と素直に謝った。
 〔わかれろわかれろ〕
 〔若いからすぐ終わるんちゃう?〕
 〔別れたら飲みいこうや〕
 〔ろくでもない奴やな〕
 そんなような絡みをしていた。

 さきへ距離を置こうと言ったその日、僕は
 〔別れた〕〔はやいやろ〕
 としずかにLINEした。
 〔はやっwwwwwww〕〔なんでね〕
 〔いや、そーゆーのって話せば長いじゃん〕
 〔た、たしかに〕
 〔もうしずちゃんしかおらへん〕
 〔なんか始まったー〕
 〔たぶんこういうところが嫌やったっちゃろうね〕
 〔どこや〕
 〔女の陰が多いと〕
 〔間違いねえ〕
 〔さーせん〕
 〔飲みやね〕
 〔ちっ〕〔さきかと思ったらしずかか〕〔今日やな〕
 という流れで、次の日にしずかが延岡に来て飲む事になった。

 綱吉のカウンターだった。先に入っていたしずかはハイボールを飲んでいた。僕が隣に座って、
 「食欲ないねん。」
 僕がそう言うと、
 「へこむなって。19の子に振り回されんじゃねえよ。」
 と、そんな事を言われ、わざわざ失恋話を聞く為に、(しずかからすれば興味本位、冷やかしな部分も多分にあったんだろうが)延岡まで来てくれた事をありがたく思った。
 「なんでやったと?」
 当然のようにしずかは聞いてはきたが、僕はそれに対して上手い答えは導き出せなかった。
 しずかも同様に、最近失恋した事を言ってきて、
 「お前が失恋したら日向まで行って奢っちゃるわ。」
 そんなまるで男同士のような会話を繰り広げてはいたが、その状況とあまり口に物が入っていかない事も重なり、ハイボールだけが進んでいく状態で、僕は悪酔いしていった。

 「今日はさきがいるからMKには行けん。」
 綱吉を出て、2人でよく行くスナックへ行ったのだが、しずかはやはりMKに行こうと言ってきて、それは伝えてはいたが、しずかはそれをまた楽しむようにMKへと足を進めていったのだった。失恋したばかりの2人は投げやりでしかなかった。

 昨日の今日、そんな状態で僕はさきと会ったのだった。そしてそれは違う女の子と2人で店に入るという最悪な状況で、悪酔いしていた僕はMKに入ってからの事をほぼ覚えていなかった。後に聞けば「死ね!」と連呼していたらしかった。

 「失望」

 そんな眼差しでさきはずっと僕を見ていた。
 僕はさきの目を見る事は出来なかった。
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