カルバート

角田智史

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 なつみ

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 「誠に申し訳ありません。」
 
 2階のドアを開けて見える小さな机、それを挟んでそう言った時、まきは、
 「なんで知ってると?」
 とお角違いな答えを返してきた。
 その時に、明らかに彼となつみの間で何かがあったというのは勘づいてはいた。

 古賀さんと話していた。
 僕は前述した通り、何かがあったと思っていた。
 しかしながら、古賀さんは実際にそれがあったのではなく、何等かの噂を彼が言いふらしたのではないか、という推論であった。例えば店の子の誰かが尻軽だとか、そういったものだった。
 「そうかも知れませんね…。」
 と言いつつも、正造となつみの2人の姿を思い起こすと、何かがあってもおかしくはない、と思っていた。
 なつみの印象は僕の中で悪かった。
 綺麗な顔立ちで、スタイルも良かった。ゆるふわっとした天然キャラといったのが最初の印象だった。古賀さんからのなつみに対する愚痴も良く聞いていた。

 そして僕は実際に被害も受けていた。
 カウンター越しになつみと喋っていると、僕が言った一言が気に食わなかったらしく、僕のおでこをバチン!と叩いてきたのだった。いい音がした為、店の中は一瞬にして静まり帰った。
 ここみや他の女の子が一生懸命に僕を気遣い、謝ってきた。
 100歩譲って、叩かれたその事はいい。僕が失礼な事を言ったのかもしれない。
 だが、店の中が一瞬にして白けた空気になった事と、従業員として客にやっていけない事をしてしまった事、何より、一番気分を害したのが、まきとここみが僕に謝らなければならない事だった。

 僕はまきを大事に思っている。
 まきもまた、僕を大事にしてくれている。
 まきはここみを大事にしている。
 まきが僕を大事にするから、ここみも僕を大事にしてくれる。
 だから僕はここみを大事にしている。

 僕がこちらにきて、そして創り上げてきた、MKでの人間関係。
 これを侮辱したり、波立たせる事は、僕にとっては許せない事だった。

 ある日一度、MKで正造に聞かれた事がある。
 「角田さんて、怒ったりする事あるんですか?」
 僕は、言いたくなかったが、本人を目の前にして言った。
 「俺が大事にしてる物とか、人とか、その気持ちを無下にされるのだけは腹が立つ。」
 彼に向けて言った言葉である事を、彼はまた気づいた様子もなく、また違う話を繰り広げるのだった。

 なつみの言動は常に、周りへの配慮が少ないものだった。

 ナチュールにはお客さんが入っているらしかった。
 「ん?」「ん?」という空気が流れ、
 「誰もいない時じゃないと喋れんね…。」
 とまきは言ったが、僕の心はもう決まっていた。

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