カルバート

角田智史

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 MK 3

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 感情を露わにする事は、今までの人生で、数える程しかなかった。
 「正造、ちょっとこい。」
 そう言って僕は会議室に入っていった。
 
 2人対面して座った。僕の顔は半笑い、手も声も、震えていた。
 「あんよ、支社長に二次会の事言った?」
 それまでに支社長との会話でまだ伝わっていない事は分かっていた。支社長は「まあ、俺には来てほしくないんじゃない?」と言ってはいたが、会社全体の飲み会で支社長を誘わないのはあり得ない。これはさらっとノリで飲みに出るような話ではないのだ。
 「いや、まだっす。」
 「普通よ、そういうのって支社長が一番やとよ、次は業務課長やとよ。今日やんもう。」
 業務課長に言っていない事も僕は知っていた。
 「後輩には言ったと?」
 「いや、電話番号知らないんで。」
 無駄にはきはきと答える正造は、僕を更に苛立たせた。
 「番号とか人に聞いて連絡すればいいやん。」
 「いや、僕だったら勝手に番号聞かれるのは嫌ですね。」
 作り上げられた薄ら笑いを浮かべて正造は言った。何を言っても彼に受け付けられる事はないようだった。自分が責められる事に対して、もう何も入っていかないようだった。
 下手に理屈付けしても拉致が開かないと思った僕は、一番、言いたかった事を正造へ伝えた。

 「あんよ…、まきがなんで契約してくれたと思っちょっとや!?」
 「まあ、角田さんが言ったからか…、なんでなんですかね?」
 正造は変わらない表情で、首を傾げるようにして言った。

 「お前に頑張って欲しいからやろうが!」

 ナチュールの契約を取ってからも、ほぼ毎日、長時間、彼がいつもの駐車場でサボっているのを、僕は見ていた。
 僕は静かにしか、言葉を発せられなかった。声を荒げる事は今までの人生で一度もない。正造は何も返してこなかった。
 これまでもずっと、正造の事は何度も、まきと話をしていた。それは、2人の子供のような感覚に近かった。どうすれば育っていくか、そんな話が多かった。
 「MKにも準備があるっつよ。とりあえず支社長に今からでも言えて。」
 僕は会議室を出た。

 会議室を出たあと、正造はようやく、支社長へたどたどしく、二次会の報告、出席のお願いをしていた。
 僕はもう、あきれ果てててはいたが、MKに迷惑を掛ける、その事だけは避けなければならない、そう思っていた。

 
 
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