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カルバートが読まれる前に 8
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「胃腸炎になってる」
それを言うと母は少し間を空けて、
「あんたは胃腸炎になるぐらいで丁度いいっちゃが」
そう言いながらも、
「おかゆにしようか?」
そう聞いてきたので僕は頷いた。
いつも冷たくあしらっている母からのLINE。
〔今度の土日に帰ってきない〕
その内容に僕は観念した気持ちになっていた。返信に、
〔了解です〕
とだけ返して、僕はいついくとも伝えずに、早朝から実家へ向かった。
ただ単に、向こうを非難するだけでは、こちらの落ち度まで説明していかなければならないし、下手に伝えてしまうと両家の確執にすぐにでも発展してしまう恐れがあった。
我々の選択のベスト、そしてベター、これからするはずの報告、詰問のベスト、ベターは一体どこにあるのかをひたすらに考えはしたが、体調不良もある中で長時間ドライブ、なかなか頭も働くはずもなかったが、端的に見ての事実、受ける立場としても感情的にもならないように、あるがままそのままを伝えてしまうにはリスクが大きく、予想される質問に対して、取捨選択をしながらベストな回答を模索していった。
「今日は向こうのお義父さんがあんたんちにいって話し合いをしてるとよ、あんた知っちょったね?」
この事を全く知らなかった僕は驚いた。
「いや…」
回らない頭で何かしらの違和感を覚えていたが、今となってはハッキリと分かるのである。
40近い2人の離婚話に何故こんなに親がしゃしゃり出てくるのか、という事であった。
「もう、全然そんな風に思ってなかったからこっちはビックリしたとよ、なんでね?何がどうなってるのかこっちは全然分からんが。子供の事に興味がないって向こうは言ってるけど、そうやとね?そんな事はないじゃろう?」
僕は頷いた。
そもそも論で、それが離婚の原因として挙げられる事が僕には中々納得できるものでもなかった。
こと、いつだってそうで、母親とこういった事を話す時にはほぼ一方的に向こうがしゃべっていって、僕が言葉を発するチャンスは数少ない。問答の中である程度、僕がもう「別れたくない」とかそういった意識がない事は雰囲気で先方も勘づいていったようだった。
ご飯を作らない、食器を洗わない、洗濯物を畳まない、家が汚い、僕の頭の中にずっとあるこの全てを伝える事は得策ではないと本能的に感じていたが、ご飯を作らないという事だけは問答の中で唯一、僕の防護柵として伝える事ができた。
「大体そうよね、あの子はこっちにおる時からそういう事はあんまりせんかったもんね。」
少し口を尖らせたようにして母、いや姑は言った。
人間によっては、一つ悪い部分にフォーカスされると、あれもこれもとボロボロと出てきて、その人は悪い人のようなレッテルを貼られる。僕はその風潮が幼少期の頃から嫌いで決して自分はそうはならないと強く信じて生きてきた。今回も一つだけに絞ったのはそういった理由もあったからだった。
それから母は昔の話をほじくり返し出し、そもそも論の向こうの親に対しての愚痴に近いところまで発展していったが、正直なところ、僕の意見は表には出さないものの、母とほぼ同じだった。
「ほんとに離婚するしかないとね?」
つらつらと並べられた愚痴に近い言葉が途切れた後に、いよいよもって僕に発言のチャンスがきた。僕は準備していた答えを口から出した。
「普通に考えて、こういった事を思うんだったら、俺だったら友達とか、職場とか色んな人に相談もするし、色々と調べるのが普通だと思うけど、今回のこれはそういった事をしてるようには思えない。」
2人は純粋に僕の言葉を聞いているように見えた。
「それで、あんたは実際どうやとね?」
これもまた、準備していたこれだけは伝えるべきだと思っていた建設的な意見だった。
「最近の嫁の様子を見ていると、正直、どういった形にせよ環境を変えるというのは有効な手段だと思ってる。」
この言葉は母にも父にもスッと胸の中に入っていったようだった。
それを言うと母は少し間を空けて、
「あんたは胃腸炎になるぐらいで丁度いいっちゃが」
そう言いながらも、
「おかゆにしようか?」
そう聞いてきたので僕は頷いた。
いつも冷たくあしらっている母からのLINE。
〔今度の土日に帰ってきない〕
その内容に僕は観念した気持ちになっていた。返信に、
〔了解です〕
とだけ返して、僕はいついくとも伝えずに、早朝から実家へ向かった。
ただ単に、向こうを非難するだけでは、こちらの落ち度まで説明していかなければならないし、下手に伝えてしまうと両家の確執にすぐにでも発展してしまう恐れがあった。
我々の選択のベスト、そしてベター、これからするはずの報告、詰問のベスト、ベターは一体どこにあるのかをひたすらに考えはしたが、体調不良もある中で長時間ドライブ、なかなか頭も働くはずもなかったが、端的に見ての事実、受ける立場としても感情的にもならないように、あるがままそのままを伝えてしまうにはリスクが大きく、予想される質問に対して、取捨選択をしながらベストな回答を模索していった。
「今日は向こうのお義父さんがあんたんちにいって話し合いをしてるとよ、あんた知っちょったね?」
この事を全く知らなかった僕は驚いた。
「いや…」
回らない頭で何かしらの違和感を覚えていたが、今となってはハッキリと分かるのである。
40近い2人の離婚話に何故こんなに親がしゃしゃり出てくるのか、という事であった。
「もう、全然そんな風に思ってなかったからこっちはビックリしたとよ、なんでね?何がどうなってるのかこっちは全然分からんが。子供の事に興味がないって向こうは言ってるけど、そうやとね?そんな事はないじゃろう?」
僕は頷いた。
そもそも論で、それが離婚の原因として挙げられる事が僕には中々納得できるものでもなかった。
こと、いつだってそうで、母親とこういった事を話す時にはほぼ一方的に向こうがしゃべっていって、僕が言葉を発するチャンスは数少ない。問答の中である程度、僕がもう「別れたくない」とかそういった意識がない事は雰囲気で先方も勘づいていったようだった。
ご飯を作らない、食器を洗わない、洗濯物を畳まない、家が汚い、僕の頭の中にずっとあるこの全てを伝える事は得策ではないと本能的に感じていたが、ご飯を作らないという事だけは問答の中で唯一、僕の防護柵として伝える事ができた。
「大体そうよね、あの子はこっちにおる時からそういう事はあんまりせんかったもんね。」
少し口を尖らせたようにして母、いや姑は言った。
人間によっては、一つ悪い部分にフォーカスされると、あれもこれもとボロボロと出てきて、その人は悪い人のようなレッテルを貼られる。僕はその風潮が幼少期の頃から嫌いで決して自分はそうはならないと強く信じて生きてきた。今回も一つだけに絞ったのはそういった理由もあったからだった。
それから母は昔の話をほじくり返し出し、そもそも論の向こうの親に対しての愚痴に近いところまで発展していったが、正直なところ、僕の意見は表には出さないものの、母とほぼ同じだった。
「ほんとに離婚するしかないとね?」
つらつらと並べられた愚痴に近い言葉が途切れた後に、いよいよもって僕に発言のチャンスがきた。僕は準備していた答えを口から出した。
「普通に考えて、こういった事を思うんだったら、俺だったら友達とか、職場とか色んな人に相談もするし、色々と調べるのが普通だと思うけど、今回のこれはそういった事をしてるようには思えない。」
2人は純粋に僕の言葉を聞いているように見えた。
「それで、あんたは実際どうやとね?」
これもまた、準備していたこれだけは伝えるべきだと思っていた建設的な意見だった。
「最近の嫁の様子を見ていると、正直、どういった形にせよ環境を変えるというのは有効な手段だと思ってる。」
この言葉は母にも父にもスッと胸の中に入っていったようだった。
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