カルバート

角田智史

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 正造 4

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 確信に変わったのだった。
 
 これまでずっと、仕事、家庭、夜、そんな中で様々な形でストレスを受け、それに至ったという理解だったが、その最終的なトリガー、それが最悪の形で、正確に僕に伝わった。
 これまでずっと、僕や、支社長、まき、彼を心配して、そしてどうすれば、成長していくのか、考えてきた。大きな課題だった。それは、幼稚園児に対するように、分かりやすく、彼の中に入っていくように、試行錯誤しながらの作業だった。
 その全ては、一瞬にして無くなった。
 そしてその原因は、目もあてられないものだった。

 僕らは、こんな無意味な事の為に、一生懸命になっていたのだろうか。

 僕ならまだいい。
 支社長や、まきは。
 そして、その気持ちは。
 そう考えると、決して許せるものではなく、僕はそれが脳裏をかすめる度に、苛立ちを覚えた。

 結局彼は、同グループの別会社への異動となった。一時間超の電車通勤となった。「大変やなあ」という人がいても僕は「いや、自業自得でしょ」とスッパリと切り捨てた。

 荷物の整理の必要があり、彼は、最後に出社した。
 彼のデスクは、僕の目の前だった。やはり彼は「お疲れ様です」としか言わなかった。そして机の引き出しの一つ一つの書類や何やらを取り出しては、手に取って、何か考えるようにしながら、作業をしていた。
 当然、僕は記憶を無くした事がないから、分からないが、そんな書類の一つ一つ、それは記憶を取り戻す為の重要なツールなんではないだろうか。
 しばらく、その様子を目の前で見ていたが、彼は最後まで、僕にも、周りの人間にも、何も聞く事も、話す事もかったので、僕は会社から出る事にした。僕は冷やかしと、カマをかける意味も込めて、一言だけ、交わした。
 「シュレッダー、あそこにあるかいよ。」
 記憶がないのであれば、シュレッダーの場所は知る由はない。そして、見積関係は機密書類となるので、必ずシュレッダーにかけないといけない。先輩として、当然の助言だった。
 「…シュレッダー…」
 彼は、無駄に席を立って少し歩き、僕が指さしたシュレッダーを確認していた。
 「ああ…はい、分かりました。」
 彼に会話をする気はさらさらないようだった。

 すぐここに、彼の中の消えた1年半の記憶、その重要人物が目の前にいるにも関わらず、彼は何も聞いてきはしなかった。
 僕には分からない。分からないが、迷惑をかけてなかったのか、どういう風な自分だったのか、気に、ならないのだろうか。これがもし、自分の立場だったら、方々に連絡を入れるだろう。そして、教えてもらうだろう。記憶がない期間の自分について、そして聞いたあとに「迷惑かけましたけど、これからも宜しくお願いします。」と言うだろう。

 僕はひたすら、彼を殴りたかった。

 ただ、それをしてしまうと、記憶がない彼からすれば「何も知らないのに、いきなり殴られた」そんな謎の人物となってしまい、下手をすれば、見方を変えれば「何も覚えてない人にいきなり殴りかかるなんて、なんてひどいんだ」と、理解の少ない外野から、そんな解釈に発展する可能性もあり、僕にはそれができなかった。
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